【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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33.暁とともに平穏を

 

 ふと、暁の光とは別の輝きがアランたちに近づいてきた。

 

「エリックさん?」

 

 驚くアランに向かって、エリックは手を差し伸べた。彼の隣には、あの大きな部屋で見た女性の幽霊が浮かんでいる。彼女はビアンカに向けて手を伸ばす。

 戸惑い、お互いの顔を見合わせるアランとビアンカ。親分ゴーストが去った今、警戒すべき敵はもういない。エリックたちが放つ優しい光を無視することはできなかった。

 アランはエリックの、ビアンカは女性の幽霊の手を握る。かすかな感触とともに、二人の体はふわりと浮かび上がった。そのまま空中を渡り、屋上へと運ばれる。

 

 そこは、以前ビアンカが閉じ込められていた墓の前であった。

 エリックが穏やかに微笑みかける。

 

『ありがとう。君たちのおかげでモンスターは去った。これでこの城も平穏を取り戻すだろう』

 

 真っ直ぐな感謝の言葉に、アランははにかんだ。一方のビアンカは「あれだけ苦労したのだから、みんなで喜んでくれてもいいのに」と、なぜか不満気だ。その様子を見て、エリックの隣にいた女性が小さく笑った。初めて見る笑顔だった。

 彼女は言った。

 

『ようやく、この城に朝が戻ってきます。小さな勇者さんたち、本当にありがとう。この城にいる人たちを代表して、お礼を言います』

「もう、だいじょうぶなんですか?」

『ええ。あのときはごめんなさい。お話もできなくて……。モンスターの束縛が強すぎて、姿を見せるのが精一杯だったのです。でも、これでやっと自由になれます』

「そうだったんだ。あれ? でもエリックさんって、ずいぶん自由に動き回っていたような」

 

 ビアンカが首を傾げると、女性は笑った。今度は困ったような笑顔だった。

 

『このひとは、昔から奔放なところがあって。モンスターたちも、このひとの強引さにはいささか手を焼いていたみたい』

『こら。何を言うか。それでは私がモンスターより厄介な存在に聞こえるではないか』

 

 不満を垂れるエリック。アランとビアンカは顔を見合わせた後、声に出して笑った。

 平穏を取り戻せたのだ――と、心から思えた。

 

 朝日が空に差し込む。レヌール城の屋上から見るそれは、思わず言葉を失うほど綺麗だった。

 

『さて、そろそろ行くか。おまえ』

『はい。あなた』

「え、もう行っちゃうの?」

 

 ビアンカが問う。エリックたちは首を縦に振った。

 

『私たちは、もう魂だけの存在になっている。モンスターたちに縛られたせいでこの地に留まらざるを得なかったが、本来は神のもとへ向かわねばならない』

『ここでお別れね』

 

 女性が再び手を差し伸べてくる。アランとビアンカは、その手をしっかりと握りしめた。手応えはないのに、なぜか手の平がじんわりと温かくなる気がした。

 

 やがてエリックと女性は、陽光が夜の闇を拭う様に合わせるように、ゆっくりと空へと昇っていった。音もなく輪郭が消えるまで、アランたちはその行き先を眺めていた。

 

「……行っちゃったね」

「うん」

「いろいろあって、いたい思いもしちゃったけど。来て、よかったね」

「うん」

 

 感慨深くうなずく。

 ビアンカが思いっきり背伸びをした。

 

「さて、と。早く戻らなきゃ。あんまり遅くなっちゃうとお母さんに怒られちゃうわ。あの猫ちゃんのことも心配だし。……あら?」

 

 ふと、ビアンカが墓標の根元を見た。

 そこには、朝日の反射で輝く宝石があった。金色のそれは、見つめるだけで吸い込まれてしまいそうな不思議な力を感じた。

 ビアンカが宝石を手に取る。

 

「綺麗な石。きっとエリックさんたちのお礼だわ。もらっていきましょ」

 

 はい、と手にした宝石をアランに渡す。アランは首を傾げた。

 

「宝石だよね? それはビアンカがもっていたほうがよくないかな」

「いいの。これはエリックさんのお礼だけど、私のお礼でもあるもん」

「ビアンカの? どうして?」

「もう、あんがいにぶいのね、アランは。そんなことじゃ、大きくなってもおよめさんが来ないわよ?」

 

 呆れたように言うビアンカを前にしても、アランには何のことかわからない。そうこうしている内に、ビアンカは半ば無理矢理アランの手に宝石を握らせてしまった。

 

「とにかく! これはアランが持ってて。私たちが今夜、すごい冒険をしたんだって証に。私たちが力を合わせれば、こんなすごいことができるんだぞっていうこと、アランにはずっと覚えていてほしいから」

「うん。わかった」

「よろしい」

 

 にぱっ、とビアンカは笑った。アランもつられて笑った。

 それから二人は歩き出す。

 

「じゃあ、かえろう」

「ええ。かえりましょう。アルカパに!」

 

 

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