四重人格後藤ひとり ぼっち・ざ・くあどろふぇにあ!   作:怠鳥

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本編-9「わたしはもうたくさん」

 階段を静かに降りて、リビングに戻る。

 お母さんは先に戻っていて、ご飯の支度をしていた。

 手伝おうか、と言おうとして、何も出来ないからやめた。

 

「ひとりちゃん、ほら、布団にお入り。カイロもほら」

「おばあちゃん……ありがとう」

 

 おばあちゃんが布団を少し捲り上げて、枕のそばのカイロを指さした。私が起きた後、布団を整え直してくれていたみたいだった。

 

「美智代、電気毛布はないのかい?」

「あぁ……うちにはないわねぇ……」

「電気行火も湯たんぽもかい?」

「えぇ……それも……」

「それじゃあせめて布団は羽毛にしてあげないと……私が買ってあげるから」

「そんな、お母さん。うちで買うから心配しないで……」

「可愛い孫のためだもの、私が……」

 

 布団に入って寝ていると、私の話で少し揉め始めてしまった。

 でも、そういう暖かい布団があると3人は喜ぶだろうな。

 カイロを握りしめて、でもお腹と腰には当てずに……痛みが少しでも長く続くようにしながら考えていた。

 

 そのうち、揚げ物の匂いがしてきた。それとお米の匂い。それに混じって少し甘い香りも。

 玄関のドアが開く音。

 

「あ、お父さん帰ってきたわ……!」

 

 お母さんはキッチンから飛び出して玄関へ。

 

「こら、美智代。火は止めたのかい……?」

「止めたわ!……おかえりなさい!」

「ただいま。でも出迎えなんてどうしたんだい?」

「あのね、ひとりちゃんが帰ってきたの……!」

 

 大きな足音。

 ドアを勢いよく開けて、お父さんがリビングに入ってきた。

 

「あ、ああ、お義母さん。お久しぶりです……」

「あら、直樹さん。ひとりちゃん、こっちで寝てるよ……」

「あ、ああ……ひとり、なのかい……?」

 

 お父さん。上着を着たまま、小上がりの下で屈んで私を見る。

 

「うん……」

「本当に……本当に、ひとり、なん、だな……」

「お父さん……その……ただいま……」

「ひとり……!」

 

 私の記憶よりちょっと老けたお父さんは、小上がりに上がって、私を強く抱きしめた。

 コートの表面の冷たさと、その内側のスーツの温さで少し体がびっくりした。

 

「ああ……あ、ああ……」

 

 お父さんは泣いていた。

 

「ああ、直樹さん……ひとりちゃんはね、今具合が悪くって……」

「そうよ、気持ちは分かるけど少し抑えて」

「あ、ああ……ああ、ごめんなぁ、ひとり……つい」

「ううん、いいよ。お父さんに会えてよかった……」

「ありがとう……帰ってきてくれて……ありがとう……」

「あなた、そろそろご飯も出来るから……」

「ああ、うん……うん……」

 

 お父さんは私を離すと、上着をお母さんに渡して着替えに行った。リビングのドアが閉まってからも、大きな泣き声が響いてきた。

 

「ああ、やだもう、私までもらい泣きしちゃった……」

「仕方ないねぇ……」

「ぱーぱ、ないてゆ?」

「そうよ。うれしくってね……本当に」

「へー」

 

 お父さんにもなんとか会えた。いなくなる前に。

 みんなに会えてよかった。

 

 でも、私が……3人を押しのけてまで帰ってきてよかったのかって。

 そればかり考えてしまう。

 だって、3人にギターを買ってあげていたし、大事なギターも貸してあげていた。

 だから、私が3人の場所を奪ってここにいるって知ったら……きっと悲しい思いをさせてしまう。

 

 一目会えただけでよかった。私の姿を最後に見せられてよかった。

 だから、もう私は消えてもいい。

 消えた方がいい。

 

