【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~ 作:和成ソウイチ
船を見送り、港の中心へ歩き出してすぐ、パパスとアランの元に二人の男女が駆け寄ってきた。彼らはパパスの前に立つなり、両手を握った。
「パパス! パパスじゃないか」
「あらあら、まあまあ。ずいぶん久しぶりだねえ! 二年ぶりじゃないかい?」
アランが父を見上げると、パパスは「この方々とは昔からの知り合いなのだ」と教えてくれた。夫婦で港の管理をしているという。
しばらく旧友と談笑していたパパスは、所在なげに立っている息子に向かって言った。
「父さんはこの人たちと話があるから、しばらく散歩していなさい。ただし、港の外には出るんじゃないぞ。危ないからな」
「うん!」
満面の笑みでうなずくなり、アランは駆け出した。船も珍しかったが、海の上に立つ建物もまた新鮮で、探検したくてたまらなかったのだ。
港は、海底に杭を打ち込んでその上に板を張るという造りになっていた。端から覗き込めば下はすぐ海で、底まで見えるほど水面は透明感があった。穏やかな風と潮騒の音が気持ちよく、アランは上機嫌になっていた。
港の出入り口まで差し掛かったときである。ふと、か細い声を聞いた。人のものではない。小動物が鳴く声だ。
アランは表情を変えた。その声の主が、助けを求めているように感じたからだ。
周囲を見回す。すると港の端、板張りの床にできた穴に一匹の大きなリスが足を取られて身動きが取れなくなっている姿を見つけた。口には小枝を噛んでいる。どこかにその枝を運ぼうとして
アランが近づくと、リスは甲高い声を上げて暴れた。それでも小枝は決して放そうとしない。
リスの大きな瞳を見つめ、アランは力強く言った。
「だいじょうぶ。もう心配いらないよ。僕がキミを助けるから」
すると、途端にリスが大人しくなった。ヒゲを揺らし、アランを見上げる。
身体に傷が付かないよう慎重に支えながら、アランはリスを解放した。自由になったリスは足を何度も払う仕草をした。どうやら怪我はないようだ。
「ほら。お行き」
促すとリスは勢いよく駆け出した。微笑みながら見送る。
ところがリスは、港と陸地とを繋ぐ桟橋のところで立ち止まった。アランを振り返り、尻尾とヒゲを動かす。そのまま動かない。
「もしかして、付いてこいってことなのかな?」
アランが歩き出すとリスも走り出す。アランと一定の距離を保つように、たびたびリスは振り返ってきた。どうやら本当にどこかへと案内してくれているようだった。
桟橋を越えてすぐ脇には林があった。丈の低い常緑植物が群生する中へリスは飛び込む。草をかき分けながらアランが後を追うと、やがて半径二メートルほどの開けた場所に出た。中心には小枝が山と盛られている。
枝の陰から数匹の小さなリスが顔を覗かせていた。アランは、ここが彼らの家なのだと知った。
「すごいな。立派だね。でもいいの? 僕をここに連れてきても」
するとリスは巣の回りに落ちているものを鼻先で示した。見れば、財布やら人形やら、おそらく旅人が落としたであろう品々が土にまみれて転がっている。巣の材料と間違えて持って来てしまった物なのだろう。
どうやら助けてくれた御礼に持っていけということらしい。
一度は断ろうとしたが、リスが服の裾を引っ張ってまで引き留めようとするので、アランは仕方なく落とし物のひとつを手に取った。
細長い木製の武器――『ひのきの棒』である。落とし物にしては作りがしっかりしている。幾重にも布が巻かれた握りの部分に手を添え、思いつくままに構えてみると、何だか憧れの父に近づけたような気がして嬉しくなった。
リスが鳴く。「気に入ってくれてよかった」と言っているようだった。
「ありがとう。じゃあ、元気でね」
アランはリスたちに別れを言った。元来た道を引き返していく。旅で鍛えた方向感覚には自信がある。迷うことよりも、父の言いつけを破ってしまったことの方が心配だった。
「早く戻らなきゃ」
小走りに林を抜ける。
直後、港の入り口に向けた足が止まった。来たときはいなかった『モノ』を目にし、顔を強ばらせる。
「まさか、あれって」
アランと港の間、わずか数十歩。
その間に、モンスターが立ち塞がっていた。