【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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27.聖なるたいまつ

 

 城は巨大な迷路のようだった。それでも目的の場所がはっきりしたことはアランたちにとって大きな安心感に繋がる。

 そのときだ。順調に進んでいた歩みが、ふと止まる。

 

「……あぁ」

 

 思わず漏れた声。複雑な装飾の扉を抜けた直後のことだ。

 そこは二階と三階がひとつのフロアで繋がる、巨大な吹き抜けの空間だった。アランたちがいるのは、そのうちの二階部分の渡り廊下だった。

 アランが漏らしたのは感嘆の声、ではない。むしろ怖れ、悲痛さを滲ませた呻きだった。

 

 フロアにいたのは何十人もの人々――すべてが、半透明な身体をした幽霊だった。

 おそらくエリックが言っていたこの城の使用人たちだろう。

 身なりこそ綺麗な服で着飾っている。だがその表情は皆、苦しげでつらそうだった。空中では何組もの男女が踊っている。

 

『誰か……止めてくれ……』

『身体が、身体が勝手に。もうイヤ……』

 

 アランたちのすぐそばを通っていた一組の男女。彼らは空中で見事なステップを踏みながら、今にも泣き出しそうな顔で呻いていた。誰も彼もが、彼らと似たような状態に置かれていた。

 

 フロアの中央には大きな四角い穴が開いていて、その周囲にモンスターがたむろしている。

 

「ひゃひゃひゃっ。そら、踊れ踊れっ」

「おぉーい、メシはまだか。いい加減腹が減ってきたぜ」

「この城は最高だ! 親分ばんざい!」

 

 こちらは実に愉快そうに、聞いているだけで背筋が泡立ちそうな金切り声を上げていた。

 

「アラン」

 

 ビアンカがささやく。

 

「これって、もしかしなくても親分ゴーストたちのしわざだよね」

「うん……。あのひとたち、むりやりこんなことさせられているんだ。ゆっくり眠ることもできずに」

「ひどい」

 

 口元を押さえ、眉を下げるビアンカ。アランはその手を握り、急ごう、と促した。

 

 渡り廊下を駆け抜け、扉をくぐり、その先にあった階段を下りる。喧噪は遠ざかり、かわりに粘つくような薄暗闇と湿気、そして鼻をつく強烈な臭いがアランたちを襲った。

 涙目になりながら通路を進む。モンスターの気配があった。いくつもの食器を運ぶ音もする。アランとビアンカはうなずきあった。

 きっとここが厨房だ。

 

 ふたりは棚の陰に隠れながら慎重に前へ進む。調理台と思しき大きな机に身を隠したとき、机の天板が大きな音を立てた。二人の息が詰まる。

 すぐそばでモンスターが談笑する。

 

「お、それが今日のメインディッシュか?」

「いや。親分がとびっきりのごちそうを用意してくれるんだとさ。これはそれまでの繋ぎ」

「そりゃ楽しみだぜ。へっへっへ」

 

 モンスターの会話を、心臓を高鳴らせながら聞く。同時に漂ってくる猛烈な臭気に呻き声を必死に抑える。

 これは巨大な肉が完全に腐った臭いだ、ぜったい。

 モンスターはこんなものを食べるのかとアランは辟易した。

 

 やがて腐った肉を置いたままモンスターはテーブルを離れていく。様子を窺うと、二つの炎がゆらゆらと揺らめいているのが見えた。巨大なろうそく型のモンスター『おばけキャンドル』だ。

 彼らの目がよそへ行っているうちに、アランとビアンカは物陰を飛び出した。身を屈め、厨房の奥を目指す。そこは壁一面が物置棚になっていた。アランたちは極力物音を立てないようにたいまつを探し始めた。ときどき後ろを振り返り、モンスターたちがこちらに気付いていないことを確認する。

 

 壺をのぞいたビアンカが、アランを呼んだ。壺の中に彼女は手を突っ込む。

 

「これじゃない?」

 

 中から取りだしたのは、表面に複雑な文様が刻まれた木の棒だった。先端に青く染められた布が巻き付けられ、さらにそれを保護するように銀細工の装飾が施されている。

 

「まちがいない。きっとそれだよ」

「ええ。……でも聖なるたいまつをこんなところに置いておくなんて、エリックさんってやっぱり変わっているのね。まちがえて薪に使われたらどうするつもりなのかしら」

 

 呆れてつぶやくビアンカにアランは苦笑し、それからすぐに表情を引き締めた。

 来たとき以上に慎重に、アランたちは厨房を横切る。幸い、会話に夢中なモンスターたちに気付かれることなく部屋を後にすることができた。

 

 

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