お盆野中ですが、皆様如何お過ごしでしょうか。
親戚知人が家に集まり、個人を偲ぶ。
そんな日本の伝統をこれからも大切にしていきましょう。
それでは後編もお楽しみください。
翌朝、康一は小綺麗な格好をして車のエンジンを掛ける。
チュウィウィウィブロロォォゥゥン...
康介と同型であるがマフラーの音は非常に控えめで紳士的な音である。
康一「じゃ、行ってきまーす!!」
俊和「事故には気をつけて~」
真美子「レディーファーストを忘れないようにね!!」
康一「分かってる~」
ガコッブロロロ...
車はゆっくり家の駐車場から出発する。
康介「うーん、本当に同じ車かこれ?」
成田「康介...いくら幽霊になったとて後部座席で孫のデートに付いていくのはどうかと思うぞ。」
この二人、勝手に康一の車に乗り込みデートを監視しようとしていた。
成田はあまり乗り気ではないようだが康介は何だかキラキラした目をしていた。
勿論二人とも幽霊のため康一には一切姿が見えていない。
10分後、おそらく康一の彼女の家についたのだろうか、ある一軒家の前に車を止めるとファンと1回クラクションを鳴らす。
それを待っていたかのように玄関のドアが開き、白いワンピース姿の女子が一人出てくる。
そして車の助手席のドアを開けた。
康一「おまたせ~美樹ちゃん」
安藤美樹、21歳。康一と同じ大学・学部に通う普通の女子学生だ。
美樹「今日はよろしくね康一くん♪」
なにやらデートを楽しみにしていたかのように乗り込み、シートベルトを締める。
康介「ふむ、美樹さんというのか。なに、しっかりしてそうな子だな」
成田「うん、しかもべっぴんさんじゃあないか。」
勿論二人のことは美樹も見えていない。
今日の二人は静かな見張り役、ある種の守護霊状態だ。
こうして4人(内幽霊2人)が乗る車は少し離れた海辺の町へと向かった。
美樹「~♪」
康一「今日のデート、そんなに楽しみ?」
美樹「勿論!あ、康一くんはあんまり乗り気じゃない...?」
康一「いやいや!!むしろ自分も張り切りすぎてちょといい服買ってみたりねエヘヘ」
康一はデレデレだ。
美樹「良かった~、しかも今回は私のわがままを聞いてくれて感謝してるよ」
康一「ここの水族館、自分もちょっと見てみたかった動物がいてね」
二人は水族館デートの予定だった。
後ろの幽霊二人はこんな何気ない会話に少々ドキドキしていた。
康介「うむ、若いって良いなぁ...」
成田「だな...」
水族館へ向かう道中、少し大きめの霊園を横切った。
その時、車が突如ボウンボウンと異音を立て始め霊園のど真ん前で車を止める。
美樹「うそ、故障?」
康一「ちょっと見てみる。」
康一は外に出るとボンネットを開けてエンジンルームを観察し始める。
康介「何だ、音的にはフロントだが...一応見てみるわ」
そう言うと康介もスーッと外に出る。
そして康介は外に出た瞬間、唖然とする。
戻る家のない霊たちが車の前に居座りその霊力で車を止めてしまっていたのだ。
幽霊A「お前も道連れだ...見知らぬ若人...」
幽霊B「ふふ...仲間が増える...」
康介「くおぉらあああああ!!!」
突如康介は幽霊ながら大きな声を上げる。
それを聞いた幽霊がぎょっとして車から離れていく。
幽霊A「なんだ...あいつ...」
幽霊B「守護霊だろう...コイツラを連れて行くのは駄目だ...」
康一はしばらくいろいろ弄りなにかカチッとはめ込むと、ボンネットを閉めエンジンを掛ける。
チュウィウィウィブロロォォゥゥン!!
