【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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65.デボラとフローラ

 

「まさかこのような形でお会いするなんて、思ってもみませんでした」

 

 空のように青い髪が爽やかな少女――フローラが微笑む。歳の割にしっかりとした喋り方は相変わらずだった。膝上にチロルを乗せ、柔らかな仕草で撫でている。実に気持ちよさそうにチロルは目を細めていた。

 

「ほんと。ま、おかげでこうしてパパの目から逃げられたワケだけどね」

 

 漆黒の髪を揺らし、くくっ、と楽しそうに笑うもう一人の少女――デボラ。こちらは相変わらずというより、予想通りの態度といった感じだ。ちなみにチロルは彼女に決して懐こうとしなかった。理由はアランにもわからない。

 

 聞いた話では、フローラはアランと同い年の七歳。デボラはその三つ上の十歳なのだそうだ。だが喋り方と態度だけみれば、どちらが年上なのかわからない。

 三人は宿の敷地内にある噴水でお喋りをしていた。フローラたちはともかく、アランが泊まるには少々豪華すぎる宿である。

 

 それというのも、パパスが宿を探しているという話を聞くなり、「では私が滞在している宿をご紹介しましょう。なに、これも何かの縁です。宿泊代は私が持ちますので」と言い出したルドマンによって、半ば強引に連れてこられてしまったからだ。もちろんあの父のことだから何度も丁重にお断りしたが、ルドマンは聞かなかった。

 

「お父様は気に入った相手に対してとても気前が良いところがありますから」

「そうそ。頑固なくらいにね。向こうがうなずくまで、とことんだもん」

 

 ルドマンの様子を姉妹二人はこう評する。

 もっともフローラ曰く、「お父様は人を見る目がありますので、パパス様のお姿に何か感じるものがあったのではないでしょうか。船の中でも、しばらくパパス様の話題を出していたくらいですし」とのことで、あらかじめ目はつけられていたようだった。

 

 パパスもルドマンも、今日は一日ゆっくりする予定。子どもたち同士遊んできなさいと送り出されて、今に至る。

 アランにしてみれば、下船のときに感じたどきどきの続きを味わっているようで、妙に落ち着かない。それほど、目の前の少女二人は変わりなく可憐だった。

 

「これからどうしましょうか。ここのお宿は広いし庭も綺麗だから、みんなで散歩でも」

「ちっちっち。甘いよフローラ」

 

 片目を閉じたデボラが指を振る。その様子を見たフローラの表情が曇る。

 

「姉さん、まさか」

「うっふっふ。そのまさか。せっかく口やかましいパパの監視がなくなったんだもん。抜け出さない手はないわ」

 

 言うなり、デボラは駆け出した。速い。「ちょっとそこらを探検してくるわー」という台詞を残し、あっと言う間に建物の中に消えてしまった。

 アランがぽかんとしていると、フローラが「もうっ!」と唸った。らしくない仕草で拳を握りしめる。

 

「姉さんってばそればっかり! アラン様、追いかけましょう」

「え? え?」

「放って置いたらぜったいに外に出てしまいます!」

 

 駆け出すフローラ。彼女の意外な積極性を見た気がして、アランは大いに戸惑った。

 しかしデボラに比べ運動には自信が無いのか、それとも彼女の性格のゆえか、その走りは楚々としてゆったりだ。アランは彼女を追い越さないよう、加減をして走った。チロルもその後を追う。

 

 回廊を抜け、通路を走る。姉妹ならではの『勘』でも働いているのか、フローラはいくつかの角を迷うことなく曲がっていく。アランはたずねた。

 

「どうしてフローラは、デボラの行く先がわかるの?」

「前に一度、この宿には泊まったことがあるんです。そのときにたどった道ですから。でも、やっぱり私では追い付けないかも」

 

 行けども行けども後ろ姿が見えない状況に、さすがに不安になってきたのか、フローラは立ち止まって小さくつぶやく。

 

「デボラ姉さんはとても自由な人。でも、もう少し私やお父様たちの気持ちを考えてくれてもいいのに。私、いつも心配で」

 

 うつむくフローラ。奔放な姉に手を焼きながら、それでも大切に想っていることがよくわかった。アランはうなずく。

 

「フローラ、行こう」

「アラン様?」

「きっとデボラだって、そこまで無茶はしないよ。だってフローラがこんなに心配してるんだもの。それに僕、いろんな所を見て回りたいって気持ち、わかるから」

「……はい。ありがとうございます」

「それから」

 

 アランは笑みを浮かべ、指を立てた。さっきからずっと気になっていたことがあったのだ。

 

「僕のことはアランでいいよ。言葉づかいも、ふつうでだいじょうぶだから。僕たち同い年じゃないか。そうしてくれた方が、僕は嬉しいな」

「アラン様……」

「ほら、また」

「あっ。ご、ごめんなさい。えっと、アラン?」

「うん。僕たち、これから友達だよ。もちろんデボラも」

「……はい!」

 

 はにかんで俯いていたフローラの表情に、笑顔の花が咲いた。二人は連れだって先を急いだ。

 

 

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