【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

21 / 227
21.彼らの油断

 

 夜空の下、意気盛んに出発したアランとビアンカ。

 しかし、道中はそう簡単にはいかなかった。

 

 星月の光である程度の明かりは確保できるとは言え、一歩森の中に入るとそこは一寸先も見通せぬ闇が広がる。自然、見晴らしの良い、開けた草原を歩くことになるが、何もないただっ広い空間を二人だけで進むのは勇気が必要だった。

 何より危険なのが、道すがら遭遇するモンスターたちだ。

 

 草原で一度に出会うモンスターの数は少ない。だが夜ということもあってか、彼らは普段より好戦的だった。

 勝ち気だが、モンスターとの戦闘自体にはまったく不慣れなビアンカをかばいつつ、アランは銅の剣を何度もふるった。初めは扱いに苦労した剣も、何度も戦闘を重ねる内次第に手に馴染んできた。初めて銅の剣を握ったときの高揚感とはまた違った感覚が、アランの中で芽生えつつあった。

 

 何度目かの戦闘のときである。

 

「アラン、どいてっ」

 

 突然、ビアンカが声を上げた。ちょうどモンスターの一体を斬り伏せたアランは振り返る。

 ビアンカの指先に、松明の炎のような赤い光が集まっていた。

 

「――、いくよっ。メラ!」

 

 攻撃呪文。

 小さな火の玉がビアンカの指先から飛翔する。慌てて飛び退けたアランの脇を通り、今まさに飛びかかろうとしていた『おおねずみ』に直撃する。

 砂袋を高所から落としたような重い炸裂音が夜空に染みる。

 吹き飛んだ『おおねずみ』は、黒煙を上げて消えていった。

 

 瞠目しながらビアンカを見ると、彼女は照れたように頬をかいていた。

 

「えへへ。はじめての呪文、上手くできたかな?」

「うん……うん。すごいよ、ビアンカ!」

 

 アランは素直に驚き、そして喜んだ。アランは使えるのは回復系の呪文だけで、いまだ攻撃呪文のひとつも使えない。だがビアンカは、アランより戦闘の経験が少ないのに、もう立派な攻撃呪文を使えるようになっている。羨ましいというよりも、「すごい!」という気持ちの方が勝った。

 アランの言葉を受けて、ビアンカははにかんだ。

 

「ありがとう。でもアランこそすごいよ。ケガしても、すぐにホイミで治してくれるもん」

 

 そう言って、満面の笑みを浮かべるビアンカ。幼い少年と少女は互いの強さを褒め合う。

 

 このときの二人は、完全に油断してしまっていた。

 

 ふと、風船から空気が抜けるような物音がした。ビアンカが何事かと振り返る。

 

「ビアンカ、危ない!」と、アランは叫ぶ。

 

 直後、ビアンカに向かって緑色の『何か』が体当たりした。酸が弾ける音が響く。

 

「きゃあああっ!」

「ビアンカ!」

 

 アランは剣を構えて走った。

 ビアンカに攻撃をしかけた『何か』――緑色の液体の姿をしたモンスター、『バブルスライム』だ。

 バブルスライムはビアンカから離れると、今度はアランに向かって体当たりをしてくる。アランは走る勢いのまま、その不定形の身体に銅の剣を叩き付けた。

 体当たりをそのまま迎撃(カウンター)されたバブルスライムは緑色の水滴となって弾け、消えていった。

 

 ビアンカが膝から崩れ落ちる。アランは無我夢中でビアンカを抱き留める。

 

「ビアンカ、ビアンカ! しっかりして!」

 

 返事がない。気絶しているようだった。しかも顔色がひどく悪い。頬の辺りが真っ青になっている。首筋には汗が浮かび、彼女の身体を支えているアランの手を湿らせる。

 

「まさか、毒!?」

 

 パパスから聞いたことがある。バブルスライムなど一部のモンスターは、その攻撃で相手に毒を与えることができると。

 のんびりしていられない。アランはビアンカの額に手を当てた。焦らないように、できるだけ素早く、呪文を唱える。

 

「――、キアリー」

 

 光の粒子が舞い、ビアンカに吸い込まれていく。

 ビアンカの息づかいが穏やかになった。顔色も元の瑞々しい肌色に戻っていく。だが、彼女が目を覚ます様子はない。

 重ねてホイミをかけようとして、アランは自らの精神力が切れかかっていることに気付いた。

 このまま先に進むのはダメだ――アランはビアンカを背に、アルカパへと走った。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。