ブルアカで思いついた話を不定期で

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ピクシブで載せてた奴消しちゃったので焼き直し


ブルアカ思いついた奴

――正直、チョロいよな

 

 デコボコヘルメット団の一人は、鼻を鳴らす。視線の先にいるのは拘束したトリニティの生徒と彼女のリーダー含めた幹部たちだ。彼女たちは何かごちゃごちゃと話している。

 

 人質と会話するのは悪手。こちらの情報を極力与えるべきじゃない。そうは思っていても、あのお嬢様然としたトリニティ生を前にしては、何か言わずにはいられない。

 

「が、学園と交渉を!?」

 

 人質が恐怖に引きつった声を上げる。ああ、この怯えきった声は何物にも代えられないな、彼女はそんな事を考える。

 

 どうせ学園を卒業して、何一つ不自由なく、成功の階段を上っていくつもりだったのだろう。だが、そうはさせない。身代金さえ受け取れば、いや、受け取れなかったとしても、金をせしめる方法はあるのだ。

 

 ブラックマーケットでは、あらゆるものが取引される。物でも人でも。

 

「ふぅ……」

 

 トリニティから連絡を待つ間、彼女は人質の顔をよく見ておこうと思った。顔面は蒼白で、歯の根があわずにカタカタと震えている。よほど自分の将来に絶望したらしい。

 

「だ、ダメ、逃げて……いえ、逃げてください……!」

 

――命乞いか、滑稽だな。

 

 失笑が漏れる。しかし、その笑いはすぐに消え失せた。彼女の中に疑問が浮かんだのだ。

 

 あの生徒は「逃げて」と言った。我が身可愛さの命乞いではない。

 

「急に何を……」

 

 リーダーの側で控えていた一人が声を漏らすと、耳をつんざくような爆音と共に、視界が漂白された。

 

 

――

 

 

「くっ、くくくっ、くひっ……」

 

 爆炎の中から現れたのは、一人の女子生徒だった。

 

 黒い制服に乱れた長髪、狂気に染まった赤い瞳、口元は三日月のように開かれ、針で金属板を引っ搔いたような笑い声が漏れている。

 

「くひひひひひひひひ!!」

 

 両手には赤黒いトレンチガン。射程を殺した代わりにチョークを無くし、その短さから閉所での取り回しを想定されたショットガンだ。

 

「う、うわあああ!?」

 

 人質をものともしないような発破による突入、常軌を逸した表情と哄笑、それらはこの場にいる誰もが恐慌し、畏怖するものだった。

 

「き、来てしまいました……!」

 

 トリニティ総合学園三年生、正義実現委員会委員長、剣先ツルギ。

 

 学園の生徒にして、戦略兵器である。

 

 その狂気をはらんだ立ち振る舞いとは対照的に、彼女の脳内では凄まじい速度で戦闘理論がくみ上げられていく。

 

 屋内閉所。

 敵は五人。増援にはまだ時間がある。

 人質は二人、外傷は無し。

 

 状況を把握したツルギは、突入時の混乱から立ち直れていない敵へ攻撃を開始する。

 

「きえええええええええっっっ!!!!」

 

 猿叫と共に大きく踏み込み、長い髪が軌跡をたどる。その先で呆けていた一人を蹴り倒し、腹部と頭部に向かって引き金を引く。

 

「ーーっ!!」

 

 悲鳴は銃声と狂ったような笑い声にかき消され、彼女の前には赤黒い蓮華を思わせる血痕が飛び散っていた。

 

「けひゃひゃひゃひゃっ!!」

「な、何だこいつはっ!?」

 

 狂気すら感じる声をあげながら突進してくる死神に、銃を構えて引き金を引く。

 

 しかしツルギは身体を捩るだけでそれを躱し、そのまま左手のトレンチガンを発砲する。

 

「がっ、はっ……」

 

 胸部にこぶし大の穴をあけた敵はくずれおちて、その穴からどろっとした液体を垂れ流す。ツルギは突進の勢いを殺さないまま身を翻し、相手の側頭部めがけて回し蹴りを加え、床へと叩きつけた。

 

「ば、化け物っ!!」

 

 人質から離れた位置にいる一人が、声を上げつつ銃を構える。

 

「ひひっ!」

「ぐあっ!?」

 

 引き金が引かれる前に腕がはじかれ、銃を取り落とす。銃そのものを撃たれたと理解した時には、弾の切れたトレンチガンを持った狂人が、服の襟を掴んで地面に引き倒している。

