【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~ 作:和成ソウイチ
隊列を組みながら、慎重に奥へと進む。
洞窟の広さは探索を進めても変わらない。戦闘も退却もしやすそうだなとアランは思った。
「レヌール城も広かったけど、ここもすごく広いね。しかも明るいし」
「天然にできた洞窟……ってわけじゃないんだろう。きっと」
「そっか。――ねえねえアラン」
「ん?」
「ばぁ! おばけだぞぅ!」
「……ビアンカ」
「さすがにもうびっくりしないか。あはは、ごめんごめん」
「僕は覚えてるよ。レヌール城で怖がってたの、ビアンカじゃないか。お姉さんに任せなさいって顔してたのに」
「も、もう! そんなことまで覚えてないでよっ。だって仕方ないじゃない。あんなに雰囲気があるとは思ってもなかったんだもの。……まあ、でも。すぐにアランが助けに来てくれたし、一緒だったから怖いのもなくなったけどね」
「……ふふ。そうだね。一緒だったから『おやぶんゴースト』も退治できたし、レヌール城の皆も解放できた」
「うん。あ、そだ。今から思えば、『おやぶんゴースト』が大人しく立ち去ったのって、あのときからアランのチカラが発揮されてたのかも。最初はびっくりしたよ。あんなに悪いことしてたモンスターを許すのかって」
「ああ……そう、なのかな。確かにあのとき、『おやぶんゴースト』の目を見て、彼はもう大丈夫って思えたんだ」
「へー、やっぱりそうだったんだねー。あ、それからね――」
道中、楽しそうに昔話をするアランとビアンカ。
彼らの後ろ姿を、仲間モンスターたちは神妙な顔で見つめていた。
「アランってさ、あんな顔でおしゃべりするのね」
ふと、メタリンが言った。
彼女は今、スラリンとともにチロルの頭の上にいる。いつもはアランの側にいることが多いメタリンたちだが、今は気を利かせて下がっているのだ。
「楽しそうにおしゃべりしちゃってさ。ウチのパーティで、アランとあんな風に話ができるヤツっていないんじゃない?」
「そだねー。あ、でもヘンリーとはあんな感じだったよ」
「スラリンさぁ……あいつとビアンカじゃあ、違うじゃない」
「違う? なにが? どして?」
「それは、そのぅ。イロイロよ、イロイロ!」
上手く言葉にできずモヤモヤしたのか、メタリンは八つ当たりするようにスラリンに体当たりした。頭の上できゃいきゃいはしゃぐ二匹に、美貌のキラーパンサーは苦笑する。
彼女の隣に、ピエールとマーリンが立った。
「けれど確かに、違いますね。フローラ嬢のときとは」
「ま、あれが人間の幼馴染というものなのじゃろうて。いいではないか。ワシらの主も、たまには女子にうつつを抜かしても。真面目一辺倒なアラン殿にはちょうどよい『息抜き』になるじゃろう」
マーリンがからからと笑う。いつもならお調子者の発言に目くじらを立てる隻腕の騎士だが、このときは少し反応が違った。どこか神妙な口調でつぶやく。
「息抜き……それで済むでしょうか。ビアンカ嬢と再会してから、アランの様子は今までと違うように見えます」
「……ま、タイミング的に奇跡と言える再会じゃからの。どうやらアラン殿の身には、運命とやらがこれでもかと声をかけるようじゃ。あまり思い詰めなければいいがのう」
「我らも力になれればよいのですが」
「こればっかりはワシらにはどうにもならんわい。諦めい」
あっさりと言ってのけるマーリンに、さすがにピエールも彼を睨む。
スライムナイトの鎧を、まほうつかいが軽く叩いた。
「今、ワシらがやるべきは、この洞窟を無事に攻略することじゃよ。フローラ嬢の二の舞は、アラン殿も絶対に避けたいはずじゃからな」
「ええ、そうですね」
いまだ楽しそうに話を続けているアランとビアンカ。
その背中を、ピエールたちはじっと見つめていた。
洞窟の中をしばらく進んだ頃である。
チロルとドラきちがにわかに警告を出した。
直後、高い天井から巨大な緑色のコウモリが急降下してくる。
長い舌を持った飛行型のモンスター――『へびこうもり』だ。
彼は上空を旋回しながら、機を見て一気に襲いかかってくる。
狙いは――ビアンカ。
彼女を守ろうとしたアランは、直後、別の気配を察知する。
通路の奥から、ブヨブヨの身体をしたモンスターが現れる。空気孔のような穴を備えた『ガスダンゴ』。
「気をつけなされ! ヤツはどくの息を吐きますぞ! 行動される前に仕留めるんじゃ!」
マーリンが叫ぶ。アランは唇を噛んだ。
「ピエール、サイモン! ガスダンゴは任せた!」
「承知!」
「チロル! 僕と一緒にへびこうもりを――」
仲間に指示を出し、頼れる妹分を振り返ったとき。
「はあああぁぁっ!」
ビアンカの気合いが一閃した。
手にした『どくがのナイフ』で、へびこうもりを見事に迎撃したのだ。
鮮やかな会心の一撃――。
「どう? ビアンカさんもやるもんでしょ?」
思わぬ反撃に為す術なく消滅していくへびこうもりを前に、勝ち気な幼馴染はそう言って力こぶを作った。