四重人格後藤ひとり ぼっち・ざ・くあどろふぇにあ!   作:怠鳥

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本編-8「Epitaph」

 3人の女の子が目を覚ます。

 

 まぶたを開き、誰でもない顔で、目だけをギョロギョロと動かす。

 

『今、どうなってるの?』

『なゆたが保健室行ったところまでは覚えてるんだけど……』

『うん……ベッドで痛くて気を失っちゃったから……ひとりちゃんが出てきた?』

 

 スポットライトの周りの闇になって、3人の女の子が話し合う。

 

「とりあえず……ひとりちゃん、いないね」

 

後藤ひとりは見当たらない。気配すらもない。

 

「まだ結構痛いんだけどねー……あの後もっと酷くなってたのかな。ひとりちゃんが私達全員を引っ込めちゃうくらい」

「……読み通りというか、まぁ、なんというか。実際はどうなんだろうな……痛みで失神したから私達が引っ込められたと感じてるのか、それともひとりが本当に出てきたのか……」

「でもそこに皆いるし、聞いたほうが早くない?じゃあ私出るねー」

 

 後藤千里は、布団の中で痛みに身を捩る。

 

「あいたたたた……」

「あらまぁ、ひとりちゃん……」

「……せんりちゃ、せんりちゃ!」

「え?ふたりちゃん、分かるのねぇ……」

「そ、そーだよ……千里ちゃんだよー……よく分かるねー……」

『やっぱりひとりが出てきてたのか』

『うん……みたいだね……』

 

 千里は寄ってきたふたりの頭を撫でる。

 ふたりは安心したような表情になって、

 

「まりおねーちゃ、なゆちゃは?」

「いるよー、でも……ふたりちゃん、ひとりお姉ちゃんには会えた?」

「うん、ひちょいおねーちゃ」

「そっかー。よかったねー……あいててて……」

「千里ちゃんかい……ああ、さっきまでひとりちゃんがいたんだけどねぇ……」

「ごめんね、またどっか行っちゃったみたい……」

「そうかい……またふっと出てきてくれるのかねぇ……」

「ごめんね、おばあちゃん。私達は何があったかわかんなかったや。それで、ひとりちゃんはどんなだった?」

「そうだねぇ……あんなに暗い子だったかしら……ずっとうつむいてて、ふたりちゃんに”ごめんなさい”なんて……」

「おーけー、大体分かった……」

 

 おばあちゃんの言葉を聞いて、千里はそう言った。

 それだけ言ってそこまでよく分かっていなかった。

 なので、もう2人が考えるのを待っていた。

 

『ぐずりはしなかったのか……?』

『わかんない……そういえば、お母さんに学校に来てくれるように頼んだよね?だから、お母さんに聞けば多分、全部分かるのかな……』

「おばあちゃん、あ、いつつ……お母さんは……」

「今洗面所にいるみたいだけど……呼ぼうかい?」

「ううん、私が行くから……」

 

 千里は布団から起き出し、

 

「あ、いたぁ……」

「ああ、無理に起きなくてもいいんだよ……」

「ううん、平気平気。あー……」

 

 立ち上がると、部屋は少々肌寒い。

 そのまま歩いて廊下へ出る。冷たい空気が纏わりつく。

 

「い、っつぅ……!」

 

 お腹の痛みが急に鋭くなる。

 

『痛い、痛い……』

「だ、誰?」

『っ……これ、多分、ひとりだ……』

『痛い……』

『これ、だめ、私達が意識飛んじゃう……』

「やばぁ……なんか変なの見える……んぐっ」

 

 視界にピントの合わない小さな人影が1つ現れて、

 

 ───────────────

 

「痛……」

 

 お腹が痛い。

 寒い。

 目が覚めたら布団の外で、

 

「ど、どこ……?」

 

 周りを見回す。

 

「廊……下?」

 

 何故かわからなかった。私は寝ていたはずなのに、痛みと寒さで目を覚ましたら、廊下で座り込んでいた。

 

「千里ちゃん……!?大丈夫かい……!」

 

 おばあちゃんの声がして、リビングのドアが開いた。

 

