【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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60.春を呼ぶ妖精の村

 

 北の宮殿を抜ける途中、アランたちは不思議な一団に出逢った。

 

「あれは」

「モ、モンスター!?」

 

 そう。そこに勢揃いしていたのは、さまざまな種族のモンスターたちだった。骨の体をした『カパーラナーガ』、全身の黄色が目に鮮やかな『ドラキーマ』、巨大な角を持った兎『アルミラージ』――皆、アランたちを見つめている。

 ベラが全身を緊張させる。一方のアランは剣に手をかけることもなく、静かに微笑んだ。

 

「だいじょうぶ。あの子たちは敵じゃないよ」

「どうしてわかるの?」

「目がそう言ってるから。むしろあれは」

 

 アランが手を振ると、モンスターたちは体を弾ませて応えた。

 

「喜んでるみたい」

「どうして。彼らはモンスターでしょう?」

「きっと、あの子たちはいじめられていたんだよ。あの雪の女王に」

 

 そばを横切っても、彼らは手出しをしない。アランたちが北の宮殿を出て、姿が見えなくなるまで、モンスターたちは各々の鳴き声をもって見送ってくれた。

 ベラが感心したようにつぶやく。

 

「なるほど。だからあのとき、音はしたのに誰も襲ってこなかったのね。雪の女王の影に怯えて、私たちの様子を見ていたんだ。にしても、やっぱりアランはただ者じゃないわね」

「どうして?」

「だってそうでしょう。初めて見るモンスターたちの心を一瞬で見抜いてしまうんだもの。改めて考えると、あなたが大きくなったときが楽しみというか、空恐ろしいくらいだわ」

「何か、ほめられているように聞こえない」

「だいじょうぶ。あなたは凄い子だって私は言っているんだから。胸を張りなさいな」

 

 ばん、と背中を叩かれる。先頭を歩くベラの手には春風のフルートが大事に抱えられていた。

 背中の痛みに涙目になりながら、後ろ姿からでも喜びが伝わってくるベラの様子に、アランもまた朗らかな気持ちになった。

 

 

 

 ――妖精の村の住人の反応は、おおよそアルカパと似たようなものだった。

 違うのは、周囲に集まったのが皆見目麗しい妖精族ばかりという点である。

 群がる彼女たちを押しのける役割をベラが買って出る。

 

「はーいはい。どいてどいて。急いでポワン様のところへ行かなきゃいけないんだから!」

「あーん、ベラ。もうちょっと見せてよ。小っちゃい勇者さん」

「だぁーめ!」

 

 問答無用とばかりに妖精族を押しのけるベラ。

 彼女の後ろで小さくなりながら、アランはベラの表情を見る。村人からアランを守っているとき、口では「みんな、いい加減にしてよね」と言いながら彼女は笑顔を浮かべていた。

 同時に、その笑顔の中に、一抹の寂しさが混じっていることを、アランは敏感に感じ取っていた。

 

 次から次へと押しかける妖精族たちを退け、ようやく謁見の間までたどり着いたときには、アランは気疲れから思わずため息をついてしまった。

 初めて出会ったときと同じように、静かに椅子に収まっているポワン。ベラは、恭しく春風のフルートを差し出す。

 ゆったりとした仕草でそれを受け取り、ベラからいくつかの報告を受けたポワンは、まさしく春を呼ぶ者に相応しい可憐な笑みを浮かべた。

 

「よくやってくれました、アラン。心から礼を言います。ありがとう」

「よかったです。みんなも喜んでくれて」

「ええ。北の宮殿でのことはベラから聞きました。ザイルとも友誼を結んだと。やはりあなたにお願いをして正解だったようですね」

「ポワンさん、ザイルは悪くないんです。ただ、その」

「わかっています。いずれ、私からあの子のもとを訪ねましょう。双方の誤解、話し合えばきっとわかってもらえると私は信じています」

「ありがとうございます! よかった」

「ふふ。本当に素直ないい子。村の皆がこれほど浮かれるのも、分かる気がしますね」

 

 口元に手を当ててポワンが笑う。その隣に控えたベラが何度もうなずいていた。

 

「そう、あなたはそれだけ大きなことを成し遂げてくれました。私の無茶な願い、聞き届けてくれて感謝します」

 

 ポワンの表情が引き締まる。凛とした気品を身に纏い、ポワンは春風のフルートを構えた。それだけで、場の空気が神聖なものに変わる。

 

「これでようやく、人間界にも春を呼ぶことができます。そこでアラン、ひとつ、あなたに約束をしましょう」

「約束?」

 

 ポワンは目を柔らかく細めた。

 

「この先、あなたが困ったとき、私を訪ねてください。必ずあなたの力になると約束しましょう」

 

 妖精の村の長が力を貸してくれる。それはおとぎ話のようで、アランは気持ちを浮き立たせた。「はい」と勢いよく返事をし、ふと、大事なことに気付いた。

 ベラを見る。彼女はこちらに向かって何度もうなずきかけながら目尻に涙を溜めていた。それを見た瞬間、アランはここでの役割が終わったことを強く意識した。

 

 ありがとう、ベラ――そう、口の動きだけで伝える。

 また会おうね、アラン――ベラは、そう返してくれた。

 

 無言のやり取りを見届けたポワンは、そっと、春風のフルートに唇を当てた。

 

 アランはそのときの光景を目に焼き付けた。

 世界に温かな春の風と、光と、そして色彩が広がっていく、神秘的で、涙が出るほど壮大なひとときを、生涯忘れないと心に誓う。

 それはまた、妖精の村で苦楽を共にした、姉のような人との別れのときだったから。

 

 そして。

 アランとチロルは、桜色に染まった妖精の村を、その日のうちに後にした。

 

 

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