【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~ 作:和成ソウイチ
ふと、暁の光とは別の輝きがアランたちに近づいてきた。
「エリックさん?」
驚くアランに向かって、エリックは手を差し伸べた。彼の隣には、あの大きな部屋で見た女性の幽霊が浮かんでいる。彼女はビアンカに向けて手を伸ばす。
戸惑い、お互いの顔を見合わせるアランとビアンカ。親分ゴーストが去った今、警戒すべき敵はもういない。エリックたちが放つ優しい光を無視することはできなかった。
アランはエリックの、ビアンカは女性の幽霊の手を握る。かすかな感触とともに、二人の体はふわりと浮かび上がった。そのまま空中を渡り、屋上へと運ばれる。
そこは、以前ビアンカが閉じ込められていた墓の前であった。
エリックが穏やかに微笑みかける。
『ありがとう。君たちのおかげでモンスターは去った。これでこの城も平穏を取り戻すだろう』
真っ直ぐな感謝の言葉に、アランははにかんだ。一方のビアンカは「あれだけ苦労したのだから、みんなで喜んでくれてもいいのに」と、なぜか不満気だ。その様子を見て、エリックの隣にいた女性が小さく笑った。初めて見る笑顔だった。
彼女は言った。
『ようやく、この城に朝が戻ってきます。小さな勇者さんたち、本当にありがとう。この城にいる人たちを代表して、お礼を言います』
「もう、だいじょうぶなんですか?」
『ええ。あのときはごめんなさい。お話もできなくて……。モンスターの束縛が強すぎて、姿を見せるのが精一杯だったのです。でも、これでやっと自由になれます』
「そうだったんだ。あれ? でもエリックさんって、ずいぶん自由に動き回っていたような」
ビアンカが首を傾げると、女性は笑った。今度は困ったような笑顔だった。
『このひとは、昔から奔放なところがあって。モンスターたちも、このひとの強引さにはいささか手を焼いていたみたい』
『こら。何を言うか。それでは私がモンスターより厄介な存在に聞こえるではないか』
不満を垂れるエリック。アランとビアンカは顔を見合わせた後、声に出して笑った。
平穏を取り戻せたのだ――と、心から思えた。
朝日が空に差し込む。レヌール城の屋上から見るそれは、思わず言葉を失うほど綺麗だった。
『さて、そろそろ行くか。おまえ』
『はい。あなた』
「え、もう行っちゃうの?」
ビアンカが問う。エリックたちは首を縦に振った。
『私たちは、もう魂だけの存在になっている。モンスターたちに縛られたせいでこの地に留まらざるを得なかったが、本来は神のもとへ向かわねばならない』
『ここでお別れね』
女性が再び手を差し伸べてくる。アランとビアンカは、その手をしっかりと握りしめた。手応えはないのに、なぜか手の平がじんわりと温かくなる気がした。
やがてエリックと女性は、陽光が夜の闇を拭う様に合わせるように、ゆっくりと空へと昇っていった。音もなく輪郭が消えるまで、アランたちはその行き先を眺めていた。
「……行っちゃったね」
「うん」
「いろいろあって、いたい思いもしちゃったけど。来て、よかったね」
「うん」
感慨深くうなずく。
ビアンカが思いっきり背伸びをした。
「さて、と。早く戻らなきゃ。あんまり遅くなっちゃうとお母さんに怒られちゃうわ。あの猫ちゃんのことも心配だし。……あら?」
ふと、ビアンカが墓標の根元を見た。
そこには、朝日の反射で輝く宝石があった。金色のそれは、見つめるだけで吸い込まれてしまいそうな不思議な力を感じた。
ビアンカが宝石を手に取る。
「綺麗な石。きっとエリックさんたちのお礼だわ。もらっていきましょ」
はい、と手にした宝石をアランに渡す。アランは首を傾げた。
「宝石だよね? それはビアンカがもっていたほうがよくないかな」
「いいの。これはエリックさんのお礼だけど、私のお礼でもあるもん」
「ビアンカの? どうして?」
「もう、あんがいにぶいのね、アランは。そんなことじゃ、大きくなってもおよめさんが来ないわよ?」
呆れたように言うビアンカを前にしても、アランには何のことかわからない。そうこうしている内に、ビアンカは半ば無理矢理アランの手に宝石を握らせてしまった。
「とにかく! これはアランが持ってて。私たちが今夜、すごい冒険をしたんだって証に。私たちが力を合わせれば、こんなすごいことができるんだぞっていうこと、アランにはずっと覚えていてほしいから」
「うん。わかった」
「よろしい」
にぱっ、とビアンカは笑った。アランもつられて笑った。
それから二人は歩き出す。
「じゃあ、かえろう」
「ええ。かえりましょう。アルカパに!」