【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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226.滝の洞窟の入口

 

 水門を抜けてしばらくすると、急に川幅が広くなった。広大な湖に出たのだ。

 周囲は峻厳な山や深い森に囲まれ、この地に人が訪れることが難しいことは容易に理解できる。

 そのためか、湖面は凪ぎ、透明度も高い。船の上からでも水が含む聖なる気を感じることができそうだった。

 

 ビアンカは船の舳先に立ち、歓声を上げながら周囲を見回している。外洋ほど揺れないにしても、たいした度胸と平衡感覚だった。そんな彼女の姿に既視感を覚える。

 

「あなたそっくりですね」

 

 忠実な騎士に内心をずばりと言い当てられ、アランは頬をかいた。誤魔化すようにビアンカに声をかける。

 

「ビアンカは船が好きなのかい?」

「うん。今の土地に引っ越しする前に一度だけ乗ったんだけど、すごく楽しかったわ。さすがに何度も乗るわけにはいかなかったけどね。こうしてまた風を感じることが嬉しい。それに、今度はアランも一緒だしね」

 

 笑顔。ただ、その笑みには今までとは少し違って見えた。

 

 湖を船で縦断する。北端に、湖の水源から流れ出ていると思しき滝が見えてきた。大型船が飲み込まれてしまいそうなほど巨大な滝だ。

 アランは慎重に船を移動させ、滝から少し離れた岩場に付けた。滝の裏に向けて、人が通れそうな道があったのだ。

 

「うわぁ! すごい水の音! 声がかき消されるくらい!」

「あ、ちょっと待つんだ! ビアンカ!」

 

 ごうごうと滝壺を打つ水音に、ビアンカがはしゃいで船を下りる。

 アランは苦笑し、つぶやいた。

 

「レヌール城の冒険を思い出すな……」

 

 ちょうど同じタイミングでビアンカが振り返る。悪戯っぽくも懐かしそうに細められた目と表情で、彼女も同じことを考えているとわかった。

 何だか胸の奥が温かくなった。

 だが、いつまでも感傷に浸ってはいられない。

 

 見ると、滝の裏側に大きな洞窟が口を開けていた。これほど広ければ、探索が途中で行き詰まる事態は避けられそうだ。多少、人数をかけても問題ないだろう。

 アランはパーティ分けをした。

 探索組にはアラン、チロル、ピエール、サイモンの主戦力を全員投入する。

 ビアンカは、付いてくるなと言っても付いてきそうな勢いだったので、チロルと組ませる。

 他にはスラリン、メタリン、ドラきち、ホイミン。それと、火山洞窟では待機組だったマーリンも加える。

 

「ジメジメしたところは苦手なんじゃがのう……」

「あんた、仲間になる前は洞窟暮らしだったでしょーが」

 

 ブツブツ文句を言うマーリンにメタリンがツッコミを入れる。

 アランも、このまほうつかいが嫌がるだろうことは承知していたが、今回敢えて彼を探索組に加えたのは理由がある。

 

 炎のリングがあった火山洞窟には、『溶岩原人』という未知の強敵がいた。

 水のリングがあるこの洞窟にも、アランたちの知らない敵や仕掛けが待ち受けている可能性がある。

 もしもの時、マーリンの知識は必ず役に立つはずだ。

 

 アランはちらりとビアンカを見た。スラリンやメタリンらと戯れる彼女の後ろ姿に、改めて誓う。

 

 ――もう、フローラのときのような危険な目には遭わせない。

 

「おーい、アラン! どうしたの、早く行くよー!」

「わかった」

 

 笑顔で呼びかけてくるビアンカに手を振って応え、アランは待機組に言った。

 

「コドラン、クックル、メッキー。船のことは任せたよ」

「はいなー。お任せあれー」

 

 いつものように独特な口調でメッキーが請け負う。

 それからアランは、大所帯となったパーティを引き連れ、滝の洞窟の中へ足を踏み入れた。

 

「おおー。天井高ーい!」

「確かに。すごいね」

 

 ビアンカの声にうなずくアラン。彼らの言葉は洞窟内に小さく反響し、やがて外の滝音と一体になっていく。岩の天井はそれほど高く、広かった。

 この洞窟にも天然の光石があるのか、奥に続く通路はほんのりと明るかった。

 マーリンがぐーっと背伸びをする。

 

「やれやれ。滝の洞窟というからどれだけジメジメしているかと思えば……案外、快適ですのう」

「そうだね。おかげで探索もしやすい」

「さよう。つまり最初から『誰かが訪れること前提にできたもの』と言えますかなあ」

 

 まほうつかいの言葉に、アランやピエールがハッとして振り返る。

 マーリンはカラカラと笑った。

 

「元からこうだったのか、それともワシらが来たからこうなったのか。いずれにせよ、ここに大事な何かが眠っていることは、間違いないでしょうな」

「なるほど。どうりで不思議な空気に包まれているわけです。清浄さと魔物の臭気が混在しているのですね」

 

 ピエールがうなずいた。マーリンが肩を叩いてくる。

 

「アラン殿。気をつけなされ。溶岩洞窟ほどではないにせよ、ここも安全ではなさそうですじゃ」

「ああ。わかってる」

 

 アランはちらりとビアンカに視線を向け、表情を引き締めた。

 

 

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