【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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64.ラインハットでの再会

 

 遠目からでもその大きさがわかる街など、初めてだった。

 密集する民家がまるで壁のように街の外縁を作り、煙突から漏れる煙で空は薄っすらと陰っている。

 一歩足を踏み入れると、民家と民家の間を通る路地の複雑さがわかった。細い水路が水音を立てる横で、子どもたちが走り回っている。

 そしてひとたび目を正面に移すと、そのまばゆさにアランは釘付けになった。

 そこはラインハット城に続く目抜き通りで、まるで人々が川の流れのように連なり、歩いていた。買い物袋を持った住人がいる。大きな(はい)(のう)を背負った旅人もいる。馬もいるし、荷車も多く行き交っていた。

 

 興味津々――というよりは、あまりの巨大さに圧倒されて、アランは何かの呪いにでもかけられたかのように周囲を忙しなく見回していた。口は半開きで、言葉はない。パパスに声を掛けられてもしばらく気づかないほどだった。

 

「アラン。迷子になってはいけない。さあ、乗るのだ」

「え?」

 

 最初、何を言われたのかわからなかったが、しゃがんだ父の背中を見て、肩車をしてくれるんだとようやく理解する。途端、頬が緩んだ。両手で顔をこすって気を引き締めないと、下手をすれば泣いてしまうのではないかと思えた。

 恐る恐る、乗る。するとチロルが軽い身のこなしでパパスの背を駆け上がり、アランの胸元、ちょうどパパスの頭の天辺に陣取った。

 

 パパスが立ち上がる。

 世界が大きく広がった。

 

「うわぁ」

 

 今までは人々の腰しか見えなかった景色が、今はどこまでも広い。

 

「ここがラインハットの城下町。どうだ、大きいだろう」

「うん。すごいよっ」

「ラインハットは開放的な大国だ。だからこそ、これだけの人が集まる」

 

 人の自由な往来は平和の証なのだとパパスは言った。戦争や、モンスターの襲撃からの防衛を余儀なくされる場所では、こうした街作りは不可能なのだ。

 

「すごいね、チロルすごいね」

「にゃうにゃう」

 

 しきりに相棒に向かって語りかけるアランの様子に、パパスは微笑んだ。

 

「しかし、お伝えしていたよりもずいぶん早く到着してしまったな。日はまだ高いが、アランよ」

「なぁに、お父さん」

「今日のところは一度宿を取り、明日、改めてお伺いを立てようかと思っている。構わぬか?」

「おうかがい?」

「これほど大きな街だ。陛下もお忙しいことだろう。いきなり訪ねるのではなく、一度来訪の旨を伝え、それから登城するのだ」

「難しいんだね」

「儀礼というものだな。それに、久しぶりの長旅だっただろう。体を休める必要もある。せっかくだ。この街を見学するのもよかろう」

「えっ、いいの!?」

「うむ。城への伝達が終われば、私も体が空くからな。一緒に街を見て回ろう」

「やったーっ」

 

 諸手を挙げて喜ぶアランにつられ、チロルも「にゃー」と尻尾を立てた。

 

 それからアランたちは、宿を取る前に城へ連絡するため、街中にある詰所を訪れた。ここで城への言伝を頼む仕組みである。

 パパスが担当の兵士と話し込んでいる間、アランは詰所の入り口に腰掛けてチロルと遊んでいた。そこへ一台の馬車がやってくる。箱形の荷台も車輪も頑丈な(こしら)えで、華美というより実用的な造りである。

 

 扉が開き、小太りの男が現れる。横目で様子を見ていたアランは、首を傾げた。どこかで見た記憶があったのだ。それは相手も同様だったようだ。

 

「んん? 坊や、君はどこかで」

「アランよ、待たせたな。手続きが終わったので宿に――む?」

 

 兵士との話を終えたパパスが出てきた。詰所の入り口で小太りの男と鉢合わせる。男はアランとパパスを交互に見て、それから手を叩いた。

 

「おお! 思い出しましたぞ。あなたはほら、ビスタ港でこの子と一緒に船を降りられた」

「あなたはもしや、ルドマンさんですかな」

「覚えていていただけましたか。いや、これは奇遇ですなあ! その節は、我が娘が粗相をいたしまして」

「いえ。しかし、ご一行は船で別の大陸に渡られたのでは」

「はは。実は色々ありましてな。娘たちをこちらにある教会に送り届ける最中なのです」

「教会?」

「ええ。見習いの修道女として、まあ何と言いますか、花嫁修行をさせているのですが、今回高名な教師様がここラインハットに来られてお話をされると聞きましてな。ちょうど商談で足を運ぶ用がありましたので、勉強がてら、預け先の修道院に無理を言って連れてきたのです」

 

 盛り上がる大人たち。その背後で、小さな影が馬車の中に見えた。アランがそっと覗き込むと、かつてビスタの港で出会った可憐な少女二人が、驚いた表情でこちらを見つめていた。

 

 

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