【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~ 作:和成ソウイチ
サンタローズの村を出て、一路東へ。
やがてアランたちは大陸を縦断する大きな河に行き着いた。この河を境にして対岸がラインハット国領である。時折見事な帆船が下流へと下っていくのが見えた。
大型船が通るだけあって、河幅はかなりのものだった。水深も深いに違いない。けれど、見る限り河を渡るための橋も船着き場の類もない。一体どうやって対岸まで行くのだろうか。
パパスは、河辺にある建物に足を向けた。
強固な門構えの一軒家である。関所として兵士の詰所となっているとのことだった。
驚いたのは、建物の外だけでなく中にも重厚な門が設置してあることだった。石畳の上を歩くと、すぐ門番に声をかけられた。
「止まれ。ここはラインハットに続く関所である。まずは名乗られよ」
硬い口調にアランが姿勢を正す。その肩に手を置き、パパスは告げた。
「私はサンタローズのパパスと申す。こちらは我が息子のアラン。陛下直々のお呼びを頂戴し、これからラインハット城へ向かうところである」
すると門番は表情を崩した。
「おお、貴方がパパス殿。失礼いたしました。お話は伺っております。さあ、どうぞお通りください」
そう言うと門番は慣れた手つきで門を開いた。横を通りすぎるとき、門番はアランに向けて小さく手を振ってくる。最初の印象とは違い、実はかなり気さくな人間だったようだ。
建物内に設置された扉をくぐると、その先に地下へ降りる巨大な階段が現れた。磨かれた石が等間隔に組まれている。アランはレヌール城の内部を思い出した。
地下通路は旅人の足跡が幾重にも染みついている。よく見ると馬車の轍まであった。
「この通路は河の下を掘って作られている。ラインハットの技術と知恵の賜物だ」
「すごい。馬車まで通れるんだね」
「ラインハットへ渡る陸路の要だからな。商隊も数多く利用する。馬車が通るときは先ほどの階段に専用の板をかぶせるのだ」
「へぇ……」
「いつもは旅人などで賑わっているのだが、今日は珍しく閑散としているな」
パパスの言葉通り、広い通路を歩くのは今のところアランたちだけである。足音に混じり、かすかに水音が聞こえる。時折感じる振動は、大河が真上を通っているからだろうか。
出口が見えてきた。ラインハット側の出入り口は警備が薄く、地上へ上がる階段の前に小さな小屋があるのみだ。
警備をしていた兵士に会釈をし、地上に出る。途端に眩しい陽光が目に入ってきた。
階段を上りきってすぐ、人影に気づく。一人の老人が出入り口の縁に腰掛けて背中を向けていた。どうやら河を眺めているようだ。微動だにせず、背中からは哀愁が漂っている。
パパスが声をかけた。
「もし、ご老人。どうかなされたか」
「ほっといてくだされ。じっと考えておるのじゃから。この河の流れを見据えながら、国の行く末をな」
アランにはよくわからない答えが返ってきた。こちらを振り向きもしない老人に、パパスは親切心を見せた。
「この陽気とは言え、あまり河の風に当たりすぎていてはお身体に障りますぞ。どうかご自愛くだされ。では、私はこれにて失礼つかまつる」
邪魔しては悪いと思ったのか、パパスはそのまま『元来た道を引き返していった』。
堂々と階段を『降りていく』父の姿に、アランは戸惑った。そんなわけはないよねと思いつつ、言った。
「お父さん。どこ行くの?」
自分のしていることに気づいたパパスは急いで駆け戻ってくる。何と声をかけてよいのか迷っている息子の前でひとつ咳払いをし、パパスは何事もなかったかのように歩き出した。
「さて、これで関所は越えた。ラインハットまでもう一踏ん張りだな」
「お父さん。もしかしてさっきのは、わざとじゃなかったの?」
頭をかくパパス。
しばらく空咳を繰り返す父の姿に、アランは思わず吹き出してしまった。父の意外な一面を見た気がした。
やっぱり、お父さんとの旅は楽しい――。
笑みを浮かべ、アランは心からそう思った。
ラインハット城とその城下町が見えてきたのは、それから数日後のことであった。