【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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99.路地奥の占いババ

 

 二人はまず今日の宿を確保しようと宿屋へ向かった。目抜き通りにあった一番目立つ宿を選んではみたが、宿の相場には二人ともあまり詳しくなく、とりあえず宿の主人の言い値を支払った。

 結構足元見られたかも知れないなあ、とヘンリーは言った。

 

 続いて懸案であった装備品を購入する。

 すり切れた奴隷服のヘンリーを何とかそれなりの旅装姿にすると、所持金は目に見えて少なくなった。しかもまだ武器類の購入が残っている。

 旅には金がかかるのだと改めて痛感した。

 

 金袋の中身を見ながらどうしたものかと思案していたアランは、ふと店に飾られた展示品に目が行った。

 表通りと裏通りを繋ぐ通路上に造られた、少々変わった形の武器屋である。そこに、かつてアランが愛用した武器――チェーンクロスが売られていた。

 

「おや、いらっしゃいお客さん。あれに興味を示すとは、なかなかお目が高いね」

 

 いつの間にか店の中に足を踏み入れていた。すかさず店の主が声をかけてくる。

 

「最近はどこも物騒だ。その点、ウチの武器を持っていれば、そんじょそこらのモンスターに遅れを取ることはないよ。あんただいぶ腕が立ちそうだし、どうだねひとつ。安くしとくよ」

 

 言われて値札を見る。軽く息を呑んだ。

 

「……一二〇〇ゴールド」

 

 マリアから託された額をゆうに超えていた。とてもではないが購入は無理だ。

 あの隻腕のスライムナイトはこんなに高価な代物を持たせてくれたのかとアランは思った。

 複雑な表情で立ち尽くしていたアランの背を、ヘンリーが強く叩いた。

 

「おい、こんなトコで油売ってんじゃねえよ。さっさと行くぜ」

「でもヘンリー」

 

 するとヘンリーは小声で耳打ちした。

 

「そろそろ店のオヤジの視線がやばい。ここは逃げの一手だぜ。お前も人の機嫌に聡くならなきゃやっていけねえぞ」

 

 さすがに幼少の頃大人から怒られ続けていたヘンリーである。そのあたりの感覚はいまだ鋭いものがあった。だからといって褒められたものではないが。

 

 愛想笑いを浮かべながら店を出て、石畳の道を当てもなく歩く。

 

「武器、手に入らなかった……」

「道具類や服を先に揃えちまったからな。ま、仕方ないさ。心配すんなよ。お前なら素手でも何とかなるって。呪文もあるし」

「無茶言うなよ。ここは大神殿とは違うんだよ」

「のんびり行こうぜ。焦りは禁物だ。それでもどうしてもすぐに金が欲しいってんなら」

 

 ちら、とヘンリーはカジノの方向を見る。アランは即座に「駄目」と応えた。

 

 一度宿に戻ろうと道を引き返したときである。ふと、路地の奥に人がうずくまっている姿を見つけた。薄汚れたローブを着た人物が、何やら苦しそうにしている。

 

「ヘンリー、ここで待ってて」

「お前ならそう言うだろうとは思ってたけどよ」

 

 同じく人影に気づいていたヘンリーが呆れのため息をつく。

 路地に入ると奥は行き止まりになっていて、そこに机と椅子が無造作に置かれている。言葉を選ばずに言えば、まるで露店の出来損ないだった。

 ローブの人物――近づくと老婆だとわかった――は机の脇で足を押さえている。どうやら荷物を運び出そうとして足をくじいたようだった。

 

「大丈夫ですか」

「あたた。この占いババともあろう者が、まったくうかつだったよ。いてて」

「じっとしててください」

 

 アランは老婆の前に跪くと、その枯れ木のような足首に向かって回復呪文を唱えた。顔をしかめていた老婆の表情がすぐに和らぐ。「ほお」と老婆は感嘆の声を漏らした。

 

「おまえさん、なかなかの遣い手じゃな。名は何と言う」

「アランと言います」

「そうかアランか。なかなか良い名じゃな。ほっほ、よく見ればあたし好みのイイ男じゃないか。ささ、こっちにおいで。特別サービスをしてやろう」

「え? え!? あの、ちょっと」

「ほれ、そっちで呆れ顔しとる坊主もおいで。この占いババがまとめて占って進ぜよう」

「坊主って俺のことかよ!」

 

 頬を膨らませながらヘンリーも側にやってくる。占いババと名乗る老婆は意外に軽やかな仕草で椅子に腰掛けると、袋から怪しい水晶玉を取り出した。

 ヘンリーが耳打ちする。

 

「おい。あからさまにヤバイぜ。ぼったくられないうちにさっさとずらかろう。こういう手合いはろくでもない奴だって」

「聞こえとるぞ、坊主」

 

 睨まれヘンリーは直立不動の姿勢を取った。

 気を取り直した占いババは、アランたちの了承も待たずに占いを始めた。呪文の詠唱とも詩の朗読ともつかない不思議な抑揚で言葉を紡ぐ。すると水晶玉がうっすらと発光し、アランとヘンリーは顔を見合わせた。

 

「ふむ……」

 

 水晶玉の光が収まる。老婆の表情は先ほどとは違い険しくなっていた。

 

「おぬしたち、どうやら数奇な運命の直中にあるようじゃな。これまでずいぶんと苦労してきたと見える」

「え」

「特にアラン。そなたからは何か大きな運命の力を感じる。お前の行く道に重要な光をもたらしているのは……うむ、女じゃな。そなた、誰か女を捜しているのではないか?」

 

 アランは心底驚いた。

 

「わかるんですか!? で、あの、その女の人は今どこに!?」

「慌てるな。それはあたしにもわからん」

「んだよ、それ」

 

 ヘンリーが脱力する。占いババは笑った。

 

「それだけおぬしたちの運命が複雑に絡まっているということじゃ。まあ安心せい。この強い輝きからして、信じて突き進めばいつか必ず目的は達成されるじゃろう。それが一年後か、十年後かは知らんがな。……ところでおぬしたち」

 

 にや、と占いババが笑った。

 

「もしや金に困っている、ということはないかね。何なら良い稼ぎ口を紹介できるが、どうする?」

 

 

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