【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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22.風邪の功名

 

 月明かりの下に街が見えてきた。アランは安堵の息を吐こうとしたが、ここまでビアンカを背負ってきたせいか荒い呼吸しかできない。

 ビアンカが小さく身じろぎする。

 

「ビアンカ!? 気がついた?」

「アラン……? あれ、私」

 

 目を覚ましたビアンカに、アランは経緯を説明する。話を聞いた彼女は顔を青ざめさせ、やがて神妙に「……自分で歩く。ありがと」と言った。

 

 アルカパの街に入る。相変わらず大胆な寝相の門番の脇を通り、宿の扉の前に辿り着くまでビアンカは口を閉ざしていた。さすがにアランも心配になり、気遣う。

 

「だいじょうぶ? ビアンカ」

「うん。ごめんねアラン。迷惑かけちゃった」

「いいよ」

「ごめん。痛いとか、お城に行くのが嫌になったとか、そういうのじゃないんだ。だけど、ちょっと……ダメだったなあ私、ってさ」

 

 珍しく落ち込んだ様子だった。こういうときどのように声をかければいいのかわからず、アランはただ彼女の背中をさすった。

 

 しかし、やはりビアンカはビアンカだった。

 宿の扉の前で大きく深呼吸。家主を起こさないようにゆっくりと扉を開ける。ちょうど席を空けていたのか、受付カウンターに人の姿はなかった。それを確認し、アランを振り返ったときにはもう、彼女の顔には笑みが戻っていた。

 

「今日はここまでにしましょ! いろいろあって疲れちゃった」

「うん」

「ねえアラン、明日少し付き合ってもらえる?」

「どうしたの?」

「いや、レヌール城に行くために、もっといろいろ準備しておきたいなと思って。今日の冒険でお金もたまったことだし」

 

 むん、と気合を入れるように拳を握りしめるビアンカ。

 

「やっぱり冒険は楽しいことばっかりじゃないよね。あぶないこともあるんだ。だから私、がんばるよ。かならず猫さんをたすける。そのためにはもっとがんばらなきゃいけないんだ!」

「ビアンカ」

「協力してくれる、アラン?」

 

 少しだけ不安そうにこちらを見てくるビアンカに、アランは笑顔で「もちろん」とうなずいた。

 

 

 

 翌日。

 

 アランとビアンカは連れだって街へ出かけ、昨夜獲得した資金を使って装備や道具類を整え始めた。一晩経ってすっかり元気を取り戻したビアンカは、念願の『いばらのムチ』を手に入れてご機嫌だった。

 

 その日から宿で早めに休み、夜には街の周辺で戦いの経験を積むことを繰り返した。二人で協力して戦っていくためにも、戦闘の訓練は必要だと考えたのだ。

 日中は、レヌール城についての噂を手分けして集めた。それによると、どうやら城にお化けが棲みついたのは最近のことらしく、城に近づくとすすり泣くような声が聞こえてくるとのことだった。

 

 ――こうして、瞬く間に時間は過ぎていく。

 本来一泊の予定だったアランたちが、ここまで長くアルカパに滞在できたのは理由がある。

 

「ぶぇっくしょっい! うぅ」

 

 アランが宿の部屋に戻ると、パパスが寝台に横になったまま盛大にくしゃみをしていた。ビアンカの父、ダンカンの風邪をうつされてしまい、寝込んでしまったのだ。

 もうかれこれ三日になるだろうか。

 

「お父さん。だいじょうぶ?」

「……情けない。アラン、うつすといけないからあまり近づいてはいけない」

「今お薬取ってくるね」

 

 そう言って階下へ降りる。ダンカン夫妻に薬の件を伝えると、残った薬を快く分けてくれた。ダンカンの調子はかなり良くなっていて、寝台から起き上がれるほどに快復している。彼はパパスに風邪をうつしてしまったことを申し訳なく思っているようで、滞在中は世話の一切を引き受けてくれていた。

 そのおかげで、アランもビアンカも、これまでのところ見とがめられることなく行動できている。

 

 最初は言葉を交わすことも億劫そうだったパパスの症状は、かなり改善されてきている。パパスの体力なら、全快するまでそう時間はかからないだろう。

 

 薬を抱え、部屋を出る。そのときビアンカとすれ違った。

 真剣な表情で、うなずきをかわす。

 

(じゃあ、また夜に迎えに行くから)

(いよいよだね)

 

 そう――

 今夜、ついに二人はレヌール城へ乗り込むことに決めたのだ。

 

 

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