【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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57.雪の女王戦 2

 

 戦いの様子をザイルは呆然と眺めていた。

 雪の女王がモンスターであったことも大きな驚きだったが、それと同じくらい、敢然と立ち向かっていくアランの姿に衝撃を受けた。

 

 あいつは何と言ったか。ザイルを酷い目に遭わせた、それが許せない、と言っていなかったか。

 自分と同じ、人間の子が。ただ騙されて全てを拒絶したのは自分、なのに友達になろうと言ってくれた、あいつが。

 

「くそっ」

 

 ザイルは立ち上がる。こうして見ているとわかる。アランの実力はザイルより上だ。仮にアランたちと戦っていたとしたら、敗れていたのはこちらだろうと思う。

 いや、今はそんなことを考えている場合ではない。

 そう、今は――。

 

「ザイル!」

 

 ベラの声に振り向く。必死の形相の妖精族が、ザイルに向かって怒鳴ってきた。

 

「これでわかったでしょう!? あなたは操られていたの。あなたが私たちからだけでなく、ゴースさんの元からも離れたきっかけを作ったのは、あいつ!」

「ああ。よっくわかってるさ! でも、だから俺にどうしろって言うんだよ!」

「逃げなさい!」

 

 意外な言葉にザイルは目を大きく見開いた。ベラは重ねて叫ぶ。

 

「逃げなさい、ゴースさんのところへ。そして全部話すの。時間はかかるかもしれないけれど、きっとみんなともわかりあえる。ポワン様も許してくださるわ」

「お前、なんで」

「決まってるでしょそんなこと! あなたはアランの友達! 友達を助けるのは姉の役目よ!」

「あ、ね?」

「さあ早く。何とか保たせるから、今のうちに逃げるのよ」

 

 かしの杖を大きく振りかぶる。流れるような詠唱の直後、ベラは仲間たちに合図した。

 

「アラン、チロル。離れて。行くわよ!」

 

 杖の先から迸る炎。火炎呪文ギラが炸裂する。

 床を焼く音とともに蛇のごとく炎が走り、雪の女王に絡みついた。冷気を司るだけあって、炎の呪文は雪の女王に大きな痛手を与えていた。女王は顔面を押さえてのたうち回る。ベラの顔に会心の笑みが浮かんだ。

 

 だがザイルは見逃さなかった。炎を振り払った雪の女王が、すさまじい形相で大口を開けたことに。白い燐光をまとった空気が女王の体内へ取り込まれていく。

 

「やばい!」

 

 気がついたときにはザイルは走り出していた。

 床に突き刺さったままの斧を手に取り、振りかぶる。

 

「アラン、ベラ。防御しろ! 『アレ』が来る!」

 

 言うやいなや斧を放り投げる。鋭く回転する刃が雪の女王の顔面に直撃する。

 

 ――その直後に、来た。

 

 真円にまで開かれた雪の女王の口から、凍てつく氷の息が放たれたのだ。

 ザイルの攻撃によって雪の女王はのけぞり、息が直接アランたちに吹きかけられることは避けられた。しかし、撒き散らされた冷気の余波はアランたち全員に容赦なく襲いかかる。

 

「うわああっ!」「きゃああっ!」

 

 アランとベラの悲鳴が重なる。チロルとザイルは顔を守ってうずくまったが、それでも凍てついた体はすぐに鋭い痛みを訴えた。

 

 やがて氷の息が止む。

 

「……ぐ……ひゅ。ザイ、ル」

 

 長い髪の間から雪の女王が鋭い視線を向けてきた。

 

「ザァアイルゥゥウ、よぉおくもぉお」

「へん。先に裏切ったのはそっちだろ」

 

 ザイルは痛みを堪え、強がりを言う。氷の息を防御できたのは、ひとえにこの宮殿を氷漬けにした女王の力をじかに目にしたからだが、だからと言って無事に耐えられるかどうかは別問題だ。

 まずい、かもしれない。

 ザイルの首筋を玉の汗が伝い、かじかんだ皮膚に触れて痛みを生む。

 

 そのとき、ザイルの体が温かな光に包まれた。驚いて振り返ると、アランがザイルに向かってホイミを唱えていた。

 

「君もケガしてる。治すよ。じっとしてて。それから、君のおかげで僕たち助かったんだ。ありがとう、ザイル」

 

 その言葉を聞き、そしてアランの真っ直ぐな瞳を見たザイルは、不覚にも涙ぐみそうになった。

 アランと二人、肩を並べる。ザイルは言った。

 

「相手は強ぇーぞ、覚悟はいいか」

「もちろん。僕らはみんなで帰るんだ。だから負けないよ」

 

 ザイルは予備の短剣、アランは銅の剣を構え、いまだ呪詛の声を漏らす雪の女王に対峙した。

 

 

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