【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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63.父の意外な一面

 

 サンタローズの村を出て、一路東へ。

 やがてアランたちは大陸を縦断する大きな河に行き着いた。この河を境にして対岸がラインハット国領である。時折見事な帆船が下流へと下っていくのが見えた。

 大型船が通るだけあって、河幅はかなりのものだった。水深も深いに違いない。けれど、見る限り河を渡るための橋も船着き場の類もない。一体どうやって対岸まで行くのだろうか。

 

 パパスは、河辺にある建物に足を向けた。

 強固な門構えの一軒家である。関所として兵士の詰所となっているとのことだった。

 驚いたのは、建物の外だけでなく中にも重厚な門が設置してあることだった。石畳の上を歩くと、すぐ門番に声をかけられた。

 

「止まれ。ここはラインハットに続く関所である。まずは名乗られよ」

 

 硬い口調にアランが姿勢を正す。その肩に手を置き、パパスは告げた。

 

「私はサンタローズのパパスと申す。こちらは我が息子のアラン。陛下直々のお呼びを頂戴し、これからラインハット城へ向かうところである」

 

 すると門番は表情を崩した。

 

「おお、貴方がパパス殿。失礼いたしました。お話は伺っております。さあ、どうぞお通りください」

 

 そう言うと門番は慣れた手つきで門を開いた。横を通りすぎるとき、門番はアランに向けて小さく手を振ってくる。最初の印象とは違い、実はかなり気さくな人間だったようだ。

 

 建物内に設置された扉をくぐると、その先に地下へ降りる巨大な階段が現れた。磨かれた石が等間隔に組まれている。アランはレヌール城の内部を思い出した。

 地下通路は旅人の足跡が幾重にも染みついている。よく見ると馬車の轍まであった。

 

「この通路は河の下を掘って作られている。ラインハットの技術と知恵の賜物だ」

「すごい。馬車まで通れるんだね」

「ラインハットへ渡る陸路の要だからな。商隊も数多く利用する。馬車が通るときは先ほどの階段に専用の板をかぶせるのだ」

「へぇ……」

「いつもは旅人などで賑わっているのだが、今日は珍しく閑散としているな」

 

 パパスの言葉通り、広い通路を歩くのは今のところアランたちだけである。足音に混じり、かすかに水音が聞こえる。時折感じる振動は、大河が真上を通っているからだろうか。

 

 出口が見えてきた。ラインハット側の出入り口は警備が薄く、地上へ上がる階段の前に小さな小屋があるのみだ。

 警備をしていた兵士に会釈をし、地上に出る。途端に眩しい陽光が目に入ってきた。

 

 階段を上りきってすぐ、人影に気づく。一人の老人が出入り口の縁に腰掛けて背中を向けていた。どうやら河を眺めているようだ。微動だにせず、背中からは哀愁が漂っている。

 パパスが声をかけた。

 

「もし、ご老人。どうかなされたか」

「ほっといてくだされ。じっと考えておるのじゃから。この河の流れを見据えながら、国の行く末をな」

 

 アランにはよくわからない答えが返ってきた。こちらを振り向きもしない老人に、パパスは親切心を見せた。

 

「この陽気とは言え、あまり河の風に当たりすぎていてはお身体に障りますぞ。どうかご自愛くだされ。では、私はこれにて失礼つかまつる」

 

 邪魔しては悪いと思ったのか、パパスはそのまま『元来た道を引き返していった』。

 堂々と階段を『降りていく』父の姿に、アランは戸惑った。そんなわけはないよねと思いつつ、言った。

 

「お父さん。どこ行くの?」

 

 自分のしていることに気づいたパパスは急いで駆け戻ってくる。何と声をかけてよいのか迷っている息子の前でひとつ咳払いをし、パパスは何事もなかったかのように歩き出した。

 

「さて、これで関所は越えた。ラインハットまでもう一踏ん張りだな」

「お父さん。もしかしてさっきのは、わざとじゃなかったの?」

 

 頭をかくパパス。

 しばらく空咳を繰り返す父の姿に、アランは思わず吹き出してしまった。父の意外な一面を見た気がした。

 

 やっぱり、お父さんとの旅は楽しい――。

 

 笑みを浮かべ、アランは心からそう思った。

 

 

 ラインハット城とその城下町が見えてきたのは、それから数日後のことであった。

 

 

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