「どうしたの、こんな寒いとこで座り込んで……体に毒だよ……」

「え?」

「千里ちゃんじゃなくて……あらまぁ、ひとりちゃんかい?」

「え……うん……」

「お母さん、千里ちゃんがどうしたの……ひとりちゃん!?」

 

 洗面所からお母さんが顔を出したと思ったら、駆け寄ってきた。

 

「どうして……私、寝てたのに……それに、千里ちゃんって……なんで……」

「さっき起きたときには千里ちゃんだったんだよ……それが、またひとりちゃんになって……」

「何、何なの……これ……どうして……」

 

 怖い。自分が自分でいられないことが、怖い。

 

「ひとりちゃん……早くお布団に戻りましょ?ね?」

 

 お母さんに手を引かれ、廊下より暖かいリビングに戻ってくる。そのまま布団に入った。まだお腹は刺すように痛い。布団の中でカイロを探すけれど見つからない。

 

「怖い……怖いよぉ……」

 

 痛い、寒い、怖い。どれも苦しい。

 

「ひちょいおねーちゃ?」

 

 ふたりの声。はっとして目を開ける。

 あどけない心配そうな目。

 ああ、お姉ちゃんなのに、こんな小さな子に心配までさせている。

 しっかりしないと。でも、私の意識すらはっきりしない。

 

「ごめんね……」

「せんりちゃんは?」

 

 何も返す言葉がない。

 私は寝返りを打って、ふたりに背を向けた。

 とたとたという足音。

 肩にかかる重さ。

 

「ひちょいおねーちゃ……せんりちゃ、まりおねーちゃ、なゆちゃ、どこ?」

「ごめん……」

 

 あなたのお姉ちゃんがいなくて、ごめんなさい。

 濡れた枕の寝心地が悪くて、でも涙の行き場はそこしかなくて。

 布団のどこかに行ったカイロを探す気力もないから、腹痛に耐えながら横になり続けた。

 

「お母さん、今日うちに泊まってく?」

「そうだねぇ……今から帰ると夜中になるから、今日はそうしようかしら……」

「それに……せっかくひとりちゃんが帰ってきたんだもの。またいつ会えなくなるか……分からないし」

「そうねぇ……その方がいいわねぇ」

 

 おばあちゃんは、私のせいで帰りそこねてしまった。

 なゆたという別の私がお母さんを学校に呼んでしまって、その間ふたりを一人ぼっちに出来なかった。

 おばあちゃんに留守番をしてもらうしかなかった。

 私のせいだ。

 

「ごめんね……おばあちゃん……」

「あら、ひとりちゃん。起きてたのかい……何も謝ることはないんだよ……」

「うん……」

 

 寝返りをもう一度、おばあちゃんの方へ向き直る。

 枕元でかがんでいて、私の髪を撫でてくれた。

 

 でも、今この一瞬の次に私が私でいられるかすら分からない。せっかくうちに泊まっていくのに。私に会えてよかったって言ってくれるのに。

 消えてなくなりたい。それは絶対に変わらない。

 けれど、私がいて喜んでくれる人の前で消えてなくなるのは、もっと嫌だ。

 私は、私でいなくちゃいけない。

 

 でも、その人が去っていったら……。

 永遠に私が消えるのを、なんとか許して欲しい。

 迷惑をかけたくないから。この体に、この体を産んでくれた人に、その周りの人達に。

 それまでは迷惑をかけないように、ここにいようと思った。

 

「……お父さん、まだ帰ってこない?」

 

 お父さんに会いたい。

 病院にはお母さんと行って、お父さんにはずっと寂しい思いをさせていたみたいだから。それに、私が起きてたこと知っただけで、結局会えずじまいというのはきっと辛いことだから。

 お父さんに会って、おばあちゃんが帰って、それからみんなとお別れをして……。

 

 それが出来なかったらどうしよう。

 その前に私が消えてしまったら。

 

 じっとしていられない。布団から起きる。

 

「ああ、あらあら……ひとりちゃん、大丈夫なのかい……?」

「お母さん、私の部屋ってどこ……?」

「え?ひとりちゃん……大丈夫なの?」

「うん……」

「じゃあ、案内するわね……。お母さん、ふたりちゃんをよろしくね」

 

