【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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89.ヨシュアの頼み

 

 暗く湿った洞穴の中を、アランたちは監視人に引き立てられた。警戒しているのか、どういう道順を辿ったかわからないように目隠しまでされる。

 そうして辿り着いた牢獄へアランたちは突き飛ばされる。

 

「そこで頭を冷やしていろ」

 

 監視人がそう言い放つ。錠のかかる重々しい音が響いてすぐ、彼らは立ち去っていった。

 幸い両手両足は拘束されなかったから、自分の手で目隠しを取った。目を凝らしてようやく物の輪郭が見えるほどに辺りは暗い。湿気もひどく、饐えた臭いが充満していた。

 

 もっとも、アランもヘンリーもこういった環境にはすでに慣れっこである。いつもと変わらぬ調子でヘンリーが言う。

 

「まったく、相変わらず扱いがひどいぜ。まあ、壁に縛られて鞭で打たれないだけマシだけどよ」

「ヘンリー、大丈夫だったかい?」

「ああ。ありがとなアラン。おかげで助かったよ。マリアも、あの調子ならきっと大丈夫だろう」

 

 ヘンリーが頭をかいた。

 

「ついつい頭に血が上ってしまったぜ。あのままやってたら正直危なかったかもしれない。ま、後悔なんてこれっぽっちもしてないがな」

「とにかく、みんな無事で良かった」

「おう。にしてもアラン、お前また強くなってないか? いつのまにベホイミなんて覚えていたんだよ」

 

 ヘンリーの問いかけにアランは苦笑いする。説明しようにも、呪文習得を感覚で(おこな)っているアランにとっては言葉にするのが難しいのだ。それを知ってか知らずか、ヘンリーはそれ以上聞いてくることはなく、その場にごろんと横になった。

 

「とりあえず休もうぜ。ここを出たら出たで、倍くらいの仕事量を押し付けられるに決まってんだから、今のうちに体力を溜めておかないと。大人しくしていれば、それだけ早く解放されるだろうからな」

「そうすればマリアとも早く逢えるものね」

「そういうこった」

 

 二人して笑う。

 しばらくアランたちは、思い思いの姿勢で横になった。この十年で、どんな環境でもそれなりに体を休められるコツを身に付けられたのは幸いである。

 

 腰を下ろして壁に寄りかかり、腕を組んでじっと目を閉じていたアランは、ふと薄目を開けた。ヘンリーもまた上半身を起こしていた。

 

「おい、アラン」

「うん。思ったより早かったね」

 

 聞こえて来たのは足音だった。複数である。だが解せないのは、ひとつだけ音の間隔が妙に短く、また湿った音がすることだ。まるで裸足のまま小走りになっているような。

 外から松明で照らされ、牢の中に灯りが満ちる。アランは眉をひそめ、それから驚きの声を上げた。

 

「あなたは。それに、マリア。君まで」

「そこで少し待ってろ」

 

 やってきたのはマリアと、彼女の兄である奴隷監視人だった。監視人が背後を気にしながら牢に取り付く。鍵で錠を外すつもりのようだ。アランはますます意外に思った。

 

 ヘンリーが立ち上がり、牢の前まで来た。マリアと相対する。彼女は目に涙を溜めていた。

 

「ああ、よかった。お二人ともご無事で……」

「当たり前さ。俺とアランのコンビがそう簡単にくたばるものか。それよりマリア、君はどうしてここに?」

 

 ヘンリーが嬉しさ半分、怪訝さ半分でたずねると、マリアは目元を拭い表情を引き締めた。隣に立つ兄を見る。

 ちょうど、牢の解錠が終わったところだった。「出ろ」と促されるまま、アランとヘンリーは牢をくぐる。

 するといきなり、監視人は深く頭を下げた。

 

「マリアを助けてくれたこと、本当に感謝している。私は兄のヨシュアだ」

「え? お兄さん?」

 

 ヘンリーが素っ頓狂な声を上げた。どうやら戦っているときには頭に血が上ってマリアのつぶやきも聞こえなかったらしい。

 アランは軽く黙礼を返してから、すぐに疑問を口にした。

 

「ヨシュアさん、教えてください。これは一体、どういうことなんですか? あなたのしていることは、あなたがたの規則に逆らうことなんじゃないかと思うのですが」

「……ああ。これは私の独断だ」

 

 その言葉にアランたちの顔にさっと緊張が走った。命令違反、それがここではどれほど重い罪になるか、身を持って知っているからだ。

 しばらく言葉に迷うヨシュア。そんな兄の横顔をマリアは心配そうに見つめている。ただ事ではないと悟り、アランもヘンリーもじっとヨシュアが口を開くのを待っている。

 

 やがて、ヨシュアは大きく息を吐いた。

 

「前々から思っていた。お前たちは他の奴隷とは違う。生きた目をしている。生命力と希望に溢れる、強い命の輝きを持っている。そのお前たちを見込んで、頼みがあるのだ」

 

 ヘンリーがちらりとこちらに視線を向けてくる。アランは大きくうなずいた。

 

「僕たちにできることなら」

「ありがとう。現在建設中のこの大聖堂なのだが、無事完成すれば全奴隷を解放するという話は、お前たちも知っているな」

「ええ、まあ。毎日聞いていることですから」

「実は、その話は真っ赤な嘘のようなのだ」

 

 アランたちは息を呑む。ヨシュアは唇を噛んだ。

 

「完成の暁には口封じのため、ここにいる奴隷を皆殺しにするという話がある。そうなれば当然、妹のマリアにも危害が及ぶ。それだけは断じて許容できないのだ……!」

「ヨシュアさん。まさか、僕たちに頼みたいことって」

「そうだ」

 

 彼はうなずいた。

 

「お願いだ。マリアを連れて、ここから逃げ出してくれ! このヨシュア、一生の頼みだ!」

 

 

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