 布団の中で、カイロを腹と腰に当てるよう、仰向けになる。

 おろしたての下着は、なぜかポケットがついていた。深く穿けるパンツで、ちょうどお腹のあたりに。なんだかカンガルーみたいだと思ったけれど、そこにカイロを入れてみた。

 ずれることを気にしなくていいから楽で、そういう下着があるんだな、と思った。腰にもついていればもっとよかったけれど。

 

 仰向けに寝転がりながら考える。

 どうすれば3人に体を返せるんだろう。あの部屋の持ち主をここに戻せるんだろう。

 でも、そういえばさっき私はこの体からいなくなっていた。それは、カイロでお腹と腰を温めて、体が楽になったからで。

 

 そういえば、3人の遺書に気になることが書いてあった。

 この体が痛い目に遭うと、ぐずった私が出てきてしまうということだったはず。

 今がまさにそれで、生理だから……それがこれからずっと、定期的に。

 じゃあ、痛み止めを飲めば私は消えることが出来るんだろうか。

 やっぱりお薬をお母さんに買ってきてもらった方が良かった。

 

 ああでも、今日だけ。

 お別れとごめんなさいを言えなかったみんなのためにここにいたい。

 それが終わったら、3人をここに戻したい。

 お父さんとお母さんの娘を、おばあちゃんの孫を、ふたりのお姉ちゃんを、ここに戻してあげたい。

 それで……今度こそ、本当に、私のことを忘れてほしい……。

 

 ドア越しの足音が響いてきて、ドアが開いた。

 着替えたお父さんが早足でこちらに近付いてくる。

 

「ひとり……具合悪いのか?」

「うん……お腹痛い……」

「えっと……起きて何がなんだか分からないよなぁ……」

「あなた、ちょっとこっち来て」

「え、ああ」

 

 お父さんがキッチンの方へ。

 

「これ、見てくれれば多分分かるから」

「あ、ああー……なるほど。うん、分かった」

「そういうことだから、ね」

「うん……そうだ、何か手伝おうか?」

「今日はいいわよ。それよりひとりちゃんのそばにいてあげて」

「うん、ありがとう」

 

 お父さんが戻ってくる。

 

「ひとり、今日はひとりの好きな唐揚げだよ」

「うん……」

「ニンニク生姜味と塩麹味の二種類あってね、そうだ、麹が流行ったころは……ひとりはいなかったっけ」

「こうじって、何?」

「うん、麹っていうのは……」

 

 私の好きなものを覚えていてくれて嬉しい。

 これが後ろ髪を引かれる思い。

 消えようとしていることも、ここに居座ろうとすることも、どちらも同じくらい罪深いように思えて、どうすることもできない。でも、私と3人のどちらかを選んでと聞くこともできない。なのに、なすがままに私と3人のどちらかが有耶無耶で消えていくことにも耐えられない。

 

「それで、お肉が柔らかくなったり旨味が引き出されたりして……ああ、ひとりが帰ってきたのは幼稚園のときぶりだもんな……ちょっと話が難しかったかい?」

「ううん、分かるよ」

「そうか……あの子達のおかげかもしれないな……」

 

 あの子達。この体にいるもう3人の女の子。

 

「あ、あのね……お父さん」

「ん?どうしたんだい?」

「あの……こ、この体の……3人のことなんだけど……」

 

 ”この体の”。そう言った瞬間、お父さんも複雑な顔をした。見たくなかったから、俯いて目をそらしてしまった。

 

「うん……」

「わた、私がいると……出てこれない、みたい……」

 

 お父さんは黙ってしまった。

 キッチンの包丁の音も止まった。

 言わなきゃよかった。言っちゃ駄目だと思ったのに、思わず言ってしまった。私は馬鹿だ。

 

「……あ」

 

 抱きしめられた。

 

「そのことは、今は、いいんだよ……」

「でも、お父さん、寂しいよね、みんながいなくて」

「ひとりがいなくなるのも、寂しいよ。……ひとりがいない間も、病院には定期的に通ってるんだよ。だから、先生……カウンセラーの先生に相談しよう」

「うん……」

「そうだ、何か聞きたいことはあるかな?ひとりがいない間に何があったかとか……」

 

