【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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50.北の神殿へ

 

 深夜、パパスもサンチョも寝静まったころ。

 アランは目を擦りながらベラと共に家の地下にいた。光の階段から再び妖精の村へと行くためだ。

 

「お父さんたち、一体何を話していたんだろう」

 

 階段を上りながら、アランは眉をひそめる。下の階のことだったから断片的にしか聞こえなかったが、ただ、ひどく真剣な様子で話し込んでいることはわかった。

 

「ねえ、ベラは何を話していたかわかる?」

「……」

「ベラ?」

「え!? 何か言ったアラン?」

「もう、どうしたの。ぼうっとして。ベラはお父さんたちが何を話していたか、聞こえた?」

「まあ、ところどころ、ね」

「ほんと? どんなこと話してた?」

 

 ベラは一度口をつぐんでから、努めて明るい表情を浮かべた。

 

「アランには、まだまだ早い話だったわ」

「えー? どういうことなの」

「もっと大人になったら、お父上に直接聞いてご覧なさい」

「……ぶー」

 

 頬を膨らませるアラン。だがこれ以上ベラに何を言ってもはぐらかされるだけだと思い、そのまま光の階段を駆け上がる。

 

「もしかして、アランのお父様は」

 

 妖精の村に辿り着く間際、アランはふと、ベラのつぶやきを聞いた気がした。

 

 光を抜け、今やすっかり見慣れた雪景色の中に降り立つ。妖精の村の出入り口まで来たとき、ベラがアランの肩に手を置いた。

 

「さあ。今日こそ北の宮殿を目指すわ。準備はいい?」

「うん」「なお!」

 

 アランとチロルが揃ってうなずく。

 

「よし。それじゃあ、出発しましょう!」

 

 

 

 山岳地帯を迂回し、深い森を抜ける。時折はらはらと降り注ぐ雪が神秘的な景色を作り出す。何度か休憩を挟みながらひたすら歩き続けることしばらく。茂みの向こうに北の宮殿は現れた。

 周囲を澄んだ湖に囲まれた、白亜の建物である。地表の雪、そして鏡のような湖面から反射する光で、宮殿の外壁は目もくらむほどの輝きを放っていた。思わずアランは息を呑む。

 あそこにザイルが、春風のフルートがある――。

 自然に表情が引き締まり、アランたちはゆっくりと歩を進めた。

 

 宮殿の入り口に架けられた長い橋を渡る。橋も半ばのところで、アランは異変に気づく。

 

「……寒い」

 

 二の腕をこする。ある程度耐えられるよう装備はしてきたが、この寒さは単なる気温の低下だけではないような気がした。体の芯に深く染みてくる、悪意ある冷気を感じる。

 宮殿の外門をくぐると、寒気はさらに鋭さを増した。外観も一変する。まるでレヌール城のように、急に薄暗くなったのだ。

 それだけではない。

 

「何てことかしら。建物全体が凍っているわ」

 

 ベラが呆然と言う。

 彼女の言葉通り、外壁は全てが凍てつく氷に包まれていた。漂う冷気は本物で、アランたちの吐く息が白く染まる。くしゃみをしたチロルの声が、宮殿内に小さくこだました。まるで建物全体が巨大な洞窟の中にあるように、奇妙な圧迫感がある。

 

 青白く輝く石畳を歩く。道の両側を見ると真っ白に染まっていた。地面もまた、完全に凍りついているのだ。

 正面扉の前に来る。ふたつの巨大な氷をはめ込んだ形になっている。合わせ目のところに小さく、カギ代わりの鎖がかけてあった。

 ベラにうなずきかけ、アランはカギに触れる。体と頭の中を不思議な感覚が巡り、少し手を動かすだけで鎖は簡単に地面に落ちた。

 巨大な氷の扉がひとりでに横滑りする。大きさと比べ驚くほど静かな動きだった。露わになった宮殿の内部から、さらに強い寒波が打ち寄せてくる。

 

「行きましょう」

 

 ベラが言い、アランはうなずく。

 先頭に立ったアランは宮殿内に入る。白く固まった氷の床へと足を踏み出す。

 

「うわっ!?」

 

 踏ん張った瞬間、ものの見事に滑った。それだけではなく、転んだ勢いでそのまま前へ前へ滑っていく。慌てて床を掴もうとしたがまったくの無駄だった。

 と、止まらない――!?

 

「にゃふっ!」

 

 滑り続けるアランの襟元をくわえたチロルが懸命にふんばる。しかし、突き立てた彼女の爪は氷に覆われた床に弾かれ、アランを引き留めるどころか自分も一緒になって滑る羽目になってしまう。

 ベラが悲鳴を上げる。前を向くと、正面の地面に大きな穴が空いていた。まるで罠にかかった獲物を捕らえるように。

 

「うわわわっ!?」

「アラン!」

 

 ベラの叫びも虚しく、アランとチロルはそのまま穴の中へと落下してしまう。

 穴の底は思ったよりも浅かった。地面まで近いと気付くなり、アランは咄嗟に体を返し、すんでの所で頭から落ちることを回避する。

 

 尻をもろに地面に打ち付け、涙目になる。一方のチロルは、さすがに身のこなしが人間以上に器用で、両手脚で難なく着地を決めていた。

 心配そうにすり寄ってくるチロルをアランは優しくなでる。助けにならなかったのが悔しいのか、チロルはどことなくしょんぼりしていた。

 

 周囲を見る。そこは地下にある小部屋だった。物置なのかもしれない。がらんとした空間である。床から壁面から、ここも例外なく凍りついている。

 

「ベラ! 僕は大丈夫だから。気をつけて!」

 

 天井の穴に向かって叫ぶ。しかし返事がない。首を傾げた途端、「きゃーっ!」と悲鳴が聞こえた。直後、天井に人影が現れる。

 

「ベ、ベラ!?」

「アランごめーんっ!」

 

 空中で手を合わせながらベラが降って来る。アランは慌てて立ち上がろうとして、またこけた。その上にベラが激突する。

 

「いったた。ご、ごめんアラン。大丈夫?」

「へ、平気」

 

 衝撃でくらくらする頭を押さえて答える。ベラはすまなそうにホイミをかけてくれた。その脇で、チロルが「早くどいてあげてー」とベラの裾を噛んでいた。

 

 

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