【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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28.根城にしていたモノ

 

「じゃあいくよ、アラン」

 

 ビアンカの合図にアランはうなずく。

 手に入れた聖なるたいまつに呪文で火を灯すのだ。

 ビアンカの指先に小さな火の玉が出現し、たいまつの先端に移る。すぐに燃え広がり、煌々と光を放ち始めた。見るだけで心が落ち着くような、深い青の輝きだ。

 

 厨房を抜けたアランたちは、再びあの漆黒の階へと足を踏み入れていた。エリックの助言に従い聖なるたいまつを暗闇に掲げる。すると、まるで布に水が染み渡るように、内部の様子がはっきりと見えるようになった。濃く濁っていた闇がどこか苦しそうに隅へ隅へと追いやられていく。

 

「すごい。エリックさんの言ってたことはほんとうだったんだ」

「そうだね。でも、だったら最初からこれを使っていてほしかったわ」

 

 ベランダでのやり取りがまだ気になっているのか、ビアンカは不満そうに頬を膨らませる。

 

 聖なるたいまつの力で、これまでわからなかった別の通路を見つけることができた。先端の炎がかすかに風に揺れ、音を漏らす。その燃焼音に混じり、遠く、モンスターたちの嬌声が聞こえてきた。

 これから、この声の主たちを討伐するのだと考えると、自然と身体が固くなった。

 引き返そうとは思わない。大広間でモンスターに縛られた人々を見たこと、そしてアルカパで待つあの猫のことが、アランたちに勇気を与えていた。

 絶対に退くものか、と。

 

 やがて新しい階段に突き当たる。予感を胸に、ふたりは一段一段確実に登っていく。予感は確信に、そして不安に塗り変わっていく。

 ……今までと違う。空気が他よりも重い。

 間違いない。この先に強い敵がいる。

 

「ビアンカ、気をつけて」

「うん」

 

 階段を上りきると、絨毯敷きの広い廊下に出た。木製たいまつが壁面に立てかけられ、内部の精緻な文様を浮かび上がらせる。調度品も他の階より豪華に見えた。

 

 行く先に大きな扉が見えた。クローゼットのように左半分と右半分が分かれ、廊下側に開いている。

 大扉の下から、たいまつに照らされてもなお暗い闇が淀み漂っていた。

 アランとビアンカは戦闘態勢をとる。

 

 大扉の内部は謁見の広間だった。扉の入り口から中央奥の椅子まで赤毛氈(あかもうせん)が続いている。

 アランがたいまつをゆっくりとかかげると――椅子に腰掛けた『そいつ』が見えた。

 

「ほほぅ。これはこれは。珍しい客だな」

 

 粘つく声。麻布を擦る音を立てながら『そいつ』が椅子から立ち上がる。全身を包むローブはところどころ穴が開いていて、そこから白い骨が見えた。『そいつ』は笑う。骨同士が擦れ合う乾いた音が響いた。

 

「おまえが」「……『親分ゴースト』!」

 

 アランとビアンカが声を揃える。「そうとも」と『親分ゴースト』は首肯した。余裕すら漂わせ、こちらへ二歩、三歩と近づいてくる。

 

「あんたのせいで、この城の人たちはみんなめいわくしてるのよ。さっさとどっか行っちゃいなさい!」

 

 ビアンカが気丈に叫ぶ。アランは唇を引き結んで、敵を睨みつける。

 初めて味わうような緊張感、威圧感。アランの頬に汗が伝った。

 親分ゴーストはビアンカの警告をまったく無視した。

 

「こんなガキどもが俺たちの根城に乗り込んでくるとはなあ。結構、結構。なかなか旨そうじゃないか」

「なんですって」

 

 気色ばむビアンカ。すると親分ゴーストは顔を歪めた。嗤ったのだ。

 

「ちょうど俺も子分たちも退屈していたところだ。せいぜい――」

 

 直後、アランは異変に気付き、声を上げようとする。

 

「――愉しませてもらおうかっ!」

 

 間に合わなかった。親分ゴーストが言い放った刹那、アランとビアンカの足元が突如として『消えた』。

 

「しまった……っ!」

「き、きゃあああああっ!」

 

 床に開いた大きな穴にアランとビアンカは為す術もなく吸い込まれる。後にはただ、親分ゴーストの嘲笑だけが響いていた。

 

 

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