 私がまだ知らなくて、知りたいこと。

 

「……なんで、3人はギターをやってるの?」

「あ、部屋見たのか。そうだなぁ……ひとりがいなくなって、みんなに名前がついた頃、父さんのギター見てなぁ、”ギターやりたい”って突然」

「うん……」

「何がきっかけだったのか見当もつかなかったから、”どうして?”って聞いたんだけど……」

 

 お父さんは不思議そうな顔をして、

 

「”ギターのあくまがいた”……って。小さな子供にありがちで何かが見えてたり……後はその、ひとりは多重人格なわけだから。もしかしたら”更にもう1人”いるのかな?とかも思ったんだけど……うん。それで教え始めたんだ」

「ギターの……悪魔?」

「うん。ちょっと怖いね」

「悪魔……だから?」

「それだけなら子供の言うことだし、別にどうとも思わないけどね。ただ、ギタリストなら結構知ってる人は多いと思うんだけど……”ギター”と”悪魔”、それもみんなが言うには”ギターの悪魔”だから、少し身震いしちゃうよ。何せ─────」

 

 腕を組んでお父さんが更に続ける。

 

「悪魔と契約して最高のギターの腕を手に入れたって伝説があるからね。大昔のアメリカにそういう人がいたんだ。代わりに、そのギタリストは27歳で死んじゃったんだけど」

「え……27、歳」

 

 背筋が凍った。

 

「それと関係ある話で、27クラブっていうのもある。これもいい話じゃないけど、まぁ、不思議な共通点というか……とんでもない才能を発揮したミュージシャンが、なぜか27歳で死んでしまっていて。さっき話したギタリストも、やっぱり27歳で死んじゃってるんだよ」

 

 27クラブ。才能。音楽。

 

「お父さんも好きで、あと……万理。ひとりの中の人格のお気に入りのギタリスト、ジミ・ヘンドリックスとカート・コバーンも27歳で死んじゃってるんだ」

 

 27歳で死ぬ。ミュージシャン。

 

「でも、あの3人に限っては心配してないんだ」

「え、あ……どうして?」

「うん。昔バンドやってた父さんとしては複雑なんだけど……あの子達、バンドには全然興味がなくってね」

「あ……」

 

 バンドに興味がない。つまり、

 

「プロになりたい、とかは……」

「全然、だって。なおさらギターをやりたがる理由が分からなくなっちゃったんだけど……練習熱心なんだなぁ」

 

 安心した。ギターをやっていても、この体は死なない。死なないかもしれない。少なくとも、27歳なんて早さでは……。

 

「でも万理だけ左利きだから少しゾワッとしたんだよ。ギターは右利きで弾くんだけどね」

「それは、なんで?」

「ジミもカートも左利きってだけで、別に大したことじゃないよ」

 

 良かった……。ただの偶然。それに、27歳で死ぬミュージシャンだってただの偶然だ。たまたま27歳で死んだミュージシャンが有名だっただけで。

 

「ギターが好きで練習も頑張ったからだと思うんだけど、3人とも怖いくらい上手いよ。そのうち昔の父さんも追い越しちゃうだろうなぁ……」

「お父さんは……」

「うん、何かな?」

「私にも……ギター弾いて欲しい?」

「うーん……それはひとりが決めることだよ。3人も僕が教えたから弾いたわけじゃないしね」

「わかった……」

 

 私はギターなんて弾きたくない。死んだ後藤ひとりのように私もプロになれるとか思ってないけれど。

 でも、お父さんが私にもギターをやってほしいと思っていたら、私は弾かなきゃいけないと思った。そうじゃなくて安心してしまった。

 

「ほーら、ご飯できたわよー」

「お、ご飯できたみたいだ。……起きれる?」

「うん……」

 

 起き上がろうとして、やっぱりまだお腹が痛んだ。すると、

 

「よっこいしょ……」

「あ……」

「うん。まだまだ軽い軽い」

 

 私を抱きかかえるように、立ち上がらせてくれた。

 ダイニングテーブルへ向かっていく。あんなに背の高かったテーブルもこんなに低い。

 

「ひとりちゃん、椅子にタオルケットかけておいたからねぇ」

「おばあちゃん……ありがとう」

 

 座面がタオルで覆われた席に座る。

 テーブルにはご馳走。

 唐揚げ、キャベツとトマトと水菜のサラダ、中華スープ、それと……お赤飯?

