【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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44.ザイルの心根

 

「坊やは、わしらドワーフ族と妖精族とは仲が悪いと思っているようじゃが、半分は間違いだ。少なくとも、わしらは妖精族と共存できていた。ポワン様という立派なお方の元でな」

「ええ。それは間違いないと思うわ」

 

 ゴースの言葉にベラもうなずく。

 

「ただ、何と言うのか、妖精族とドワーフ族って、考え方が正反対のところがあるのよ。だから個人的にそりが合わないっていうのはあったと思う」

「そうじゃな。だがポワン様はそんなわしらでも温かく迎えてくださった。感謝こそすれ、恨むようなことは決してない。本来はな」

「あの。二人とも、いったい何の話をしているの?」

 

 アランは不安を表情に滲ませてたずねた。ベラがアランの肩に手を置く。

 

「ゴースさんの言う通り、ポワン様は村のすべての人に平等に接してくださる。種族関係なしに。だけどある日、ささいな行き違いからひとりの男の子の心を傷つけてしまったの。それが、ザイル」

 

 ベラはうつむいた。アランの髪の先を撫でながら、彼女は語る。

 

「ザイルはまだ赤ん坊の時、人間の親に捨てられたの。そこを、たまたま人間界に来ていたゴースさんに拾われたのよ。ゴースさんや仲間のドワーフたちは彼にとても良くしていたわ。ただ……私たち、妖精族の方が捨てられた人間に子に対してどのように接したらいいのかわからなかった。そういう時期があったの」

 

 ――かつての妖精族の村は、種族間の対立が少なからず表に出ていたらしい。

 親に捨てられ、妖精族に邪険にされ。ザイルは自然と育ての親であるドワーフの考え方に傾倒していった。

 ただそれも、ポワンが村を正式に治めるようになってからは表だって対立することはなくなり、ザイルも少しずつ――本当に少しずつ――妖精族にも心を開くようになっていった。

 そんな矢先のこと。

 

「あるドワーフが大切にしていた武器が何者かに奪われたの。それだけじゃなく、現場に居合わせた妖精族がひどいケガを負った。ドワーフが自分たちの作った武器を盗むなど考えられない。一方で、妖精族が同族を襲うことも考えられない。怒った一部の妖精族が言ったわ。『これは人間、ザイルの仕業に違いない』って」

「そんな!」

「もちろん、それは違うと言う妖精族も多かった。ポワン様もきっと同じ考えだったはずよ。だけどこの事件をきっかけにして、今までポワン様が抑えていた不満が噴き出す寸前にまで行ってしまったのよ。これ以上平和なこの村を疑心暗鬼で覆いたくない。ポワン様はドワーフ族と話し合い、ほとぼりが冷めるまで別々の場所に住むことに決めた。もちろんザイルも。そうすることで、妖精族の怒りの矛先がザイルに向かうのを防ごうとしたの」

「だが、それは返ってザイルの心に闇をかぶせるだけになってしまった」

 

 ゴースが言葉を引き継ぐ。

 

「村を離れて、幾日もしない内だった。わしの元を出たザイルはポワン様から『春風のフルート』を奪い、いずこかへと姿を消した。おそらく、北の宮殿へ」

 

「知ってるの?」とベラが驚く。ゴースは小さく笑う。

 

「なに、他ならぬ息子のことじゃからな」

 

 だが、そのささやかな笑顔もすぐに翳った。

 

「わしには、今回のことがあの子だけの考えとはどうしても思えない。わしのところを去る直前まで、確かにあの子はポワン様を恨んでおった。ポワン様のせいでじいちゃんが追放された、とな。だがそれでも、あの子は優しい心根を取り戻しつつあったのじゃ。それがなぜ、急にあのようなことに」

 

 しわがれた手で、顔面をゆっくりと二度、なでつける。指と指の間から重いため息が聞こえてきた。

 

「あの子に、ザイルに何かよからぬことを吹き込んだ奴がいるのではないかと、わしは思えてならないのじゃよ」

「……それは、考えもしなかった。ザイルの事は私たちにも責任があると思っていたから」

 

 ベラはつぶやく。ここまでの道のりで、彼女が時折暗い表情を浮かべるのはそういう理由だったのかとアランは気付いた。

 

「会いに行こうよ」

「アラン?」

「会いに行こうよ、ザイルに。心がやさしい子なら、会って話をすればきっとわかってくれるよ」

 

 まっすぐにベラを、そしてゴースを見つめる。

 瞠目したドワーフ族の長は、やがて静かに目を細めた。

 

「坊やなら。その不思議な瞳の力なら、ザイルの心を開くことができるかもしれないな」

「うん。頑張る」

「ほっほっ。本当に素直ないい子だ」

「そうでしょ? 私の自慢の弟分なんだから」

 

 ベラが胸を張る。アランは顔を赤らめ、照れて頬をかいた。

 

 

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