【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~ 作:和成ソウイチ
アラン、ベラ、チロルはゴースの部屋を後にした。
「ゴースさんの話だと、『カギの技法』はこの洞窟の一番下、宝箱の中に保管されているそうよ」
「もしかして、カギの開け方が書かれた本がはいっているのかな? どうしよう、僕は字が読めないよ」
「心配いらないわ。私がいるし。それに『カギの技法』はもともといろんな人が自由に使えるように編み出された技だと聞いているわ。だったら、アランでも身に付けられるような仕掛けがしてあるかもしれない」
「この洞窟みたいに?」
「そういうこと。さ、行くわよ。宝箱に辿り着くまでが大変なんだから」
「うん。チロル、君もいいかい?」
「にゃう!」
とうぜん、と言わんばかりにチロルが自信満々に返事をする。
アランたちは洞窟の地下を目指した。
良く響く足音を聞きながら、アランはかつてサンタローズの洞窟を冒険したときのことを思い出す。あのときも不安と期待と興奮に胸を躍らせて歩いたものだ。今の自分は、あのときより少しは成長できたのだろうかとアランは自問してみる。
途端、おおきづちから味わった苦い経験が脳裏に蘇り、アランは表情を曇らせた。
「アラン? どうしたの」
「ううん。何でもない。この先は僕にとってぜんぜん知らないところだから、気をひきしめなきゃって思ったんだ。それだけだから、心配しないで」
「頼もしいわね。本当にアランって、たくさんの冒険をしてきたのね」
ベラが褒める。その口調には慈しみがこもっていた。
階下に降りる階段に差し掛かる。アランは腰に提げていた剣を引き抜き、両手に構えたまま慎重に歩を進めた。
チロルが首元をアランの足首にこすりつける。早く行こうよ、と急かしているようだった。
「わかってる。チロル、敵の気配がわかったら教えて」
「にゃ」
階段を下りきった。ドワーフの洞窟の特徴なのか、壁面は滑らかに整えられている。道は左右に一つずつ。奥に向かって緩やかに湾曲している。
チロルが唸り始めた。直後、アランたちのものとは別の足音が耳に届く。いや、足音だけではない。羽音らしき物音まで聞こえてきた。
ベラがアランの肩に手を置いた。
「モンスターは一匹だけではないわ。それにこの羽音……いけない、『メラリザード』が混じっているかも」
「メラリザード?」
「呪文を使うモンスターよ。その名の通り、メラの呪文が使えるの。連発はできないみたいだけど」
メラが使えるモンスター、そう聞いた途端アランは肩を震わせた。レヌール城でビアンカが見せた呪文はアランの記憶にも新しい。あれが自分の身に降りかかると考えると、ぞっとした。
「やりすごしましょう。さいわい、モンスターたちは道の片方に固まっているみたい。反対側の道を進むわ。喋らないで、静かにね」
うなずく。気配を探るためか、ベラが先頭に立って歩き始めた。アランはチロルを胸に抱く。彼女はすでに臨戦態勢に入っていて、歩くたびに爪が地面をこすって音を出していたからだ。
再びチロルが唸る。頭を撫でながら「静かに」とアランは言うが、彼女は聞かなかった。モンスターが近くにいるから気が立っているのかと思い、ふと、顔を上げる。
――目の前に逆さまになった『つちわらし』の顔があった。
「うわああっ!?」
チロルを思わず取り落とし、悲鳴を上げる。主人を守ろうとチロルがつちわらしに襲いかかった。
「ちょ、アラン!?」
いきなり勃発した戦闘にベラが大いに慌てた。彼女の背中に自らの背中を預け、アランは激しく鼓動する自分の胸を必死になって鎮めた。ベラが嘆息する。
「もう、あれだけ静かにしてって言ったのに」
「ごめんなさい。あんなに敵が近づいていたのに気づかなくて。ベラが前にいてくれたから安心しちゃったみたい」
「…………」
「……。もしかしてベラもまったく気づいてなかった?」
「ごほん」
咳払いをひとつ。彼女は年長者の威厳を持って言った。
「とにかく、こうなっては戦闘は不可避だわ。アラン、囲まれる前に勝負を決めるわよ」
「でももう囲まれているみたい」
気まずそうにアランが言う。その言葉通り、細い通路の前後にモンスターは回り込んでいて、完全に挟撃状態となっていた。
唾を飲み込み、ベラはヤケになったように叫んだ。
「中央突破!」
「うん、わかった」
チロルを従え、アランは地面を蹴った。
アランの剣技、チロルの素早い攻撃、そして何より複数の敵を一度に薙ぎ払うベラの呪文によって、何とか包囲網を脱した。油断なく背後を警戒するアランの側で、ベラが大きく息をついている。
「だいじょうぶ? ベラ」
「え、ええ。何とか。実を言うとね、本格的な乱戦って初めてだったから。情けない話だけど……ふぅ。うん、もう大丈夫よ」
「ベラでも初めてのことがあるんだね」
「それはそうよ。妖精の村は、まあ、今はこんな状態だけれど平和なところだし、あなたのような人間の子と一緒に冒険するようなこともないし。だからこそ頑張らないとね」
ベラが拳を握り、気合いを入れる。アランは微笑んだ。
洞窟は、さらに奥に続いている。