【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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72.ラインハット城の休憩所にて

 

 気分を晴らすため、アランは足を動かすことにした。

 さすがラインハットの城だけあって中も広い。外観通りだ。しかも入り組んでいる。

 辺りを見回しながら歩いていると、一際騒がしい場所に行き着いた。どうやら城内に詰める兵士たちの休憩所のようだった。警備の合間のひとときを、飲み物や軽食片手に談笑して過ごしている。

 

「お。坊主、見かけない顔だな。新入りか」

 

 物珍しさで中を歩いていると、屈強な男に話しかけられた。少しだけ酒の匂いがして、アランはわずかに顔をしかめる。

 

「新入りって?」

「なんだ、違うのか。ヘンリー様とデール様の遊び相手を務める子どものことだよ。最近は特に入れ替わりが激しいって言うじゃないか。坊主もその一人なのかと思ってよ」

「そう、聞いてくれよ!」

 

 突然、近くのテーブルにいた男が声を張り上げた。手には酒の入った器を持ち、顔はすっかりできあがっている。向かいの席に座る男がたしなめた。

 

「おい、いくら非番だからって飲み過ぎだぞ。少しは自重しろよ」

「いや、だから聞けって。ヘンリー様ってばひどいんだぜ? 俺が蛙大嫌いなの知ってて襟から蛙を入れるんだ。それも何匹も。あれは生きた心地がしなかった!」

「お前、そのくらいのことで……」

「そのくらいのことって何だよそのくらいって! 実際にあの方のイタズラを受けてみろ! ひっくり返って夜も眠れなくなるぞ!」

「そりゃ貴様が要領悪くて鈍くさいせいだ」

 

 アランに話しかけた男が酔っ払いをこづく。「わかってるよぉ、俺だってよぉ」と今度は気弱にこぼしはじめた同僚を無視し、男はアランに向き直る。

 

「ま、あの馬鹿は置いておくとして、実際、ヘンリー様のいたずらは俺たち城詰めの兵も手を焼いていてな。単に俺らが驚くだけならまだしも、来賓の方にまでちょっかい出すのは少々いただけねぇ。お前ももしヘンリー様の遊び相手になるなら覚悟しておいた方がいいぜ」

「はーい、兵士さんたち。お待ちかねの食事だよ。酔っ払いはさっさと水呑んで酔い覚ましてきな」

 

 入り口からよく通る声が上がり、台車を引いた大柄な女性が入ってきた。あちこちから歓声が上がる中、女性はアランたちに顔を向けた。どうやら話が聞こえていたようだ。

 

「まったく、小さな子に何絡んでいるんだい」

「ああ、すまんなおばちゃん。つい愚痴ってしまった」

「あんたも酔ってんだろ? 少し涼んで、落ち着くんだよ。じゃないと任務にさしさわりがあるからね」

「りょーかい」

 

 男は素直に立ち去った。

 アランがぽかんとしていると、女性は腰に手を当てたまま独り言のようにつぶやいた。

 

「……ま、あいつらはヘンリー様のいたずらがひどいって嘆いているけど、あたしゃそうは思わないがね」

「どうして?」

 

 アランが聞くと、女性は苦笑した。哀れんでいるようにも見えた。

 

「ヘンリー様は早くにお母様を亡くされているからね。陛下は次の王妃様を迎えられたけど、やっぱり本当の母親じゃないし、しかもその王妃様がごひいきにされるのは弟のデール様ばかりとなれば、そりゃひねくれたくもなるさね。ところであんた、さっきデール様のお部屋にいなかったかい?」

 

 ずばりと言い当てられ、アランはうろたえた。

 肩を軽く叩かれる。

 

「うちの厨房にもあんたと同じくらいの女の子がいるんだけどね、その子が帰って来るなり、『もしかしたら関係ない子まで巻き込んじゃったかも』とか言い出すもんだから、ちょっと心配してたんだよ」

 

 合点がいった。あの強引な少女の関係者だったのだ。アランは言う。

 

「気にしないでって、伝えておいて」

「はは。あんたいい子だね。わかった。そう言っておくよ。あの子も安心するだろ。そうだ。もしヘンリー様に会うことがあったら、よくお話を聞いて差し上げてくれ。あの方に必要なのは、やっぱり側にいてくれる誰かだと思うんだよ。あんたなら大丈夫そうだ」

「やってみる」

「頼んだよ」

 

 そう言うと女性は残った食事を配りに歩き去った。

 休憩所では歓声と笑い声に混じって、こんな声が聞こえてきた。

 

「ヘンリー様とデール様、次の王になられるのはどちらだろうなぁ」

 

 

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