【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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9.小さな決意

 

 二年ぶりのサンタローズの村を散歩する。とても楽しみにしていたはずなのに、先ほどの疑問が胸に残って、素直に満喫できない。

 そうしているうちに、アランは宿屋の前までやってきていた。何気なく建物を見上げ、ふと思い出す。

 

「そういえば、ビアンカはまだサンタローズにいるんだっけ」

 

 せっかくだからこちらから遊びに行こう。そう思い立つと、ようやく気分が晴れてきた。

 年月を感じさせる扉を押し、中に入る。床掃除をしていた宿屋の主人が顔を上げる。

 

「いらっしゃい。おや。パパスさんとこの坊主じゃないか」

「こんにちは」

 

 ぺこりと頭を下げてから辺りを見回す。小さいながら綺麗に掃き清められた待合室と、その奥に続く廊下、そして二階に上がる階段が見える。

 ビアンカはどの部屋にいるのだろう。一階? 二階?

 アランが考え込んでいると、宿屋の主人が気を利かせてくれた。

 

「もしかして、ダンカンさんとこのお嬢さんに会いにきたのかい?」

「うん。こっちにまだいるって聞いて。一緒に遊ぼうと思ったんだ」

「なるほどね。ま、坊主にとっちゃ久しぶりに同じ年頃の子と遊べる機会だろうしな。いいよ、案内してあげる」

 

 人の良い笑みを浮かべ、宿屋の主人が二階へとアランを連れて行く。西側奥の、いちばん日当たりのいい部屋にビアンカたちは滞在しているという。

 

「この寒さで、旅人も行商人もやってこないからなあ。ウチとしては商売あがったりだ。そんな中でもはるばるアルカパからやってきたあのふたりは相当の大物だよ」

 

 冗談めかして主人が言う。それからアランと視線を合わせるようにしゃがみ、声を潜めた。

 

「今の話は、ふたりにはナイショだよ」

「うん」

「良い子だ。おっと、この部屋だよ坊主」

 

 主人が足を止め、扉を叩いた。

 

「すみません、おかみさん。いますか?」

 

 しばらくして扉が開いた。怪訝そうに首を傾げていたおかみさんは、アランの姿を見つけるなり表情を崩す。

 

「おや、アランじゃないか。もしかしてビアンカに?」

「うん。一緒に遊ぼうと思って」

 

 アランが言うと、おかみは頬に手を当て、悩む仕草をした。ちらりと室内を振り返る。

 

「うーん。いつもなら思いっきり遊んでおいでと言うところなんだけどねえ」

「あ! アランだ。どうしたの?」

 

 部屋の奥から声がする。ビアンカが小走りに近づいてきた。彼女の笑みにつられ、アランも頬を緩ませた。

 

「こんにちは、ビアンカ。遊びにきたよ」

「え、ホント!?」

「駄目だよビアンカ。いつ薬が届くかわからないんだから」

 

 表情を輝かせるビアンカにおかみさんが言う。

 

「薬が手に入り次第、アルカパに戻るんだからね。父さんが待ってるんだよ」

「ごめんなさい、お母さん」

「ねえ。なにがあったの?」

 

 ビアンカが哀しそうな顔をするので、アランもまた哀しい気持ちになりながらたずねる。落ち込んではいられないと思ったのか、ビアンカはむりやり笑顔になった。

 

「あのね。アルカパにいるわたしのお父さんが病気になっちゃったの。それで、よくきくお薬がサンタローズの道具屋さんにあるって聞いて、お母さんと一緒にとりに来てたの。でも、その道具屋さんがなかなか帰ってこなくて、困ってるのよ」

「かえってこない?」

 

 アランが眉根を寄せると、おかみがため息をついた。

 

「お弟子さんの話じゃ、どうやら洞窟に材料を取りに出かけたっきり帰ってきてないみたいなんだよ。まあ、時間がかかる時もないわけじゃないらしいし、大事ではないとは思うんだけどね。ただあんまり日が経ちすぎるとウチの人が心配だから、できるだけ早く薬を持って帰りたいんだよ。それでビアンカにもあんまり外には出るなって言っているのさ。すぐに出発できるようにってね」

「そうだったんだ」

「誰か洞窟まで様子を見に行ってくれないかねえ」

 

 おかみが心底困ったようにつぶやくと、ビアンカも消沈してうつむいた。

 とても遊びに行けるような雰囲気ではないと子供心に理解したアランは、「ごめんね」と謝って部屋を後にした。背中を叩いて慰めてくれた主人に礼を言い、宿屋を後にする。

 

 しばらくうつむき加減で歩いていたアランは、ふと立ち止まった。腰にさげている『ひのきの棒』を見る。

 

『誰か洞窟まで様子を見に行ってくれないかねえ』

 

「……よし!」

 

 アランは決意の表情で柄を握りしめた。

 

 

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