 お母さんについていって、階段を登る。

 上がってから奥へ歩くとすぐ、3枚の襖。それをお母さんが開けて電気をつける。

 

「はい……ここが、ひとりちゃんのお部屋よ」

「ありがとう……」

 

 まず目に入ったのは、奥の2枚の襖。押し入れだった。

 その右に大きな姿見。隣にもっと大きなタンス。真新しくて、背の高い大きなもの。その隣も古ぼけた少し背の低いタンス。

 

 左を見ると窓。外はもう暗い。窓の下に机と座布団。その手前にギターラック。

 畳の間なのは変わらないけれど、記憶の中の……死んだ後藤ひとりの部屋とは少し違っていた。

 

「今からこっちで寝る……?でも、ひとりちゃん、一人だと寂しいわよね?」

「えっと……今まで、その」

 

 ”私”じゃない。”私じゃない私”も変な言葉。

 

「この体が、どういうふうに暮らしていたのかなって」

 

 そういう言葉しか思いつかなかった。お母さんは顔を曇らせて、何かを言いかけて止めた。

 

 だって、私はこの体に4年と半分くらいしかいなかった。私の知らない3人のほうこそがこの体の持ち主だ。私はこの体をもう手放したも同然だし、つまり私の自由にならないことなんて当然。

 

「お母さん、ご飯の準備しなきゃだよね」

「でもひとりちゃん、また倒れたら……」

「大丈夫だから」

 

 この体が痛んでいる限り、私は私でいられる気がするから。

 下手くそな笑顔を浮かべようとする。

 

「お母さんがいちゃ、邪魔?」

「邪魔じゃないけど……一人で見てみたいから」

「そう……どれくらいかかりそう?」

「わからないけど……」

「分かったわ……20分おきくらいには見に来るわね」

 

 お母さんがエアコンを付けてくれて、

 

「暖まるまで結構かかっちゃうと思うけど、一応ね……」

 

 そうして、部屋から出て行った。

 一人になって、部屋を見回す。

 

 何か、書くものを探す。ノートか何か、紙切れ一枚でもいい。何かを。

 私の遺書を残すためのものを。

 何か、ノートとペン。

 

 部屋を見回す。右手に本棚があった。沢山の文庫本とハードカバー。

 辞書も少し。漁る。

 教科書もある。けれど、ノートがない。

 タンスも探す。でも統一感のない服の数々が見つかるばかりで、当然ノートなんかなかった。他に収納がないか見回す。

 横倒しに立て掛けるギターラックの隙間にも、何もない。後は押入れ。

 押し入れを開けると、もう一枚座布団があった。

 その上に、一冊のノートも。

 お誂え向きにシャープペンシルがクリップで挟み込まれていて、私はそれを開いた。

 

「あ……あ……ぁあ……」

 

 そこには、この体の持ち主の遺書があった。

 

 ────────────────────────────────────────

 私たち3人みんなが思っていることだけど、

 これを読んでいるのがひとりちゃんでありますように。

 

 はじめまして。

 私は後藤千里です。

 ひとりちゃんがいなくなってから一番に出てきた人格です。

 自己紹介ってすごく変な気分だけど、させてください。

 私がどういう人格なのかって、自分で言うのはてれくさいけど、多分ばかです。でも楽しく毎日をすごしてます。

 もう2つの人格、万理ちゃんとなゆたちゃん(私はなゆちゃんって呼んでるよ!) と、お父さん、お母さん、友達の皆、学校の先生、色んな人にかこまれてしあわせです。

 きっとひとりちゃんにもやさしくしてくれると思います。みんなやさしいから、だいじょうぶです。

 

 私がいなくなったら、みんなをさびしくさせるかもしれないです。

 何かできないかなって考えたんですけど、何も思いつきませんでした。

 だから、おねがいします。

 みんなに ありがとう! って伝えて!

 それとふたりちゃんのこともよろしくね。

 とってもかしこくてかわいい私たちの妹です。

 

 がんばれ!ひとりお姉ちゃん!

