【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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31.親分ゴースト戦 1

 

 親分ゴーストが手を突き出す。骨だけとなった指先が異常に伸び、鋭く尖った先端がアランを襲う。受け止めた剣から重い衝撃が伝わり、アランは体勢を崩す。

 

「かーっ!」

 

 尻餅をついたところへ親分ゴーストが飛びかかる。剣を振り上げようとするアランだが、焦るあまり先端が石床を削るだけだった。

 

「アランッ!」

 

 脇から伸びるムチ。親分ゴーストの手首に巻き付いて動きを止める。

 

「さあ、今のうちだよ!」

「しゃらくさいわ、小娘が!」

 

 ビアンカに向き直った親分ゴーストは空いた手でムチを掴んだ。そのまま強引に振り回す。体重の軽いビアンカの身体は簡単に宙に浮き、そのままアランに激突する。ふたりしてうずくまり、空咳を繰り返す。

 むきになって立ち上がるビアンカに、アランは手を向けた。防御力上昇魔法『スカラ』をかける。魔法の防御膜がビアンカの身体を柔らかく包み込んだ。

 

「むりにつっこんじゃだめだ。ビアンカはそんなに打たれ強くないんだから」

「うー、くやしいなっ」

「帰れなくなったら意味がないよ。ふたりで帰るんだ」

 

 そう言い、アランも自身にスカラをかける。そうして立ち上がったとき。

 

「――、ルカニ!」

 

 鉛のように重くなるアランの身体。着ている服がひどく頼りなく感じられる。

 防御力低下呪文『ルカニ』。

 

 アランを呼ぶビアンカの声に顔を上げる。同時に親分ゴーストの拳が炸裂した。おおきづちの痛恨の一撃とは比べものにならないほどの衝撃が全身を駆け巡る。

 

 気がつくと、アランの身体はテラスの端の方まで吹き飛ばされていた。ビアンカが駆け寄り、抱き起こす。だがアランは視界が揺れて上手く立ち上がることができない。

 

 か、回復を……しなきゃ。

 そう思うが今の状態では呪文の詠唱もままならない。

 親分ゴーストはゆっくりと近づいてくる。

 

「かか、かかかかかっ」

 

 耳障りな笑い声が二人のところに届く。

 アランは動けない。ビアンカもまたアランを抱えたまま動かない。

 親分ゴーストの嘲笑が止んだ。とどめを刺す気だ。

 

 そのとき、ビアンカが決然と顔を上げた。その掌を敵に向ける。親分ゴーストが身構える。

 ビアンカは素早く詠唱を終わらせた。

 

「マヌーサ!」

 

 おばけキャンドルたちを混乱させた、幻惑の霧。絶対の勝利に油断していた親分ゴーストはその罠に完全にかかった。

 

「おおっ!? これは……くそう、小娘ぇ!」

 

 暴れる。その隙にビアンカはアランを抱きかかえて移動した。

 親分ゴーストに位置がばれないよう、彼女は小声で語りかける。

 

「アラン、薬草だよ。今のうちにほら、飲んで。きずぐちにも塗っておくね」

「あ、ありが……と」

 

 ようやく周りの様子が見えるようになってくる。アランを覗き込むビアンカは汗ばみ、これまで見たことがないほど真剣な表情をしていた。

 

「強い敵だね」

 

 彼女は言った。

 アランはうなずいた。だが、諦めない。ビアンカの声にも恐れの色はない。

 ここで諦めたら何のためにエリックは、使用人の霊たちは、そしてあの哀しそうな女の人は、自分たちに願いを託してくれたのかわからなくなる。

 絶対に負けないと決意したのか、わからなくなる。

 

「――、スカラ」

 

 残り少ない精神力をかき集め、アランは再び自らの防御力を引き上げた。これでルカニの効果をある程度相殺できる。

 いまだ目標を求めて暴れ回る親分ゴーストの背に、アランとビアンカは猛然と突撃した。

 

 だが――。

 

「そこかぁっ!」

 

 足音を聞きつけ、親分ゴーストが振った腕。そこから炎が巻き起こった。

 まずい、とアランは思った。これは呪文――複数の目標をその火に巻き込む『ギラ』。

 目の前に壁のように広がる炎。

 

 そのとき、視界の端で金色のお下げが揺れた。

 ビアンカがギラの炎の前に敢然と立ち塞がった。

 

 

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