【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~ 作:和成ソウイチ
翌日。
久しぶりに温かい食事と柔らかなベッドに包まれたアランは珍しく寝坊をしてしまった。目が覚めたときにはすでに太陽は高く昇っていて、身体を起こした途端に腹の虫が鳴った。空腹と睡魔で覚束ない足取りのまま、一階に下りる。
居間にはパパスとサンチョが揃っていた。
「坊ちゃん、おはようございます」
「うん。おはよう、サンチョ。ごめんなさいお父さん、寝坊しちゃった」
「久しぶりの我が家だ。ゆっくり休みなさい」
父の言葉に「うん」とうなずく。ふと、パパスが剣を携えていることに気がついた。
「お父さん。どこかへ出かけるの?」
「ああ。村の外に出るわけではないから、夕方までには戻るつもりだ。ではサンチョ。行ってくる。アランを頼むぞ」
「はい。行ってらっしゃいませ、旦那様」
出かける父の後ろ姿を見ながら、アランはテーブルについた。すぐに温かなスープが出されたが、しばらくそれには手を付けず、アランは寂しそうに戸口を見つめた。
「お父さん、村に帰っても忙しそうだね」
「お父上には大切なお仕事があるのですよ」
「せっかく遊んでもらえると思ったのに」
テーブルの端っこに顎を乗せて頬を膨らませる。その様子にサンチョが苦笑する。
「さあさ、坊ちゃん。せっかくのスープが冷めてしまいますよ」
「はぁーい」
膨れっ面だったアランだが、スープを一口すするとすぐに機嫌を取り戻した。久しぶりのサンチョの手料理は腹だけでなく心まで温かくなる。旅をしている間は粗食を余儀なくされたときもあったから、育ち盛りのアランにとってお腹いっぱいご飯が食べられることはとても幸せなことだった。
あっという間に平らげ、手を合わせる。
「ごちそうさま! ねえサンチョ、外で遊んできてもいい?」
「今日はお休みになられるのでは」
「やっぱり遊びたいの」
「そうですか。ええ、構いませんよ。外は良い天気です。ただ少し肌寒いので、お召し物には注意してくださいね。あ、それから、くれぐれも危ないところへは行かれないよう」
「わかってるよ。サンチョはしんぱいしょうだなあ」
そう言ってアランは椅子から降りる。少し考え、アランは着ている服の上からさらに一枚薄地のマントを羽織り、『ひのきの棒』を腰に下げる。
ちょっとした冒険者気分になったアランは、「いってきます!」と元気よく家を出た。
途端に吹きつける冷たい風。そういえば昨晩、パパスとサンチョが農作物の育ちが悪いと言っていたことを思い出す。
「はやくあたたかくならないかな。みんな困っているのに」
雲一つない空を見上げながらつぶやく。
村の中心を通る砂利道まで出たところで、ふとパパスの姿を見かけた。ちょうど教会から出てきたところだ。そのまま村の西の方へ歩いて行く。
「お仕事のじゃまをしちゃだめだ」という思いがアランの頭をかすめる。だが、父がどんな仕事をしているのかという好奇心の方が勝った。こっそり後を追う。
パパスは川沿いにある民家の前に立った。玄関で待ち受けていた老人と二言、三言、言葉を交わす。そして老人に招かれて民家の中へと入っていった。
あそこで何をしているのだろう、お父さん。
さすがに他人の家の中まで追うわけにはいかないと思ったアランは、民家を見下ろせる教会横の高台に向かった。崖から落ちないよう注意しながら、様子をうかがう。窓から父の姿が見えればと思ったが、アランの位置から見えるのは屋根ばかりだった。
やっぱりだめかと思いかけたそのとき、パパスが裏口から出てきた。老人も一緒だ。
民家の裏には小川が隣接している。パパスは、その川に浮かべてあった小舟に乗り込んだ。老人の見送りを受け、上流へ向かって漕ぎ出す。その先には大きな洞窟が口を開けていた。
パパスの姿が見えなくなった後も、アランは洞窟の入り口を見つめていた。
「お父さんのお仕事って、どうくつのたんけん?」
後を追おうにも舟などないし、危ないところへは行くなとサンチョに言われてもいる。
「うーん」
けれど、気になる。
もやもやした気持ちを抱えたまま、アランはその場を後にした。