 

 後藤千里

 ──────────────────────────────────────

 お母さんへ

 もしこれを見つけても、次のページからは頼むから読まないでください。

 一生のお願いです。

 万理

 

 ひとりへ

 次のページを読んで。

 後藤万理

 ──────────────────────────────

 これを読んでいるのは後藤ひとりだな?

 

 後藤ひとりが表に出ていて、更にこれを読んでいるならば、逆に私達3人がいなくなっているんだと思う。

 

 それで3人共最初から覚悟していたけれど、二度と現れないのなら、人格が消えてしまったんだろうと思う。

 ひとりの中に戻ったにしろ本当に消えたにしろ。

 それとも、まだ少しだけ残っているんだろうか?

 もう少しだけその体を借りているんだろうか。

 ひとりが目を覚ました時、私達がどうなるかはわからない。でも怪我とか痛い思いをした瞬間、私達の意識がなくなる。そんな時、ひとりがぐずってるんだろうなって思ってた。

 

 つまり、何が言いたいのかって言うと、ひとりが戻ってきたなら私達は現れることができなくなるし、意識もない。

 そこで私達は終わりってこと。

 それは別に構わないし、ひとりを責めるつもりなんかない。私達は元々ひとりなんだから。

 

 本当にいなくなったのなら、やっぱり寂しい思いをさせる人がいる。

 小学校に友達がいて、私、万理の親友はそいつだけ。

 朝の会が始まる少し前に、私がいるかをよそのクラスから見に来る。文庫本を読んで待っていてほしい。多分話しかけに来るから。それで、万理はもう出てこない、は少し悲しすぎるから、しばらく眠ってるとか言ってくれればいいと思う。

 本当に可愛い女の子で、キスしてやりたいくらい好きなんだけど、それはいいか。

 別に私のしたかったことをしなくてもいい。

 

 小学校は多分知らないことばかりだと思う。

 知らない人、知らない場所、分からない勉強、他にも色々。

 担任は仕事が適当だし、千里の友達はろくでもないやつが混じってる。

 千里は何も考えずにみんな良くしてくれるって書いたけど、そんな虫のいい話は多分ない。

 だから……もしかしたら学校に安心できる場所はないかもしれない。

 そんな時は保健室にいればいいと思う。保険の先生は私達のことをよく知ってるし。

 それも嫌なら図書室に逃げ込めばいい。

 私が私に説教垂れるのもおかしな話か。

 お父さんとお母さんによろしく。それとおばあちゃんにも。

 ふたりのことを、よろしく頼む。

 私は馬鹿だけど、ふたりはきっと凄い子になると思うから。

 

(何かを書いて塗りつぶしてから消しゴムで消した跡)

 

 それじゃ、がんばれ。

 後藤万理

 ──────────────────────────────────────────────

 後藤なゆたです。

 本当はお父さんがはりきって名前をつけたから、なゆたはややこしい漢字を書くんだけど、みんな面倒だからひらがなで覚えてます。私もどう書くかまだ覚えてません。でも万理ちゃんは知ってるかもしれません。

 万理ちゃんが長々とお説教してごめんなさい。

 でも、ひとりちゃんが学校に行けるようにこころがまえをって思ったからなので、あまり悪く思わないでください。お願いします。

 

 私は、3番目に出てきた人格です。私は昔、ひとりちゃんだと勘違いされてました。千里ちゃんもそうでした。

 2番目の万理ちゃんはあきらかにちがうって分かったみたいですけど。

 ひとりちゃんは多分、私と同じであんまり明るい子じゃなかったと思います。私たちはひとりちゃんのことをぼんやりとしか知りません。ひとりちゃんが知っていることも、あまりはっきりとは知りません。

 でも、お父さんやお母さんが私をひとりちゃんだと思ったことには、そうだろうなって思います。

 ひとりちゃんは引っ込み思案で、人とかかわるのが本当に苦手なんだと思います。私もあまりとくいじゃありません。千里ちゃんはガンガン人と関わってお友だちを作っていきましたけど。

