【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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59.取り戻した青空

 

 みな、同じ姿勢のまま固まっていた。

 アランとザイルは自分の武器を突きだしたまま、ベラは杖を握ったまま、そしてチロルは主たちの顔を見上げたまま。

 ただ荒い息だけが彼らの間で(こだま)する。

 

「や……」

 

 アランの両腕からゆっくりと力が抜けていく。

 

「やった……?」

「あーっ、ちくしょうっ。終わったぁ!」

 

 ザイルが半ば自棄になって叫び、仰向けに倒れる。ベラもまた膝から崩れ落ちた。

 

「つ、疲れたぁ。あ痛、いたた」

「ベラ、だいじょうぶ?」

 

 アランが駆け寄りホイミをかける。額の傷口はゆっくりとふさがり、アランは彼女の血を拭った。ありがと、とベラが微笑む。

 

「やったわね、アラン」

「うん。雪の女王はもういないんだ」

「ええ。ザイルも、お疲れさま。それと、ありがとう」

「な、何だよいきなり」

 

 ベラから礼を言われ、ザイルがうろたえる。

 

「あなたがいなければ、私たちはきっと雪の女王に勝てなかったわ。力を貸してくれたことに感謝しているの。それにこれまでのこと、やっぱり謝らないといけないし、ね」

 

 ふん、とザイルは寝返りを打ち、ベラに背を向けた。ベラはアランと顔を見合わせ、困ったように肩をすくめた。

 

「おい、見てみろよ」

 

 誤魔化すようにザイルは言う。

 

「空が、元に戻ってきたぜ」

 

 アランたちは上空を見上げる。黒い膜は取り払われ、眩い日の光が降り注ぐ。反対に床は輝きを失い、本来の床面が陽光を柔らかく受け止めるようになっていた。

 地面を覆っていた氷が、ゆっくりと溶け始めたのだ。

 

「やっぱり、宮殿の氷は雪の女王の仕業だったんだね」

「そうね。さあ、アラン。まだ大事な仕事が残っているわ。春風のフルートを」

 

 アランはうなずく。するとザイルが立ち上がり、「こっちだぜ」と祭壇の中を案内してくれた。

 

 祭壇は、アランの家の地下室ほどの広さがあった。祭壇の奥に大きな箱が置かれている。ドワーフ製のものらしい重厚な箱から、薄く黒煙が上がっていた。

 ベラが警戒して構えを取ると、ザイルが「大丈夫だ」と手を振った。

 

「雪の女王が箱にかけていた封印が解けているんだよ」

 

 ザイルが説明する。春風のフルートをザイルから受け取った雪の女王は、すぐさまこの箱の中に入れ、封印を施した。どこかに運び込むつもりだったらしい。

「危ないところだったわね」とベラが言った。

 

 黒煙が完全に消え去ったのを見届けてから、ベラが箱に近づく。ゆっくりと蓋を開けた。

 途端に柔らかな光が溢れ出てくる。まるで太陽を閉じ込めたように、光は部屋全体を包んでいく。心地良い温かさが体に染みた。

 ベラが、箱の中に慎重に手を入れる。

 彼女の手に握られて出てきたのは、桜の枝のような形をした、一本の楽器だった。その美しさにアランたちの口から自然とため息が漏れる。

 

「間違いない。これこそ春風のフルートだわ」

「すごい。やったね、ベラ」

「ええ。これでようやく世界に春を呼ぶことができる。みんなのおかげよ」

 

 ベラは胸元に春風のフルートを抱く。彼女の目元には薄らと涙が浮かんでいた。

 アランの隣で頬を掻いていたザイルが、ふと背を向ける。

 

「俺ができるのはここまでだ。後はお前たちで上手くやってくれよ」

 

 手を振る。ベラが慌てた。

 

「待ちなさいよ。せめて妖精の村までは一緒に行きましょう」

「やだよ。お前らは違うかもしれないけど、俺はまだ、妖精を完全に信用したわけじゃないんだ」

「まだそんなこと言って」

「嫌ったら嫌だ。それによ。急いで帰らないと、さ」

 

 急に落ち着きをなくすザイルにアランは首を傾げる。

 

「帰らないと、なに?」

「……爺ちゃんに、怒られる。きっと、すっげー怒られる」

 

 うわぁやばい、とザイルは両手で頭を抱えた。

 

「ああっ、こうしちゃいられない! 早く帰って謝らなきゃ!」

「ちょっと、ザイルってば!」

「じゃあなお前ら! ちょっとの間だったけど、お前らに会えて良かったぜ!」

 

 ぶんぶんと手を振り、瞬く間に駆け去っていく。その後ろ姿に向かってベラが「ちゃんとポワン様のところにも行くのよー!」と声をかけると、彼は手だけを振って応えた。

 ベラが苦笑する。

 

「ちゃんとわかってんのかしらね、あの子」

「きっと照れてるんだよ」

「そうね。ザイルはもう大丈夫、かな」

 

 微笑む。

 ベラが手を差し出してきた。

 

「さ、帰りましょう。村では英雄をお待ちかねよ」

「そんな。僕は」

「いいからいいから。さ、出発!」

 

 上機嫌な姉代わりの妖精に引っ張られ、アランは歩き出した。例によってチロルが抗議するようになおなおと鳴く。

 

 彼らの頭上で、空は抜けるように深く爽やかに広がっていた。

 

 

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