【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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203.【仲間モンスター回】探し人を求めての不安

 

 その後、一行は速度を上げて火山を目指した。

 周囲から次第に緑が失われ、代わってごつごつした岩肌が目立つようになる。道は馬車が行き交いできる程度に広いが、他方、進めば進むほど空気に独特の匂いが混ざり始め、心なしか気温も上昇していた。

 モンスターの襲撃を退けながら、アランたちはひたすら進む――その道中、幾度目かの休息時のことだ。

 

『うふ。ふふふ』

『うれしそーだナ』

 

 今にもスキップしそうなほど機嫌が良いクックルに、ドラきちが声をかける。彼女は小さな羽をさわさわと動かした。

 

『それはもう! フローラお嬢様の健気なお姿を見ているだけで最高ですわ!』

『クックルさん、涎出てます』

 

 彼女の背にとまりながらコドランが嘆息する。また彼女の悪い癖が出た、と言わんばかりだった。

 するとチロルの頭の上に乗っかったスラリンが不思議そうに言った。

 

「でもさ。クックルってフローラばっかりほめるよね。デボラはどうしたの?」

『あの御方は確かに美しいですが、少々品に欠けますわ。何だかアラン様にも馴れ馴れしいですし』

 

 一転してぶすっとした声音で答えるクックル。基本的に清楚か凛々しい美人が大好物で、主人であるアランに馴れ馴れしい人間が苦手らしい。「わかりやすい性格ねホント」とはメタリンの弁だ。続けて彼女はぼやく。

 

「でも、あたしもどっちかってーとデボラは苦手だなあ」

「そうかのう。儂はすこぶる面白い人間だと思うがの」

 

 休憩だというのに珍しく馬車から出てきたマーリンが頬をかきながら言う。仲間たちが怪訝な表情を浮かべると、彼はデボラそっくりのにやりとした笑みを浮かべた。

 

「今、馬車の中ではアラン殿とフローラ嬢、デボラ嬢が仲良くお話中じゃ。邪魔するのは無粋というものじゃて」

『そんな愉快な話題ではなさそうだ、爺』

 

 同じく馬車からこちらにやってきたサイモンが言う。固い岩場を歩くと彼女の鎧が重い音を立てたが、このときはその歩調もまた重苦しいものになっていた。

 

『さきほどの旅人たちのこと、貴方たちも見ただろう』

『馬車を引き連れたあの連中のこと?』

 

 チロルが尋ねる。サイモンはうなずいた。

 

 火山の陰がいよいよ大きくなってきたところで、一行は開けた岩場で野営する人間たちの一団に出くわしたのだ。

 アランが話を聞いたところ、どうやら彼らはとある裕福な人間に雇われた一団で、サラボナから火山に向かう人間を送っていたと言うのだ。

 

『もしかして、ルドマンが?』

『いや。彼が雇ったのではないらしい。けれど、フローラ嬢の結婚話に合せて組織された連中には間違いないから、ルドマン邸に集まった人間たちのうち誰かが、火山までの足として彼らを用意したと考えるべきだ』

「おお、その話なら儂もさきほど耳にしたぞ」

 

 サイモンの話を受け、マーリンが手を叩く。

 

「何でも、その連中は雇い主だけでなく、同じく火山へ向かおうとしていた者たちも連れて行ったらしいぞ」

「へぇ。人間にもずいぶん気前のいいヤツがいるのね」

 

 メタリンが感心したようにつぶやくと、マーリンは肩をすくめた。

 

「ところがどっこい、同行した奴らからちゃーんと料金をせしめたそうじゃ。しかもそのほとんどが道中でのモンスター遭遇に怖がって逃げ帰ってしまったそうじゃわい。逃げた連中からすればまさしく払い損じゃろうが、ま、世の中はそう甘くないということじゃな」

 

 チロルがわずかに目を細めながら問う。

 

『ということは、アンディもその一団を利用していたということかしら。道理で進めど進めど追い付けないはずだわ』

『アンディさん、僕たちが見てもそんなにお金を持っているようには見えませんでしたが……大丈夫なのでしょうか』

 

 コドランが小さく唸りながら不安の声を上げる。「まさに、我らが主もそこを心配しているようじゃ」とマーリンは言った。

 

「もしかしたら体よく騙されて、帰るに帰れなくなっているのではないかとのう。フローラ嬢もえらく心配しておったわ」

 

 デボラ嬢は相変わらずじゃったが、と付け加える。

 チロルは上空に鼻を向け、風に乗ってやってくる匂いに意識を集中した。だがすぐに首を振る。火山帯特有の臭気にかき消されて、アンディの匂いを辿ることができなかったのだ。

 

『そういう事情ならなおのことアンディさんを早く助けてあげるべきなのだろうけど……この匂いじゃあどこに行ったかを正確に探すのは難しいわね。ただでさえこの近辺のモンスターは強力なのに、ふらふらしていたら命がいくつあっても足りない。ましてただの人間ならば、なおさらだわ』

 

 危機感を募らせたチロルの言葉にサイモンもうなずく。馬車の中はその話題で重い空気になっていた、と彼女は告げた。

 

 人助けをしながら、炎のリングを探す――。

 陽光は強く、草の生えない地面はすぐに熱を持つ。このきつい環境の先に、さらに過酷で困難な探検行が待っているのかと思うと、自然、チロルたちの表情が引き締まった。

 

『何だか嫌な予感がするのよね。あの巨大な火山の中に、大きな力が眠っているような気がして』

 

 チロルのつぶやきに、モンスター仲間たちはいっせいに火山に目を向けた。皆、思い思いの表情で山の偉容を見据える。

 これから火山へ入るというアランの指示を携えてピエールが仲間たちの元にやってきたのは、それからすぐのことだった。

 

 

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