【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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30.決意を胸に

 

 風が止み、炎が消え去ったホールで、静かなどよめきが走った。

 

『何ということだ』

『あんな小さな子どもたちが』

『信じられん。これは夢だろうか』

 

 口々に囁きあうのは、親分ゴーストの呪いによってこのホールに縛り付けられている使用人たちだった。彼らの身体はまだ自由になっていないが、見張り役とも言えるおばけキャンドルたちが一掃されたためか、踊りを止め、アランとビアンカを遠巻きに眺めている。

 驚き半分、不安半分の彼らに、アランは静かに語りかけた。

 

「もうだいじょうぶ。後は僕たちがなんとかするから。ぜったい、親分ゴーストをたおしてみせるから」

「そうよ。そしたらみんな自由になれる! 私たちにまかせて!」

 

 ビアンカも言葉を重ねる。使用人たちはお互いに顔を見合わせていた。

 歓声は上がらない。戸惑いが広がるばかりである。

 

 アランとビアンカは互いの顔を見た。使用人たちの反応に、二人も不安になる。

 

「どうしたんだろう。みんなあんまりうれしくなさそう」

「きっと、親分ゴーストが何かをするんじゃないかって、心配なんだと思うわ。でも」

 

 ビアンカは頭上を見上げる。

 

「このままじゃいけないよね。エリックさんたちのためにも、ここの人たちのためにも。そして、あの猫ちゃんのためにも」

「うん」

 

 アランはうなずく。武器を構えたまま、二人は再び上の階に向かって歩き出した。

 すると――

 

「え?」

「あっ……」

 

 呆然とつぶやくアランたちの頭上で、使用人たちが旋回し始めた。部屋の端で腰掛けていた幽霊たちも、その輪に加わる。

 やがて彼らは整然と列を作った。アランたちが向かう先、ホールの出入り口へと続く道を作るように。

 それは彼らの無言の励まし、見送りだった。

 

「ありがとう。みんな」

 

 アランとビアンカは力強く一歩を踏み出す。ぜったいに負けるものかと決意を新たにして――

 

 

 

 レヌール城の闇はもう、怖くはない。

 親分ゴーストが居座る最上階まで一気に駆け上がった二人は、巨大な廊下を横切るモンスターの影をとらえた。

 

「まて、親分ゴースト!」

 

 アランが叫ぶ。親分ゴーストはちらりとアランたちを見ると、そのまま扉の向こう側に消えた。アランたちも走る。その扉は、アランたちが階下へと落とされた謁見の間から廊下を挟んでちょうど反対側にあった。

 汗ばむ手をふたりでしっかりと握り合ってから、アランとビアンカは勢いよく扉を開けた。

 

 吹き付ける冷たい風。広いベランダに出た。

 どこまでも広がる夜空の闇と雷雲を背に、親分ゴーストが仁王立ちしていた。穴だらけのマントが風を受けてはためいている。

 

「ぎぎぎ……まさかこんなガキどもがここまでやるとは」

「さあ、あとはあなただけよ。覚悟しなさい!」

 

 ビアンカが鞭を振りかざし啖呵を切る。親分ゴーストは背中をそらせて笑った。

 

「かかかっ! 威勢のいいこったなあ。だが、手下どもを何匹倒したところでこの俺には敵うまい!」

「そんなのやってみなくちゃわからない!」

 

 アランが剣を構えた。

 

「みんなのために、ここでおまえを倒す!」

「かぁっかかかっ! やってみやがれクソガキがぁっ!」

 

 親分ゴーストがアランたちに牙を向け、襲いかかってきた。

 

 

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