 

「普通のご飯は……?」

「ひとりちゃんのお祝いだから、今日はお赤飯なの」

「うん。そういうことだからね」

「それにしても美智代、準備が良かったねぇ」

「あの子達から”もうすぐかも”って言われてたの」

 

 私の、何のお祝いなんだろう。

 

「何のお祝いなの?」

「えーっと、父さんが言うのはちょっとデリカシーがないから……」

「初潮が来た女の子はお赤飯でお祝いをするものなの」

「少し大人になったお祝いねぇ」

 

 私は、大人になんかなってないのに。

 ああ、暗い顔をしちゃだめだ。せめて照れくさいフリを。

 

「かああえ、かああえ」

「はいはい、まずはひとりお姉ちゃんが取ってからね。ほら、ひとりちゃんからどうぞ」

「白っぽいのが塩麹味で、色が濃いのがにんにく醤油。味はしっかりついてるからマヨネーズとかはなしでね」

「うん、いただきます……」

 

 唐揚げを2つ取って、口に頬張る。昔よりも美味しい。

 昔と言っても、私にとってはさっきのことだから、いきなり変わってしまって戸惑ってしまった。

 

「おいしい……」

「そう……よかった!じゃあふたりちゃんもどうぞ」

「あーい」

「ささ、お義母さんも」

「ありがとう、じゃあいただこうかしらねぇ」

 

 賑やかな食事。

 おばあちゃんがいる分を差し引いても、きっと……私のいない食卓は楽しいものだったんだろう。

 

「美智代……その、今日ビールいいかな?金曜日だし……それに……」

「だめよ、素面で楽しみましょう?」

「んー……分かった。別にいいかぁ」

「美智代は直樹さんに厳しくないかい……?」

 

 お赤飯は甘い香りがして、美味しかった。

 

 少し遠い視点で皆の顔を見る。

 楽しそうで、幸せそうな日々。

 私のいない間に続いてきた幸福。

 私の中の3人とみんなが形作ってきたもの。

 

 ぼんやりと目の前に陽だまりが見える。

 気が遠くなるほど、透明の人影に色がついてくる。

 体の感覚がなくなっていく。お箸が手からこぼれていく。

 色の付いた人影は、人になって、それは私の顔をしていない私で、

 

「─────っあ……ぁ……!」

 

 左手でお腹を殴った。

 

「え、どうしたのひとりちゃん……!?」

「……は、ぁ……お腹、叩いたから……痛、くて……」

「どうしてそんなことするの!?」

 

 お母さんが席を立って私のそばで膝をついた。

 

「ひとりちゃん……ねえ、どうしてお腹を叩くなんて……痛いでしょ……?どうしてなの……?」

「また、私が私じゃなくなっちゃう……から……」

「それは……千里ちゃん達が出てきそうなの?」

「わかん、ない……けど、でも、今日だけはみんなと……」

「ひとりちゃん……」

 

 当たり前かもしれないけど、やっぱり。

 痛くないと、私は私じゃいられないみたいだった。

 つまり、痛い時に私がここにいてしまうんだったら、生理が月ごとに来るんだったら、私はその度にここに戻ってきてしまうってことだった。

 

 痛くなければ。とても痛くなければ。辛くなければ。

 私はここにいられない。

 突然自分のお腹を殴ったことに、お母さん以外はあっけに取られていた。

 

「ひとりちゃん、お腹は大事にしなきゃだめだよ……女の子なんだから……」

 

 おばあちゃんが私の肩をつかんでそっと揺する。

 でも、

 

