【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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87.触れ合いの時間

 

「いやあ。やっぱキレイだよなあマリアは」

「嬉しそうだね、ヘンリー」

 

 寝床に横になりながらアランは苦笑した。親友は興奮冷めやらない様子で喋り続けている。

 

 結局あの後しばらく、アランたちはマリアと談笑に興じていた。そのとき抱いたマリアの印象は、とにかく淑やかで包容力のある女性だというものだった。

 ヘンリーが熱を上げるのもうなずける。

 

「こう言っちゃあ失礼だけどよ、あの人は絶対こんなところにいていい人じゃないぜ。王城にだって、あんなに綺麗で清楚は人はいなかったぞ」

「そっか。さすがにあの悪い癖はもう直っているみたいだね」

「悪い癖? あ、アランお前、あのいたずらのこと言っているのかよ!?」

「はは。前に言ってたじゃないか。ヘンリーは気に入った相手ほどイタズラしたくなるって」

「そりゃ、言ったけどよ。何年前の話だ、それ。もう俺はそこまでガキじゃねえぞ」

「そう? 実を言うと、マリアにいたずらしないかってハラハラしてたんだ」

「あのな。……ま、真面目な話、マリアはここにいるべき人間じゃないよな」

 

 部屋の奥、間仕切りの布をヘンリーは見つめる。彼は表情が引き締め、つぶやいた。

 

「せめて、彼女だけでも助けられないかな」

「すぐには難しいかもしれない。彼女がどうやってここまで来たかわかれば、突破口はあると思ったんだけど」

「やっぱり彼女もモンスターに連れて来られた口かな」

「たぶん。今僕たちにできるのは、彼女が無事に生き延びられるよう守ることだと思う。今まで以上にきつくなるけど、ヘンリー、構わないよね?」

「誰にもの言ってる。当たり前だろうが。むしろ、マリアを救うためならどんな労働だってへっちゃらだぜ」

「頼もしいね」

 

 アランは笑った。するとヘンリーは小声でアランに言った。

 

「だからよ、できればその、彼女のことは俺に任せて欲しいんだ。俺の力で彼女の手助けがしたい」

「それは構わないけど、なにかあるの?」

「まあほら、そこは男の意地っていうか、なんていうか。アランが絡むと皆お前ばっかり見るじゃんか」

「そんなことないよ」

「少しは自覚しろ。さっきもマリア、お前の方によく目が行ってたみたいだし。今回は俺、お前に負けるわけにはいかないんだ」

「勝ち負けとかそんなの関係ないと思うけど。ヘンリー、君の心配していることはわかったよ」

 

 肩に手を置く。励ますようにぐっと力を入れた。

 

「僕は君の良いところをたくさん知ってる。だからきっと大丈夫さ。必ず、君とマリアさんは上手く行くよ。だから君は君の力で、彼女を守るんだ」

「アラン……」

 

 ヘンリーは声を詰まらせ、慌てて寝床に横になった。

 

「お前、十年前からちっとも変わってないのな。羨ましいぜ。俺も見習わなきゃな」

 

 こういう言葉を素直に口にできるあたり、ヘンリーは十年前から大きく成長した。アランに言わせれば、それこそ羨ましいことだと思う。

 しばらく他愛なく雑談し、周囲が一人二人と寝入った頃になると、二人もまた束の間の眠りに入った。

 

 

 

 それから数日後。

 ヘンリーは自身の言葉通り、何かにつけてマリアを手助けするようになった。初めは遠慮がちだった彼女も、ヘンリーの陽気さ、押しの強さに徐々に慣れていき、今では二人並んで笑顔で歩いている姿も見かけた。

 奴隷に与えられた時間は短い。そのわずかな時間を惜しむように言葉を交わす二人に、アランは目を細めていた。

 

「アニキ、何か良いことでもあったんですか?」

 

 いつものように岩を運んでいる最中、ふと、隣の髭男から声をかけられた。

 

「なんか、笑っていられることが多くなったような」

「僕の友達が、自分の幸せを見つけたことが嬉しいんだよ」

「はあ。あ、ヘンリーアニキとマリアさんですね? 確かにあの二人、いつも一緒にいますね。楽しそうだ。マリアさん、奴隷服着ててもすごい美人だし、ヘンリーアニキも格好いいし、やっぱお似合いなんでしょうねえ」

「君もそう思うかい?」

「ええ、まあ。でもアニキはいいんですかい、親友が女作っちゃって」

「どうして? 良いことじゃないか」

「……心からそう言えてるところがアニキのすごいところです。知ってます? アニキはヘンリーアニキ以上にモテモテなんですよ? ここで働く若い女は、みーんなアニキを狙っているって噂があるぐらいで」

「それはさすがに言い過ぎだろう。あくまで噂じゃないか」

「そうですかねえ。アニキがその気になれば、そこらの女どもなんてイチコロだと思うんですが。ほら、あそこの水くみの女の子だって、アニキの方見てますよ」

「好意はとても嬉しいけど、たぶん、僕は誰かとそういう関係にはならないよ」

 

 どうして? と目で聞いてくる髭男に、アランはどこか遠い目をした。

 

「僕には、やらなければならないことがあるからね」

 

 聞こえるか聞こえないかの、小さなつぶやき。

 髭男はアランの様子に気づいたのか、それ以上何も尋ねてはこなかった。

 

 二人並んで岩を運び続ける。と、そのとき――。

 鞭の振われる音とともに、聞き慣れた声が遠くから聞こえてきた。

 

 

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