 

「くくくっライフル……スラ、ッグ」

 

 散弾を発射するショットガンは、弾丸を回転させ軌道を安定させる溝……ライフリングが存在せず、通常の弾丸を発射するのには不向きである。だが、それを解消するのがライフルスラグという銃弾で、溝の無いショットガンバレルの代わりに、弾自体に溝が彫られている。

 

 離れた距離で、散弾では銃身を狙った精密射撃は不可能、だがツルギはトレンチガンの弾倉に一発だけライフルスラグを仕込んでいた。

 

「がっ、あっ……ぎいぃっ……!!」

「くふっ、ひひひっ」

 

 組み伏せた敵に弾の切れた銃口を押し付け、全体重をかける。ツルギの手に肉の潰れる感触が伝わり、敵は苦悶の表情を浮かべながら意識を手放した。

 

「なんだ! 何事だ!」

 

 上階から、同じようなヘルメットを被った敵が駆け下りてくる。その手にはアサルトライフルが握られていた。

 

「おい、そこのキチガイ! それ以上動くなよ!」

 

 人質の側にいた二人が、それぞれの銃口を人質に向けながら喚く。

 

「ひっ、だ、ダメ……人質なんてしたら……」

「形勢逆転だな? 状況が分かってるなら、大人しく――」

 

 銃声が響き、話を遮った。

 

「くく、くけけっ」

 

 それは、狂気の奥底から覗く怒りの感情。

 

「けけけけっ、けけっ、ひゃはっ、ひゃははははははは!!!」

 

 人数では圧倒的な有利。

 

 人質は確保しており、銃口は彼女たちに密着している。

 

 距離も十分開いており、不審な動きをすれば、すぐに掃射することもできる。

 

「ははははははっ、ひゃはっ、ひゃははははははははは!!!」

 

 その哄笑は、有利だとか不利だとか、そういった理性的な計算を塗りつぶす恐怖を、その場にいる全員に与えた。

 

「な、なんだ……こいつ……?」

「けひゃ……」

 

 リーダー格がそれを呟くと、電池が切れたようにツルギは動きを止める。そして――

 

「くひっ」

 

 スカートの下から、無数の手榴弾を地面に落とした。

 

 

――

 

 

――やってしまった。

 

 ツルギは、辺りの血だまりを見て後悔していた。

 

 トリニティに……正義に仇なす存在を殺すことに、躊躇はない。しかし、それは同級生や下級生から怯えられても構わないというわけではないのだ。

 

「ひっ……ぁ……」

 

 トリニティの女子生徒が二人、人質にとらわれている。

 

 それは知っていたし、現に傷を負わせる事は無かった。肉体的には。

 

「た、たす、け……」

 

 肉体的にはと書いたのは、もちろんそれ以外で深い傷を負わせてしまったからで、ツルギは何とか取りつくろおうとして、彼女たちに歩み寄る。

 

「ひぅっ!?」

「こ、こないで……」

 

 安心させるように笑みを浮かべ、大丈夫かと声を掛ける。彼女はそれをしようとした。精一杯顔を手でほぐしてから、それを実行することにする。

 

「……?」

 

 笑いかける。という行為があまり得意ではないのは自覚していた。なので、彼女は控えめに表情を緩めて、「無事ですか?」と聞くことにする。

 

「ぶじぇ――」

「……」

「……」

 

 噛んだ。

 

 台詞の終わりなら、ごまかしも利いたが、喋り始めである。もうどうしようもなかった。そして、沈黙が訪れる。

 

「……くひっ」

 

 ツルギ――彼女にとって、その沈黙は重すぎた。彼女が笑い声を漏らすと、救助するべきだった女子生徒たちは震えあがり、その顔面からはさっと血の気が引く。

 

「ひゃはははははっ、げはははははははっ、ぎゃああはははははははははははは!!!」

「い、いやあああああああああああああああっ!!!」

 

――嗚呼、どうしていつもこうなってしまうんだろう。

 

 恐怖に顔を引きつらせ、絶叫する女子生徒を前にしては、ツルギはもう笑うしかなかった。

 

――もっと普通に、友達とスイーツ食べたりもしたいのにな。

 

 ツルギの内面に浮かんだ悲しみは、その場にいる誰にも気取られぬまま、狂った笑いに塗りつぶされていった。


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