「痛くないと、だめみたい」

「ひとり、それは……どういうことだい」

 

 お父さんは机を挟んで左斜めから私に問いかける。

 

「痛くないと、私が、私でいられないみたいだから」

「……ああ、そういう、ことか。そうか……」

 

 お父さんは私の言葉に納得したみたいだけれど、頭を抱えてしまった。

 

「直樹さん、どういうことなんだい……」

 

 おばあちゃんがお父さんに聞く。けど、

 

「お母さん。ひとりちゃんのような……多重人格の人はね。自分を傷つけてしまう人が多いそうなの。色々な理由があるそうだけれど……ひとりちゃんの場合は、ひとりちゃんが、ひとりちゃんだってことを守るためで……」

「じゃあ、どうすればいいんだい……!?」

 

 おばあちゃんが、お母さんを叱りつけはじめた。

 どうしよう。どうしよう。私が、私でいようって思ったから。そうしなくちゃいけないって、今日だけはそうじゃないといけないって思ったから。

 

「あぁ、ふあぁああ……!」

「ああ、ふたり……ごめん、ごめんなぁ……」

 

 ふたりを泣かせてしまった。

 私がせっかくのお祝いを壊してしまった。賑やかな食卓を潰してしまった。幸せな一日を台無しにしてしまった。

 もう嫌だ。もうこれ以上迷惑をかけたくない。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……もう、私、出て来ないから……もうこの体に悪さ、しませんから……」

「待って、ひとりちゃん……」

 

 お箸を置き直して、私は椅子から立った。

 そのまま敷きっぱなしの布団へ歩く。

 

「待って……お願い、ひとりちゃん、待って……」

 

 背中からお母さんが抱きしめてくる。

 

「ごめんなさい、でも今日はみんなにちゃんとさよならって言えるから、だから、ごめんなさい、さよなら」

 

 お父さんに正面から抱きしめられた。

 

「ひとり……無理にここにいようとしたり、いなくなろうとしたりしなくていいんだよ。いつでも、ひとりが帰って来れるときに帰ってくればいいから……だから、さよならなんて寂しいこと、言わないでくれ……」

 

 でも、

 

「でも、私もう、この体と……みんなに迷惑かけたくないのに……!」

「この体、この体って……そうじゃなくて、ひとりの体だろう!?」

「違う……! もうとっくにこの体は3人のもので……私は勝手に取っちゃっただけ!今さら帰ってきて……3人にも迷惑かけて……だから、さよなら……」

 

 おばあちゃんも近付いてきて、

 

「ひとりちゃん……ばぁばが何も分かってなかったのが悪いんだよ……だからほら、ご飯お食べ……」

「もういいよ……私がおかしいだけだから……おばあちゃんは悪くないよ……」

「ひとりちゃんが頑張ってくれたのが分からないばぁばの方が悪いんだよ……お願いだから戻っておくれ……」

 

 左手の指を何かに掴まれた。

 

「えっく……っく……ひちょいおえーちゃ……」

「ふたり……ひとりは、ふたりのお姉ちゃんじゃないの」

「ひとり……!?」

「ひとりちゃん……!なんてことを……!」

「だから、ばいばい、さよなら」

「頼むからひとり、意固地にならないでくれよ……」

「嫌でしょ……?」

「何がだい……?」

「こんな、いきなり自分のお腹殴ったり、この体を傷つけたりするような子は、嫌でしょ……」

「また病院に行くんだから、その時どうすればいいか考えましょ?ね?」

「お願いだから……もう、私のことは、忘れてよ……忘れられたい……」

 

 お母さんとお父さんを振りほどいて、布団に入る。

 

「さよならが言えて……よかった」

 

 痛みが鈍っていく。体の感覚がまた消えていく。目を閉じると頭の中で何かが噛み合った感覚。

 

「あ……」

 

 見えるのは、黒い毛並みに金色の縞模様をした虎。

 

 虎の姿をした悪魔。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギターの悪魔。

 

 ───────────────

 

 また私は、3人の女の子の夢を見る。

 

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