【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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24.噂の真偽

 

「ビアンカ、ビアンカ!?」

 

 呼ぶ。だが返事はない。

 アランの声は、部屋の隅に溜まった闇に吸い込まれていく。勇気を振り絞り、開いたままになっている棺をひとつひとつ見て回った。

 松明の光に照らされ、空中に舞う埃が見える。棺の中は例外なく空っぽだった。蜘蛛の巣がはり、血を塗りたくったように真っ赤である。

 

 部屋の奥に、下に降りる階段がある。

 灯りの陰になっているそこは、まるで奈落の底に続いているかのよう。声はしない。代わりに、微かに風の通る音がする。

 

 抜き身の銅の剣を握りしめ、アランは階段の一段目に足を置いた。靴裏が石粒を踏む音が耳に届く。手すりを頼りに、ゆっくりと降りた。

 

 ――心なしか、呼吸をするのが、苦しい。

 

 人影は皆無なのに、下の階も松明が燃えている。幽霊が居着いているという噂は、どうやら本当のようだ。

 周囲を警戒しながら、アランはビアンカの姿を探した。彼女が幽霊に連れ去られてしまったのなら――悪い想像を振り払い、アランはひたすら歩いた。

 

 ふと、振り返る。

 埃が溜まった床の上に点々と自分の足あとが付いているだけで、背後には誰もいない。大きな石像が通路を挟むように立っているだけだ。明かりはあるのに、闇は濃い。

 アランは再び歩き出した。

 

 こつん……ごりりぃっ……。

 

 再び振り返る。今度は身体ごと、剣を構えながら、だ。

 石像が『こちらを向いていた』。

 アランは思わず唾を飲み込み、一歩、二歩と後退る。

 石像は動かない。穴の開いた目で、じっとこちらを見ているだけだ。

 あの目――さっきまでは確かに別の方向を向いていた。

 

 視界の端に扉を捉える。

 ゆっくりと、ゆっくりとそちらへ向かった。視線はまだ、石像と合わせたままだ。

 

 石像は――動かない。

 

 いま気付く。石像が握っている剣。あれは石ではない。本物の鉄だ。松明の光が、そこだけ眩く反射している。

 

 石像は動かない。だが――視線はずっと、アランに向けられていた。

 

 手が、扉の取っ手に触れる。握った。回す。扉が、開く。

 冷たい風が流れ込んできた。室内とはまた違った闇が扉の隙間からのぞく。

 アランは一気に扉を開けその奥に身体を滑り込ませると、そのまま叩き付けるように扉を閉めた。耳鳴りがした。あまりにも静かな緊張感に、額に汗をかいていた。

 

 雷鳴がとどろく。

 驚きで背筋を凍らせながら、ふと、どこからか漏れてくる小さな声を聞いた。

 

『……ぅん……うーん』

「……ビアンカ?」

 

 聞き間違えではない。うなされているような、苦しげなビアンカの声だ。

 周囲を見回す。そこでまた、心臓が止まりそうなほど驚く。

 そこは城の屋上に設けられた――墓場だった。

 

 雷鳴に邪魔をされながら、アランは声の出所を探す。そして、ひときわ大きな墓のひとつから声が漏れていることを突き止めた。

 墓石に耳を当て、ビアンカの声を確認すると、アランは意を決して蓋をはずした。重い石板が、腹に響く低音を上げながらずれていく。

 半分ほど開いたところで――。

 

「ぷはぁっ! ああ、アラン!」

 

 ビアンカが勢いよく飛び出してきた。アランは心底安堵した。

 

「よかった、ぶじだったんだね」

「うん、ありがと。たすけてくれて。とても息苦しくて、しぬかと思っちゃったわ。でも、もうちょっと早く来てくれるとうれしかったのに」

 

 ビアンカの言葉に目を瞠る。意外なほどあっけらかんとしているなと思ったアランだったが、よく見るとビアンカの肩が細かく震えていた。そのときの恐怖を表すように、ビアンカの表情が徐々に沈んでいく。

 

「あのとき、とつぜん真っ暗になったと思ったらふっと身体が軽くなって。誰かに抱えられているんだって思ったけど、全然姿が見えなくて……気がついたらあの中にいたの。ねえ、アラン。やっぱりここ、お化けがいる……んだよね?」

「……うん。うわさは本当だよ」

 

 しばらく、互いに無言になった。

 風が、冷たい。

 自らの身体を抱くビアンカに、アランは手を差し伸べた。

 

「いこう、ふたりで。こんどは必ず、僕がビアンカを守るから」

「アラン……」

 

 つぶやくビアンカに、アランは元気づけるように笑いかけた。

 

 

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