【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

212 / 227
212.溶岩原人戦 2

 

 剣撃、打撃の音が広い空間に谺する。

 仲間たちは確実に溶岩原人を押している。

 だがアランの脳裏に浮かんだ不安、予感はずっと頭にこびりついて離れない。

 

 その予感は的中する。

 絶妙な連携で攻撃を仕掛けてくる相手に太く大きな腕を振って応戦していた溶岩原人の体が、にわかに膨れ出した。周囲に漂う熱が一気に、危険なほど高まる。

 ――あれは、火炎の息を放つ前兆だ。

 そう確信したアランは周囲を見回した。道幅はある程度の広さを持っているが、それでも一本道だ。あの巨体から炎が吐かれたとしたら、躱すのは困難である。

 

 炎を吐かせたら不利だ――アランは決断した。直後、地面を蹴り低い姿勢で溶岩原人に突撃を仕掛ける。

 突然突っこんだアランに対し、ピエールとチロルがすぐさま反応する。何も指示を出していないのに、二人はアランの背を追って走り始めた。等間隔に間を空け、ちょうどアランを頂点とした三角形となるような陣形である。彼らは、主の意図を察してくれたのだ。

 

 アランは走りながら空いた手に呪文の力を集約させる。その視界は、溶岩原人の口元からちろちろと漏れ始めた炎を捉えている。彼は迷わなかった。

 溶岩原人の懐に飛び込み、その顔を見上げるような超至近距離で、アランは手に溜めた力を解放した。下から顎先目がけて突き上げるように、呪文を放つ。

 

「――、バギマ!」

 

 逆巻く熱気の渦。急激な上昇気流が生まれ、たちまちのうちに風刃の柱と化した。呪文によって体表を削られ、溶岩原人の体がぐらりと大きく揺れる。

 

 それでもなお炎を吐こうと顔をアランたちに向けようとしていた溶岩原人。直後に横合いから咆哮を上げながら突撃したチロルの一撃を受け、さらにぐらつく。頭部に当たる部分をふらふらと左右に揺らすところへ、ピエールがイオが追い打ちをかけた。威力を増した爆発呪文が黒煙を上げて炸裂する。

 

 この三連撃に溶岩原人はたまらず声を上げる。

 そして叫びを上げる口から火炎の息を放った。

 まるで暴れる蛇のように溶岩の海の上でのたうつ炎。すごい勢いだった。しかも炎の噴射時間も長い。かつてラインハットで戦った偽太后ですらも、ここまで強力な火炎の息は使えていなかった。

 

 敵の動きを完全に封じていなかったことが、ここで災いする。

 溶岩原人が炎を吐き出し続けながら顔を振り乱し始め、そこから吐き出された炎の一部が後衛に立つ仲間たちに襲いかかったのだ。

 

「くっ……!」

 

 我知らず漏れた声。しまった、とアランが思った瞬間、火炎の息はまた別の炎が現れ、衝突する。

 見ればコドランが、その小さな体から火の息を吐き出して受け止めていたのだ。さらにそこへメタリンが呪文の火を使って加勢する。

 二人の力をあわせた攻撃により、溶岩原人の炎は明後日の方向に逸れていった。アランは顔に喜色を浮かべ、叫んだ。

 

「よくやった、ふたりとも!」

「ギャッギャッ!」

「ま、あたしにかかればこんなモンよっ!」

 

 得意げに声を返すコドランとメタリン。

 アランは溶岩原人に向き直った。彼の傍らにすぐさまピエールとチロルが歩み寄って構えを取る。さらに溶岩原人の炎の威力を目の当たりにして警戒感を強めたサイモンが、アランの盾とならんと彼の正面に陣取る。

 

 火炎の息を防がれ、なおかつ相手の警戒を許した溶岩原人だが、慌てた様子は無かった。当初遭遇したときと同じ、落ち着きを見せた瞳でアランたちを見つめている。

 これまでの戦いとはまた趣きが違う威圧感に首筋が緊張する感覚を味わいながら、アランはパパスの剣を勢いよく振り上げた。

 

「全力を持ってぶつかる! 皆、行くぞ!」

 

 アランの号令に呼応し、後方から仲間たちが補助呪文を飛ばしてくる。その助力を得て、アランたち前衛は再び突撃を敢行した。

 溶岩原人も一歩も引かない。鷹揚に両手を構え、アランたちを迎え撃つ。

 

 この戦いで大事なのは気持ちだ、そう悟ったアランは、渾身の力を込めて打ち込む。だが完全に打ち倒すまでには至らない。自然、何度も打ち合い、斬りつけることになった。

 

 そんな中で予想外の働きを見せたのは、フローラだった。後方から戦況を見つめていた彼女は、持ち前の知性と知識の豊富さから、溶岩原人が火炎の息を吐こうとする機を予測、いち早く前衛にいるアランに伝えるという役目を果たした。おかげでアランたちは炎を気にせず全力で攻撃に当たることができた。

 

 再び勢いを取り戻したアランたち。やがて溶岩原人の動きが衰えてきた。それを見て「このまま押し切るべきだ」と踏んだアランはさらに仲間たちを鼓舞し、激励する。

 

 いよいよ勝敗が決するか、というまさにそのとき――。

 

 地響きが立て続けに響き、溶岩の海が再び沸騰を始めた。表面の泡立ちは見る間に大きくなり、ついには柱のように天井に延びる。そしてそのまま溶岩の海に急降下した。

 

 そこから現れたのは、新たなる溶岩原人。

 しかも――。

 

『なかなか、良いぞ……』

『さあ。試練を続けよう……』

 

 ――ニ体いる。

 合計三体となった溶岩原人が、アランたちの前に立ち塞がった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。