【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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218.山奥の村

 

 船旅はおおよそ順調だった。

 ルドマンが用意してくれた中型船は、馬車を上に載せても平気なほど頑丈な作りだった。唯一の難点と言えるのが、推進力である。

 船は手こぎだった。

 

 帆を備えているとはいえ、河を上流へ上っていくのだ。よほど風向きが良くない限り、基本的に人力である。となると櫂を操れる者は自然と限られることになり、ピエール、サイモン、マーリンらとともにアランはせっせと櫂を動かす役になっていた。

 幼少期に筏を漕いだことがあるアランは船を漕ぐことに特に抵抗はない。船の大きさと重さが懸念材料だったが、櫂は驚くほど滑らかに動き、思った程力をかけなくても船は動いた。

 あのマーリンですら櫂が動かせるのだ。

 おそらくそういう造りになっているのだろう。

 アランとしてはそれだけで十分満足していたのだが、ピエールとサイモンからすれば(あるじ)に肉体労働をさせるという状況が気になるらしい。しきりに交代を勧めてくる二人にいつものようにマーリンが横槍を入れ、仲間たちのひんしゅくを買っていた。

 

 支障という支障は、その程度である。特に敵襲も無く水面も穏やかな道のりだった。

 しばらくして、河が二手に分かれる場所に辿り着いた。北に向かう河に立派な水門が設置され、行く手を阻んでいる。アランたちはそこでいったん船を係留し、陸に上がった。

 ここからは歩きである。

 

 目の前には緩やかな山間地が広がっている。水門を管理する人は、この奥にある村に住んでいるという。火山洞窟までの道程に比べれば緩やかな道だ。

 アランは仲間を引き連れ、山の中に入っていった。

 

「穏やかな場所ですね」

 

 道すがらピエールがつぶやく。アランも周囲を見回しながらうなずいた。

 道は人を拒むような急峻さはなく、見通しも良い。吹き抜ける風は涼やかで、モンスターの気配もそこまで濃くなかった。気を抜けば、のんびりと散歩をしているような気分になるほどだ。

 

 やがて明らかに人の足で踏み固められたとみられる山道が現れた。そこをさらに北上すると、緑と山に縁取られた開けた場所に、小さな村を見ることができた。

 丘の上から村の全景を眺めたアランは目を細める。

 

 ――どことなくサンタローズに似ているな。

 

 ピエールたちが村に入るために変化の石を身につけている間、アランは郷愁と微かな寂しさを感じながら名も無き山奥の村を見つめていた。

 

 そのとき、山岳地帯へと続く道からひとりの男がやってきた。小さな荷馬車を引いているところをみると、村人なのかもしれない。

 

「ふいー、やっと着いた。……おや、先客がいなすったか」

「こんにちは」

 

 アランは会釈する。先客、ということは村人ではないのかと彼は思った。商人かな、だけどそうなると荷馬車を連れて山岳地帯を越えてきたということになるけれど――アランは荷馬車と男をじっと眺める。

 その視線に気づいたのだろう。男は笑いながら馬の背を叩いた。

 

「いやあ。こいつが丈夫な奴で助かってるよ。商いをやっていると、物の運搬ってのはどーしても神経使うところだからねえ。ところで、あんたらは旅人かい? 『秘湯の花』目当てって感じじゃなさそうだが」

「秘湯の花?」

 

 知らないのかい、と男は言った。村の端、微かに湯気が上がっている場所を指差す。

 

「この村には温泉が湧いているんだが、最近になって、そこから珍しい鉱物が採れることがわかってね。俺たち商人はそれを『秘湯の花』と呼んでるんだ。で、俺はその秘湯の花を仕入れるために、こうして物々交換用の品を持ってやってきたってわけさ」

「そうなんですか」

「あの村の人たち、最初はなかなか取引に応じてくれなくてねえ。苦労したよ。ま、こっちも交渉の仕方が悪かったせいもあるんだが」

 

 商人の言葉に、アランは体を硬くする。カボチ村での出来事が脳裏を過ぎった。

 あの村の住人がカボチ村のように排他的なら、水門を開けるよう依頼するのは難しいのではないか。いくらルドマンが太鼓判を押してくれたと言っても、そういう人たちが自分の話をきちんと聞いてくれるかはわからない――。

 

 アランの懸念は、商人の男のあっけらかんとした話で簡単に払拭された。

 

「いきなり上がり込んで物をくれなんて言われたら誰だって警戒する。そりゃその通りだわな。その点、この村の人間はこっちがびっくりするぐらい人が善くてね。ちゃんと誠意を持って交渉すれば必ず応えてくれるんだ。それどころか、途中まで送ってくれる親切ぶりだ。道に迷った同業者が、それでずいぶんと助けられたと聞いているよ」

 

 それを聞いたアランは肩の力を抜いた。ここまでそれなりに大変な道のりだったろうに、商人はすこぶる上機嫌だった。

 

「というわけで、この商売についてはできるだけ損得勘定抜きでやるつもりなのさ、俺はね。さて、そろそろ俺は行くが、お兄さんはどうするつもりだい。秘湯の花目当てじゃなけりゃ、あの村には腕の良い鍛冶屋のおっちゃんがいるくらいだが」

 

 商人の疑問にアランは素直に答える。

 

「訳あって上流にある湖に向かうのですが、途中にある水門を開けるためには村人の協力が必要だと聞いたもので」

「水門? あれはサラボナのルドマンさんが私財で管理しているって聞いたぞ。話をするならまずはそっちじゃないのかい」

「ええ。そのルドマンさんから指示を受けたんです」

「ほお! お兄さん、あの有名な豪商と知り合いなのかい。こりゃ驚いた」

 

 商人っぽくは見えないがなあ、と男はじろじろとアランを見る。だがすぐに満面の笑みになった。

 

「よしわかった。そういうことならお兄さんを無下にするわけにはいかないな。一緒においで。そういう話に詳しそうな人に会わせてあげるから」

 

 促されるまま村へ向かって歩く。入口近くまで来たところで馬車を停めた。「あんまり大人数で入ると村の迷惑になるからな。俺も馬車は置いておくんだ」と男に助言されたためだ。

 水門を開けてもらう話だけならそう時間はかからないだろうと考え、ピエール、チロルの二人を連れ、後の仲間を馬車に残し、アランは男とともに村の中に入った。

 

 

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