【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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205.間一髪の発見

 

 溶岩洞窟は自然のうちに出来上がったはずだが、その道は意外なほどに整っていた。まるで誰かが足を踏み入れることを待っているように。

 ただ、アランたちには洞窟の不思議を暢気に探っている余裕はない。人の命がかかっているのだ。

 道を覚え、地形を頭に注意しながら、アンディの姿を探してひたすら歩く。洞窟内にこもる熱気にやられないよう気を張っていると、パーティの口数は自然に少なくなった。

 

 そんな中、アランたちは道ばたでへたりこんでいる一団に遭遇した。

 壮年の男たちばかり、十人ほどの集団である。

 暑さで体力を消耗し切っているようで、アランの姿を()(ろん)げに()()る。

 だが、アランの背後に魔物たちが控えていると気付くと目を丸くし、さらにそのうちの一匹の背にフローラとデボラが乗っていることを知ると顎が外れそうなほど驚いていた。

 どうやら、彼らもアンディと同じく炎のリングを求めてやってきた一行らしい。

 

 アランが状況を尋ねると、彼らはこう答えた。

 

「最初は皆ばらばらだったんだが、さすがにこの環境の中で互いにいがみ合ってちゃラチが明かないってことになってね。協力できるなら協力しようと一緒に行動していたんだ」

 

 男の一人がさらに自虐を込めて言う。

 

「まさか、お目当ての娘さんに助けられるとは思ってもみなかった。情けねえことです」

「そんな。皆さんが無事であれば、私は何も言うことはありません。情けないだなんて……むしろ、私は皆さんに謝らなければ」

 

 チロルの背から降りたフローラが深く頭を下げる。男たちは一様に、力の無い笑みを浮かべた。

 

 彼らの顔を順番に眺めたデボラが、額の汗をひとつ拭って言う。

 

「あんたら、そろそろ限界みたいじゃないか。悪いことは言わないから、さっさと引き返しな」

「いや、しかし。いくら疲れていると言っても、お嬢様たちを置いて戻るなんて」

「へーきへーき。ホラ、あたしたちにはちゃんと護衛がいるんだよ。ま、この魔物たちや、ここにいるアランに自分たちは負けないって自信があるなら、忠告を無視してもらってもいいんだけどサ」

 

 ねえ、と話を振られ、アランはわずかに天を仰ぐ。いつの間にか、男たちからは畏怖の視線を向けられていた。

 

 気を取り直し、さらに訊いた。

 

「アンディの姿を見ませんでしたか? 彼女の……フローラの幼馴染の青年です」

 

 顔を見合わせる一行。やがて一人が遠慮がちに「見ましたよ」と言った。

 

「かなりつらそうだったから、我々と一緒に来ないかと誘ったのですが……聞く耳持ってくれませんでした」

 

 その言葉にアランとフローラは顔を見合わせる。フローラは真剣な表情で、

 

「それでアンディは今、どちらに?」

 

 と尋ねた。男は言いづらそうに頬をかいた。

 

「我々も、そのときは暑さでかなり苛立っていましたから。そんな態度を取るなら勝手にしろと、無視してきたのです。確か、この道をまっすぐ進んで行きました」

「わかりました。ありがとうございます。急ごう、フローラ、デボラ、皆」

 

 アランが率先して歩き出すと、仲間たちは即座についてきた。フローラはもうチロルの背には乗らず、自分の足でアランのすぐ後ろを歩く。彼女は胸に手を当て小さくつぶやいた。

 

「アンディ。どうか無事でいて。無茶はしないで」

「必ず助けよう、フローラ」

 

 彼には言いたいことがたくさんある――アランはその台詞を胸の内にしまい込み、ただまっすぐに前を向いて歩いた。

 道は、やや天井の下がった通路へと変わっていく。右手に荒削りの岸壁、左手下方、かなり深いところには川のように流れる溶岩流がある。

 

 ふと、チロルが一声鳴く。ドラきちとコドランが弾かれたように加速し、洞窟の奥へ先行した。通路は緩やかに右へと曲がっていた。ドラきちたちは通路の向こうに消えた後、すぐに甲高い鳴き声を何度も上げ始めた。

 アランは即座に仲間たちの意図を汲み取った。背後でチロルが四肢の力を込めて駆け出す。絶妙のタイミングでその背にまたがり、そのまま一気に加速した。

 

 視界の先に、一人の青年が倒れている。

 

「アンディさん!」

 

 アランは叫ぶが、彼は横倒しになったままぴくりとも動かない。倒れている場所は道の端で、下の溶岩路までほんのわずかしかない。

 

 危険だ――と思ったときには、すでに崩落が始まっていた。

 

「チロル!」

「がるっ!」

 

 最高速度まで到達したチロルの背から、アランは低く飛んだ。空中に投げ出されたアンディの身体を何とか抱き留める。

 二人の身体は溶岩の上にあった。

 

「きゃあああっ、アランさん!」

 

 フローラの悲鳴が聞こえた。

 

 アランは空中で体勢を整えると、崩落を続ける岩塊を踏み台にして飛ぶ。

 だが、わずかに高さが足りない。

 身体をひねりつつ片手で剣を抜き、岸壁に突き刺す。右手一本で空中につり下がったアランの足元では、崩れた岩塊が湿った音を立てて溶岩に飲み込まれた。

 

「アランさん、アンディ!」

「大丈夫だ! アンディさんも!」

 

 アランは叫ぶ。

 

 崖の上に顔を出したフローラは、必死にアランに向けて手を伸ばす。もう少しで手が届く。ただし、後先考えなければ――。

 

「まったく世話が焼ける子だよアンタは! 一緒に落っこちるつもりかい!」

 

 ぐらりと体勢を崩したフローラをデボラが間一髪で支える。他の仲間モンスターたちも各々のやり方でアランたちの救助に当たった。

 最終的に、同じく剣を支えにしたサイモンの補助で、アランは何とか自身の身体とアンディを引き上げることに成功した。

 

 

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