【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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74.子分の証

 

「どうした。ラインハット王子の子分になれるんだぞ。嬉しくないのか」

「いや、嬉しいとか、そういうのじゃなくて」

「子分になればお前も一緒にいさせてやる。これなら友達とそんな変わらないだろ?」

 

 どんな理屈だろうとアランは思った。どことなく必死なヘンリーの顔を見てさらに怪訝に感じる。

 

「ヘンリー王子?」

「ヘンリーでいい」

 

 彼は言った。

 

「子分ってのは、親分の言うことはきちんと聞くもんだ」

「はあ。まあ、そうだね」

「だろ? で、だ。親分は子分に『できる』ところを見せなきゃいけない。これから俺のとっておきを見せてやるよ」

 

 腕白小僧の顔に戻ったヘンリーは、部屋の奥を指差した。続きの間となっていて、開け放たれた扉の奥には用途不明の物がたくさん転がっているのが見えた。

 

「奥に子分の印が置いてある。それを取ってこいよ。そうしたら俺のとっておきを見せてやるし、俺の子分にもしてやるぞ」

 

 アランはヘンリーを見つめた。

 

「ヘンリーって、もしかしてずっと誰かと遊びたかった?」

「う、うっさいわ! いいから黙って取ってこいよ!」

 

 赤面しながらヘンリーが怒鳴る。肩の力を抜いたアランは、チロルを促して部屋の奥に向かった。一方のチロルは主を冒涜されたと感じているのか、ずっとヘンリーに対して威嚇の唸り声を上げていた。

 

 続きの間は案の定、物置と大差ない散らかりようだった。

 部屋の中央にどんと大きな宝箱が鎮座している。

 

「この中に入っているのかな」

 

 宝箱に触れる。カギがかかっている様子ではないから、技法を使うまでもない。蓋に手をかけると、意外な軽さに驚いた。子どもでも楽に開けられるように細工してあるのかもしれない。

 一気に開く。が、肝心の中身が何もなかった。目を凝らしてみても、手探りで探してみても、宝箱の中は空っぽだった。チロルに匂いを嗅がせてみたが、彼女もまた首を傾げていた。

 

 納得行かないまま、アランはヘンリーの待つ部屋まで戻る。

 

「ねえヘンリー、子分の印なんてどこに……あれ?」

 

 いない。

 部屋はもぬけの空で、ヘンリーの姿はどこにもなかった。辺りを見回しても、物陰に隠れている様子がない。

 もしかして外に?――と思ったが、いつのまにか扉は部屋側から錠がかけられていた。外に出たのなら部屋の中から施錠なんてできない。怪訝に感じながら、他に思い当たる場所もなく、アランはカギの技法を駆使して錠を開け、廊下に出た。しかしそこにもヘンリーの姿はない。

 ここは一本道だから必ずパパスの前を通るはず。

 アランが廊下を進もうとしたとき、後ろから肩を叩かれた。驚いて振り返ると、そこにはしてやったりという表情を浮かべたヘンリーがいた。

 

「ヘ、ヘンリー!?」

「はっはっは。どうだ、驚いただろ?」

「う、うん。でもどうして? 子分の印はなかったし、戻ったら君はいないし」

「そりゃそうだ。あの宝箱はもとからカラッポなんだからよ」

「ええっ!?」

 

 そこでアランはからかわれたことに気づく。

 

「ヘンリー!」

「ははっ、そう怒るなって。ちゃんと仕掛けは教えてやるからよ。なんたってお前は俺の子分だからな」

「子分子分って、僕にはアランっていう名前があるよ」

「そっか。じゃあアラン、これから話すことは俺とお前だけの秘密だぞ?」

 

 そう言うと、ヘンリーはアランと一緒に部屋に引き返す。扉を閉め、「静かに」と指を立てる。

 彼が指差したのは、部屋の隅にある机と椅子である。

 

「これがどうかしたの?」

「よく見てろ」

 

 ヘンリーが椅子をどかす。

 そして床をぽんぽんと叩くと、かちりと音を立てて上に持ち上がった。覗き込むと、まるで隠し階段のように梯子が下へと延びている。ヘンリーに促され、アランは梯子を下りた。

 梯子は途中で切れていて、床まで飛び降りる必要があった。アランに続き、ヘンリーは慣れた仕草で着地する。ヘンリーの部屋と同じくらいの広さの倉庫のようだった。灯りも乏しく、薄暗い。

 

「どうだ。これが俺のとっておきだよ」

「そっか。ここに隠れていたんだね」

「部屋を抜け出すときによく使っているんだ。何かあったときに逃げるためのものなんだろうが、これがまた便利でな。ここは人気も無いし、つかまる心配はないときた。だから誰にも言うなよ?」

「もう……」

 

 アランは苦笑した。ヘンリーが自ら秘密を明かしてくれたことは、少しは自分のことを友達と認めてくれたんだろうなとアランは思った。

 ヘンリーはぼやく。

 

「お前の連れてる猫、俺が隠れていることに気づいてやがったみたいだから、はらはらしたぞ」

「あ、どうりで部屋から出てこなかったと思ったら。……チロル?」

 

 呼びかけにチロルは応じなかった。

 彼女はアランの傍らで毛を逆立て、警戒の姿勢をとっていたのだ。

 

「お、おい。俺こいつには何にもしてないぞ!?」

「……いや。チロルはヘンリーに怒っているんじゃないよ。もっと別の何か」

 

 異変に気づいたアランが気を引き締めた、そのとき。

 突如、倉庫の扉が何者かによって蹴り破られた。

 

 

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