 ひとりちゃんもがんばってて、だから千里ちゃんもひとりちゃんだってかんちがいされたんだと思います。

 だけど、そんなにがんばらなくてもいいと思います。

 千里ちゃんがいなくなったからって、そのかわりにみんなの友だちにならなくてもいいし、万理ちゃんの親友の女の子と無理して話を合わせなくていいです。私のことも、ゲームをする友だちが少しいますが、話についていくために無理してゲームで遊ばなくてもいいです。

 私たちはひとりちゃんの代わりじゃありません。

 だから、ひとりちゃんも私たちの代わりをしなくてもいいんです。

 無理して友だちを作る必要はなくて、でも、一人もいないのはさびしいと思うから、ひとりちゃんのことを分かってくれる、たった一人でもいいからそんな友だちを作ってください。

 友だちだからって全部打ち明けなくてもいいはずです。そのことも分かってくれる人がきっと現れると思います。

 むりしないで、生きてください。

 

 お父さん、お母さん、おばあちゃん、ふたりによろしくお願いします。

 みんなのことを寂しくさせてごめんなさい、って伝えてください。

 後藤なゆた

 ────────────────────────────────

 千里です。

 そういえばギターのことを書いてませんでした。

 

 ぜーんぶひとりちゃんが弾いてよし!

 ひとりちゃんのもの!

 

 私の好きなパンクとかJロックとかはテレキャスターがおすすめ!

 弾きたくなかったら別にいいです!

 でもハードロックとか、大きな会場をわかすようなロックはレスポールが一番合うと思う!

 

 大事にしてね!

 ────────────────────────────

 ジャズマスターはオルタナティブ・ロックとかが合うよ。

 あとJロックとかでもすごい人がいるから聞いてみてほしいかな。

 そこそこしたから大切にすること。あとお父さんにたまに弾きたいかどうか聞いて。

 どうしよっかなーって喜んで結局弾かないけど。

 それと、黒いギター、レスポールは元々お父さんのものだから。

 本当に大事に扱って。弾かないなら弾かないで返しておいてくれると助かる。

 

 私はレスポールで弾くならヘヴィメタルかな。

 ヘビメタじゃなくてメタル。

 ────────────────────────

 アコースティックギターは私のです。

 この中だと一番安いけど、一応大事にしてほしいです。

 特に好きな音楽はなくて、好きな曲はあるけど、その話はしません。

 でも作曲家だとイトケンとノビヨ、そけんさんが好きです。

 

 あとゲーム機のこと書きます。押入れの右側にテレビとハード色々入ってます。ソフトはタンスに詰めてあります。どの引き出しかは開けて確認してください。ここテレビ線は来てないのでテレビは見れません。ゲーム用です。

 みんなのCDとかはリビングに置いてあります。好きなだけ聞いてください。

 

 大事にしてね。

 

 ───────────────────────────

 

 冷たい畳の上に座り込んで、3人の遺書を読んだ。

 

「あぁ……」

 

 みんな、私に消されてしまうことを覚悟していた。

 みんな、私より素晴らしい子だった。

 みんな、私にはじき出されてしまった。

 

 こんなものを見てしまったら、ここに私の遺書なんか書けない。3人とも私宛にこのノートを残したのに。

 

 みんな、いないの?

 問いかけても返事はない。頭の中は自分の言葉だけ。

 聞こえるのはエアコンの音、下から響くテレビの音、それと、階段を登ってくる音。

 

「あ、ぁあ……」

 

 これは誰にも見せられない。押し入れの中にノートを放り込む。挟まれたシャープペンシルのせいで少し大きな音がした。

 廊下を歩く音。襖が開いて、

 

「ひとりちゃん?大丈夫?……やっぱりまだ寒いわね」

「う、うん……」

 

 よろけながら立ち上がる。

 

「もう下降りる?一人で階段、大丈夫?」

「大丈夫……ちょっと足がしびれただけ……」

 

 本当はお腹が痛かったから。寒さが体に堪えた。でも、多分そのおかげで私のままでいられた。

 

 あの子達の部屋を出る。エアコンを切って、電気を消して、襖を閉じた。

 ここを自分の部屋だって思うことは出来なかったし、自分にそれを許せなかった。

 

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