【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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66.路地の先で出会ったもの

 

 デボラの姿は、それから間もなく見つかった。

 宿の廊下の奥、裏庭に面した窓枠に彼女は腰掛けていたのだ。

「遅かったじゃない」と言う彼女は、まるでフローラがここに来ることを待っていたように見えた。

 息を切らせるフローラと、そのすぐ隣に立っているアランを見て、デボラは「ふぅん」とつぶやく。

 

「あんた、確かアランだっけ。あんまり気にしてなかったけど、よく見ると小魚みたいに変な顔ね」

「こざ?」

「もう姉さん! アランに失礼でしょう!?」

「おやー、いつの間にかフローラと仲良くなってんだ。しかも、他人にゃだいたい『様』付けのこの子が、呼び捨てときた。あんたなかなかやるねぇ」

 

 デボラの言っていることがよく理解できず、隣で顔を赤くするフローラの態度もいまいちピンと来ないアランは、思ったことを素直に口にした。

 

「でも僕はデボラとも友達になりたいと思ってるよ?」

「は?」

 

 口をあんぐりと開けて固まるデボラ。直後、彼女は腹を抱えて大笑いし始めた。

 

「ぷははははっ! 何だいそれ! あんた本気で言ってんの? こりゃ驚いた。ははははっ!」

「姉さん!」

「いやいや、あたしはあんたを気に入ったよ。変な顔の上に変な奴だなんて、すっごく面白い! 特別にあんたを下僕にしてやるから、感謝しなさいよ」

 

 指を突きつけられた。何となく褒められていないことは理解できたアランは、眉間に皺を寄せ首を傾げた。

 するとフローラがぽつりとつぶやく。

 

「姉さん。それじゃあ言っていることがヘンリー様と同じですよ」

「あ!? あたしをあのクソガキと一緒にすんじゃないよ、フローラ!」

 

 途端に激昂するデボラ。アランがフローラを見ると、彼女は曖昧に笑った。フローラにとってもあまりよい思い出ではないらしい。

 

「とにかく! フローラ、アラン。ついておいで」

「どこに行くの?」

「決まってんじゃない。面白いところ、よ!」

 

 言うなり、彼女は身を翻した。窓から外へひらりと出る。そこから手招きをするので、アランとフローラは顔を見合わせ、仕方なく後についていった。

 

 

 

 デボラの言葉は正しかった。

 同世代の友人と駆け回るのはアルカパ以来だったが、デボラはこういう遊びにかけては天性の才能を持っているのか、彼女が行くところではアランもフローラも、そしてチロルまでも大いに楽しめた。もっとも、それ以上にはらはらしたりむかむかしたりすることが多かったが。

 

 出店を冷やかし、変わった形をした民家を間近で見ようと庭へ侵入し、路頭で行われていた迫力ある興行に目を輝かせて――そうこうしているうちに、気がつくとアランたちは見知らぬ裏路地へと迷い込んでいた。

 

「あたしが道を覚えているから、だいじょうぶよ」

 

 とデボラが胸を張るが、フローラは心配そうだった。それに運動が苦手な彼女のこと、だいぶ疲れがたまってきたようで、若干顔色も悪い。

 そろそろ戻ろうよ、とアランが提案したときである。

 

 すぐ近くの家から、物が崩れ落ちる音が聞こえてきた。ガラスが割れたような、けたたましい破砕音まで混ざっていた。

 直後、音がした家からひとつの影が飛び出してくる。凄まじい速度でこちらに突進し、アランたちの数歩手前で止まった。

 鎧が擦れる音が聞こえた。アランたちは目を見開く。

 

 人にしては、異様な姿である。

 全身を甲冑で覆っている。使い古していてもなお輝きを失っていない長剣を右手に握る。一方の左腕は肩からごっそり無くなっていて、代わりに大きな盾を(たい)(そく)に密着させるように装着していた。

 

 そして、何より。

『彼』がまたがっているのは馬ではなく、巨大なスライムだったのだ。

 

「ス――」

 

 フローラが青い顔をする。

 

「『スライムナイト』! 魔物の騎士が、どうしてこんなところに」

「へぇ。こいつがねえ」

 

 怯える妹に比べ、姉は挑戦的な笑みを浮かべる。拳を作って自らの掌に何度も叩き付けていた。まさか素手で相手をするつもりなのか。

 うっすらと毛を逆立て、静かに警戒心を露わにするチロルの横で、アランは銅の剣に手をやった。

 だが、抜かない。

 彼の視線は、馬代わりのスライムがくわえている小さな麻袋に向けられていた。

 アランは、そのスライムが戦うことを嫌がっているように見えた。スライム上の騎士からも、同様の気配を感じた。

 

 隻腕のスライムナイトは剣の切っ先をアランたちに向けると、良く通る声で言った。

 

「人の子よ。怪我をしたくなければ、そこをどきなさい」

 

 口調は丁寧だが、それは紛れもない『警告』であった。

 

 

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