【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~ 作:和成ソウイチ
延々と連なる山の麓に草原が広がっている。パパスの背中を追いながら、広大な緑の大地をひたすら歩く。しばらくすると、青空の下に鬱蒼と茂る森と小高い山が見えてきた。親子の目的地が近づいてきたのだ。
森を貫く
「ようやく着いたか。サンタローズ」
パパスが感慨深げにつぶやく。普段は勇猛で冷静沈着な父だが、このときばかりは喜びと安堵が顔に表れていた。
村の入り口にあたる木組み門の前には、簡素な鎧を着込んだ男が門番として立っていた。彼は村にやってくる人影に一瞬目を細めたものの、すぐに破顔一笑して迎えてくれた。
「やあ、パパスさんじゃありませんか。お久しぶりです!」
「ああ。しばらくぶりだった。皆に変わりはないか?」
「ええ、もちろん。おっと、こうしちゃいられない。皆に報せないと」
言うが早いか、男は仕事を放り出して村へと走っていった。アランはつぶやく。
「いいのかなあ、誰もいなくなっちゃって」
むつかしい顔をするアランを見て、パパスは声に出して笑った。
父に連れられ門をくぐる。その先の石段を登ると、さっそく出迎えがあった。
「パパスさん、お帰りなさい。二年ぶりですね」
「うむ」
「またうちによってくださいね。良い酒を用意してお待ちしていますから。旅の話を聞かせてくださいよ」
「ああ、楽しみにしていよう」
笑顔で話しかけてくれたのは村で唯一の宿屋と酒場の店主だった。丸々と太った身体にはアランも見覚えがあった。
砂利道沿いに歩く。小川をまたぐ小さな橋を越えた辺りで、今度は大声に呼び止められた。
「ようパパス! 二年もどこほっつき歩いていたんだ!」
見るからにガタイの良いその男に、パパスは苦笑を浮かべた。
「はは。相変わらず元気そうだな」
「ったりめーよ。アンタとはまだ飲み比べの勝負がついてねえんだ。付き合ってもらうぜ。ついでに旅先でのあれこれも聞いてやっからよ!」
「うむ。受けて立とう」
拳を合わせる二人。口は悪いが、男もとても嬉しそうに笑っていた。アランを見るなり、「お、この子があのときの坊主か。大きくなったなあ」と乱暴に頭をなでる。アランは恥ずかしいやら嬉しいやら複雑な気持ちになった。
ようやく解放され、ずれてしまった帽子を直しながら再び父の後ろをついていく。空は雲一つ無い青空だ。暦の上ではもうすっかり春である。
しかし。
「……くしゅん!」
「どうした。風邪か、アラン」
「ううん。でも、何だかすこしさむいね」
「うむ。確かにな。季節はとっくに春だというのに、風が冷たい」
わずかに目を細め、パパスがうなずく。道ばたでは季節外れのたき火をしている人がいた。そういえばここまで来る途中、畑の作物がほとんど育っていなかったことを思い出す。
不思議なこともあるんだなあ、とアランは思った。
「パパス殿」
もうすぐ自宅というところで、シスターと出会う。物静かな初老の女性が、往来の真ん中でまっすぐにパパスを見つめている。
「よくぞ戻られました。ご壮健そうで何より」
「はい。皆には心配をかけました」
「これも神のお導きなのでしょう……とまあ、堅苦しい挨拶は抜きにして」
突然、シスターがにっこりと笑った。
「わーい、わーい。パパスさんが帰ってきた! 嬉しいー!」
「シ、シスター……?」
「ふふ。嬉しいことを我慢するのは良くありませんからね。さあ、お疲れでしょう。サンチョさんがご自宅でお待ちですよ」
パパスはシスターに深々と礼をした。去り際、シスターがアランに手を振ってきた。アランもまた満面の笑みで手を振り返した。
教会へと続く道の脇に、アランたちが帰るべき家がある。
質素だが頑強な造りの家の前で一人の男が立っていた。その姿を見て、パパスとアランの表情は自然と緩んだ。
二年ぶりの我が家と、家族だった。