【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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67.隻腕のスライムナイト

 

「はっ、言ってくれるじゃないのさ。偉そうに」

 

 デボラが鼻で笑う。とても肝が据わっている。しかしよく見れば、彼女の頬に伝う汗に気づく。

 

「デボラ、モンスターと戦ったことがある?」

「は? あるわけないでしょ、そんなの」

 

 それでよくここまでやる気になれるものだと、アランは感心した。彼女は道ばたに転がっていた木桶を引っ掴み、思い切り振りかぶった。

 

「でもね。例えモンスターだろうが何だろうが、戦ったことがあろうがなかろうが、あたしはああいう風に命令する奴が大ッ嫌いなのよ!」

 

 デボラの気魄に、スライムナイトが身構えた。

 

「これでも、食らえっ!」

 

 ぶん投げる。放物線を描いた木桶はあやまたずスライムナイトの頭部へと向かう。だが直撃する前に、スライムナイトの一閃が木桶を空中で切り裂いた。

 撒き散らされた破片を弾き飛ばし、スライムナイトが突進してくる。虚を突かれたデボラは息を呑む。フローラが悲鳴を上げる。

 

「姉さんっ、危ないっ!」

「ちっ!」

 

 デボラが舌打ちした瞬間、彼女の前に躍り出る影があった。

 

 アランである。

 

 抜剣の勢いを利用して、スライムナイトの斬撃を正面から受け止めた。重い衝撃が両肩にかかる。

 

「アラン!」

「下がってデボラ。チロル、ふたりを守るんだ」

 

 主とともに飛びかかろうとしていたチロルは、不満の声を上げながら爪を収めた。デボラの服を噛み、フローラの元まで引っ張ろうとする。

 

 呼気に合わせて剣を振るい、スライムナイトを大きく後退させる。再び正眼に剣を構えるスライムナイト。その姿は実に堂に入ったものだった。

 アランは空いた手に呪文の力を集中させた。

 

「――、バギ!」

 

 風の呪文。空中に現れたつむじ風が、鋭い刃となってスライムナイトに襲いかかる。

 これで相手の足が止まれば、みんなを連れて逃げられる。そうアランは考えていた。

 

 ――先ほどの一撃を受けてわかった。スライムナイトは、まだ実力の全てを出しているわけではない。デボラへの攻撃もおそらく単なる威嚇。本気ではなかったはずだ。

 機をうかがうアランの前で、スライムナイトがバギの直撃に備える。直前、くわえていた麻袋をスライムは口の中に入れた。大事な物を守るようにうずくまる。騎士の方もそんな相棒を庇うように盾を前面に向け、姿勢を低くした。

 

 頭部を全て覆った兜の覗き穴、そこから感じた強い意思から、アランはスライムナイトの真意をおぼろげながら悟った。

 すぐに拳を握りしめ、バギの呪文を霧散させる。

 

 防御態勢を解いたスライムナイトはほぼ無傷だった。アランは肩の力を抜き、そして銅の剣を鞘に収める。「アラン!?」「ちょっと、何してんだいあんた!」と、フローラとデボラが騒ぐが、アランは取り合わなかった。

 すると相手の方も剣の切っ先を地面に向けた。そして人間の騎士が行うのと同じように、上半身を傾けて礼を取った。

 

「感謝します。人の子よ」

 

 相棒のスライムが再び口から麻袋を取り出し、くわえた。そして、現れたときと同じように勢いよく駆け出す。

 道を空けたアランの横を通りすぎるとき、スライムナイトはアランに言った。

 

「見事な腕前と慧眼です。あなたは将来、良き遣い手となるでしょう」

 

 アランが何か応える前に、隻腕のスライムナイトは風のように去っていった。

 

 

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