【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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70.王との謁見

 

「右です」

「正面の扉です」

「階段を上がります」

 

 すごいねチロル、とアランはつぶやいた。チロルは興味なさそうに目を細めている。

 

 案内役の兵士は、どういった順路で移動するかを逐一告げていた。どう考えても迷いようがないところまで丁寧に教えてくれるから、もしかしたらこれも決まり事なのかなと思い、パパスを見る。父は黙って兵士の後をついていたが、アランと目が合うとわずかに苦笑を浮かべた。

 

 やがてひときわ豪奢で重厚な造りの、巨大な階段が見えてくる。壁面に沿って曲線を描くその階段は東西にひとつずつ、まるで抱きかかえた腕のように階上へ延びていた。

 

「陛下はこの上におられます」

「あれ? おじさんは」

 

 アランが首を傾げると、兵士は微笑んだ。

 

「おじさんはここまでだ。一介の兵士はこれより上に無闇に上がってはいけないんだよ、坊や。陛下がいらっしゃる大切な場所だからな」

「ふぅん」

「いずれわかるさ。ああ、パパス殿。謁見の場にはご子息をお連れしてもかまわないそうです。むしろ、ぜひこの目であなたの子を見てみたいと陛下は仰せでした」

「ふむ。なかなか懐の深い王であらせられるのだな。ではアラン。御言葉に甘えてともに参ろう。だが、これからお目にかかるのはライハットでもっとも位の高い方。いかに子どもとは言え、失礼なきようにな」

「はい。わかりました」

 

 神妙にうなずく。チロルを顔の前に掲げ、彼女の顔を見つめながら「チロルも、いいね?」と念を押す。「うにゃ」と彼女は鳴いた。

 

 パパスとともに階段を上る。巨大さゆえに一段一段も高く、アランは少々苦労して後をついていった。階上の景色が見えてくるにともない、緊張で鼓動が激しくなってきた。

 階段を上りきると、別の兵士がやってきて案内してくれた。大きな部屋の中央にさらに何段もの段差が作られ、その頂上にラインハット王が座る玉座があった。

 王の前にひざまずき、パパスは良く通る声で口上を述べた。

 

「サンタローズのパパス、御招請を賜り参上いたしました」

「うむ。待っておったぞ。そなたがあの勇猛で知られたパパスか」

「はっ。恐縮であります」

「そう畏まるな。招いたのは私だ。そなたはいわば、私の客人。楽にするがよい」

 

 父の見よう見まねで跪(ひざまず)いていたアランは、そろそろと視線を上げた。するとこちらを見ていたラインハット国王と目が合ってしまう。

 

「ほっほ。この子がパパスの。なかなかどうして、利発そうな子ではないか。良き瞳をしておる」

 

 国王は人柄も体格も、一言で言えばおおらかな人だった。蓄えた口ひげは豊かで、着物は豪華。特に背に羽織った深紅のマントと小振りの金色杖は目を惹き、サンチョから聞いていた『王』の姿そのままを体現していた。

 一瞬見とれてしまったアランは、我に返って慌てて頭を下げた。しかし父のような口上など喋れるわけがない。どうしようと冷や汗を流したとき、ふと、アランの脳裏にひとりの少女の姿が浮かんだ。

 礼儀正しいフローラなら、どんな風にするだろう――。

 彼女の所作を思い出し、自分の知っている言葉で、アランはフローラを真似てみた。

 

「アランと言います。会えて嬉しいです。王様」

「ほぉ……」

 

 感じ入ったような国王の声に、何とか失敗せずにすんだとアランは内心で胸をなで下ろした。

 

「パパスよ。そなたは良き子に恵まれたな。いや、私にも子がいるが、正直言って見習わせたいくらいだよ。それに、アランと言ったか、帯剣する姿が父同様、様になっておる。やはり男子はこうでなくてはいかん」

「は。過分な御言葉、痛み入りまする」

「アランを見てますます確信が持てた。パパス、そなたなら安心して任せられる。実はな、此度そなたを呼んだのも子が関係することなのだ」

 

 国王は咳払いをした。

 

「身内のことゆえ、声を大にするのは憚られる。パパス、近う寄れ。皆は下がって良いぞ」

 

 周囲にいた警備兵が敬礼する。鎧が音を立てる。彼らは王の見えない場所まで下がった。

 ラインハット王の元まで近づいたパパスは、振り返ってアランに声をかけた。

 

「私は陛下とお話がある。そのまま控えているのも退屈だろう。せっかくだ、城内を見せてもらってきなさい。よろしいでしょうか、陛下」

「構わぬよ。案内に兵をつけよう」

 

 王の言葉にアランはぶんぶんと首を振った。

 

「だ、だいじょうぶです!」

「遠慮せずともよいのに。まあよい。そなたが一通り見て回る頃には、そなたの父との話も終わっているだろう。城内は広い。迷ったら遠慮無く周囲の人間に尋ねるとよい」

「は、はい。ありがとうございます。じゃあチロル。行こ」

 

 大きく一礼して、アランは謁見の間を後にした。

 

 

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