【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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春を呼ぶ妖精の村編
35.チロルの力と性別


 

「しかし、今回のことは父も驚いたぞ」

 

 パパスからそんな言葉をかけられたのは、サンタローズへの帰路をしばらく歩いた頃だった。

 

「まさか私が(とこ)に伏せている間に、たったふたりでモンスターを退治してしまうとは。しかも、話ではそこの親玉はかなりの強敵だったというではないか」

「でもお父さん、親分ゴーストは僕ひとりじゃ勝てなかったよ。ビアンカや、城のひとたちのおうえんがあったから、勝てたんだ」

 

 アランはまっすぐにパパスの目を見ながら言う。それは紛れもない本心で、同時に隠すべきことではないとアランは直感的に理解していた。

 パパスは一瞬、驚いたように目を丸くした。それから優しく表情を緩ませる。

 

「そうか。大事な経験をしたな」

「うん」

 

 パパスのすぐ後ろを小走りについてくるアラン。その姿は、アルカパに到着したときよりも少しだけ大きくなっていた。

 

「ところでアラン。その子猫のことだが」

 

 パパスが言いかけたそのとき。

 草むらをかき分けて、突如として巨大なイタチのモンスターが現れた。三匹。威嚇するように荒い鼻息を吹き、今にも襲いかかってきそうな気配だ。

 パパスは愛用の長剣を抜き放った。前へ一歩踏み出し、背中の息子へ声をかける。

 

「アラン、下がっていろ」

「ううん、お父さん。僕も戦う」

 

 言うなり、アランは銅の剣を構えた。自分から打って出る真似はしない。父の目の届くところで迎え撃つ姿勢を取る。

 パパスは感心したようにうなずいた。

 

 モンスターが一斉に襲いかかってくる。

 数は多くとも、パパスの敵ではない。あっという間に一匹、斬り伏せてしまう。仲間の亡骸を踏み越えアランへと突進してきた一匹も、アラン自身の剣で退けられた。

 モンスターは懲りずに波状攻撃をしかけてきた。先の二匹をさらに踏み越え、最後の一匹がアランへと牙を剥く。

 少しだけ反応が遅れた。躱せない。迎撃もできない。アランは咄嗟に防御の姿勢を取った。

 

「ぐるるるぅっ!」

「キィーッ!」

 

 唸り声と悲鳴が重なった。

 それまでアランの足元に寄り添っていたチロルが自ら前に出て、モンスターに攻撃を加えたのだ。予想外の反撃に油断したのか、首筋に爪の傷を受けたモンスターは慌てて後退する。

 その隙をパパスは見逃さない。

 一息で間合いを詰めると、悲鳴を上げる間も与えず一刀両断にしてしまった。

 

 剣を収め、軽く息を吐くパパス。

 

「大丈夫か、アラン」

「うん。僕はへいき。でもチロル、すごいじゃないか」

 

 再び足元に寄ってきたチロルを抱き上げ、アランは賞賛する。チロルは目を細めながら「なぉん」と鳴いた。まるで胸を張って自慢するようだった。

 顎に手を当て何やら思案していたパパスが、アランにたずねる。

 

「気になっていたのだが、その猫はアルカパの子どもが拾ってきたのだったな」

「そうだよ。でもいじめられていたから、何とかしなきゃって思ったんだ」

「だがアラン、その子猫はもしかしたら」

 

 言いかけ、パパスは口をつぐんだ。

 

「なに? お父さん。チロルがどうかしたの?」

「いや。子猫にしては勇気と力があるなと感心していたのだ。ただ、まあ、チロルという名前がいかにもと言うか、ずいぶんと可愛らしい名前をつけたものだと思ってな」

「でもお父さん、チロルは女の子だよ」

「……なぬ?」

 

 パパスが珍しく唖然とする。彼はまじまじとチロルを見るが、顔つきや体つきからは雄なのか雌なのかさっぱり区別がつかなかった。

 

「アランよ。お前はいつのまにキラ――いや、子猫の性別を見分けられるようになったのだ」

「うーん。なんとなく、かなあ。ほら、目のくりっとしたところとか、ふんいきとか。女の子なのは間違いないよ、お父さん」

「なんと……」

 

 しばし言葉を失っていたパパスだったが、ふいに遠い目をした。

 

「これもまた妻から受け継がれし素質、なのかも知れぬ」

「お父さん?」

 

 何でもない、とパパスは言った。

 

「さあ、先を急ぐぞ。予定外のことで皆には心配をかけているからな。早く戻らねば」

「そうだね。サンチョにチロルのこともしょうかいしなきゃ」

 

 アランは笑いながら言った。そうだそうだと言わんばかりに、胸に抱かれたチロルが「なぁるぅ」と鳴いた。

 

 

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