康一「よし、かかった」
美樹「何があったの?」
康一「簡単に言うとエンジンを動かすのに必要なプラグが抜けかけてた、って感じかな」
美樹「ふーん...それよりほら、そろそろ開館時間だし急ごっ!!」
康一「ホントだ、急がなきゃね」
こうして4人が乗った車は開館時間直前に無事到着。
康一と美樹は手を繋いで入場待ちの列に並んだ。
一方康介はなにやらしみじみとしていた。
康介「この水族館...懐かしいなぁ。今はこんなに大きな場所になったのか。」
成田「なんだ康介、まさか嫁さんとのデートに来たとか言わないよな?」
康介「そのまさかだよ。懐かしいなぁ。あの頃は初代カリーナ1600GTに乗っててさ。」
成田「お前、昔からトヨタばっかだったもんな。」
康介「速い車ではあった。でも、あの日は飛ばそうなんて思わなかったな。少しでも長く助手席にいてほしくて、わざと遠回りしたもんだ。」
成田「かーっ、俺が大学で卒論書いて必死こいてる頃に、お前はそんなことしてたんか!」
康介「一生嫁なしのお前に、この気持ちが分かってたまるもんですか~。べーっ!」
成田「この野郎...って、ほら見ろ、お前の孫と彼女さんもう中に入ってったぞ。」
康介「おっと、置いてかれるな。行くぞ。」
こうして水族館デートは順調に事が進んでいた。
二人の甘酸っぱいデートを遠目から見る幽霊二人。
事あるごとにくーっっと、こっちが恥ずかしいわという気持ちになる幽霊であった。
楽しい楽しい水族館デートのあとはお待ちかねランチタイム。
だがランチはお盆ということもありどこも混み合っていた。
康一「しまったなぁ、ランチは下調べするべきだった」
少し焦る康一。
だが美樹はと言うとそんなことは気にしておらず、なんならもっと一緒にこんな時間を過ごしていたい、そう思っていた。
美樹「...あ、あそこ空いてる?」
康一「ホントだ、ナイス美樹ちゃん!」
美樹「えへへ~」
子供っぽい笑顔を浮かべる。
二人が入ったのは純和食の定食屋であった。まだ駐車場に空きがあるというだけで店内では数組が待っている状況であった。
康介「まじか...」
成田「お前まさか」
康介「ああ、ここも嘉子とデートの時に来ている...」
成田「...」
そんなこんなで待つこと10分、二人は開いてる席に通された。
店員「いらっしゃい、ご注文は?」
元気なおばちゃん店員だ。
康一「じゃあ僕は天丼定食で」
美樹「私は牛タン定食を」
店員「はいよ、天定に牛定ね!お水はそこのピッチャーからセルフでお願いね」
二人は料理が届くまでの間、取り留めのない話をしていた。
美樹「康一くんの車の趣味って、お父さん譲りだったりするの?」
康一「いや、おじいちゃんだね。昔、地元じゃ"伝説の走り屋"なんて呼ばれてたらしくてさ。子どもの頃からその武勇伝を何度も聞かされてるうちに、気付いたら自分も車が好きになってた。」
美樹「えっ、じゃあ今日乗ってきた車って、お爺さんの形見だったり?」
康一「いや、それは違うんだ。おじいちゃんは六十代で車を手放しちゃってるから。でも、その"伝説の走り屋"って呼ばれてた頃に乗ってたのが、あのツアラーVだったらしくてさ。」
康一は少し照れくさそうに笑う。
康一「『いつか俺も乗りたい』ってずっと思っててね。去年ようやく買えたんだ。でも、あんな古い車なのに意外と高くてね...」
すると美樹は何かを思い出したように康一に質問を投げかけた。
美樹「ねえ、もしかしてなんだけど...お爺さんの名前、康介さんだったりする?」
康一「ぶふっ!?な、なんでそれを!?」
水を一口飲んでいた康一は突然祖父の名前が彼女から出てきて驚きと困惑で頭がいっぱいになった。
美樹「実はおじいちゃんからそんなような話をたまに聞いててね、うちの地元には昔、康介っていう伝説の走り屋がいたって。康一くんと付き合い始めてから特に名前が似てるからってよく話してたんだけど...まさか本当に血縁関係だったのね」
康一「あはは...ダサいよね、走り屋なんて所詮道交法を守らない不届き者だし」
それを聞いた康介は少しムッとする。
康介「聞き捨てならんぞ康一...」
成田「まあまあ...」
美樹「そんな事ないわ、今朝だって車の故障をささっと直しちゃうし、頼りになるもん!康一くんはダサくなんかない!」
康介「康一...良い彼女を持ったな」
なにかしんみりする康介であった。
数分後、料理が運ばれてくる。
店員「はい、天丼定食と牛タン定食ね!」
康一「ありがとうございます...あれ?デザートって付いてましたっけ?」
店員「あー、これはオバチャンからのサービスよ!たんとおあがり!」
美樹「美味しそ~」
こうして二人はランチを楽しんだ。
そしてこの後、午後も別の場所に向かいデートを存分に楽しんだ二人。
青春の甘酸っぱい思い出を沢山作り、時間はあっという間に17時を過ぎようとしていた。
康一「今日は楽しかった、ありがとうね美樹ちゃん」
美樹「こちらこそ、色々わがまま聞いてくれてありがと!」
康一「また、近い内にどこか遊びに行こう、今度はもっと遠く、どっか泊まる形でさ」
美樹「っ!そ、そうだね...///」
無意識にトンデモ発言をしてしまう康一。
その発言のヤバさに気づくまでにその後数ヶ月気づかなかったのはまた別のお話。
ブロロォォゥゥゥキーッ...
車は美樹の家の前で止まる。
康一「じゃあまた大学で!」
美樹「うん!残りの道中も気をつけてね!それじゃおつかれ!!」
康一「うん、おつかれ!」
こうして康一と他幽霊二人は家に戻った。
ガラガラガラ
康一「ただいま~」
俊和「おかえり、デートどうだった?」
康一「めっちゃ楽しかった~」
俊和「うん、良かったよかった。ほら、手洗ったら夕飯の準備手伝って」
康一「はーい」
二人のお盆デートはこうして幕を閉じたのであった。
8月16日、送り盆。
康一達は送り火を焚いていた。
康介「っと、もうこんな時間か。成田!梅子さん!行きますよ!!」
成田「はいよ、お盆がもう少し長ければ良いんだがなぁ...」
梅子「そうねぇ。でも、ちょっとしか会えないからこそ次の楽しみがあるってものよ?」
康介「そうだぞ成田。ほら、今日は梅子さんが助手席だから成田は後ろだ」
成田「えぇ~後ろ狭いんだよこの車」
康介「文句言うならそのナスの牛に乗ってくるんだな」
成田「へいへい分かったから後ろ乗るから」
キュウィウィウィブロォォゥゥッゥ!!ブロロロロ...
康一のものとは違い相変わらず凄まじいマフラー音が轟く。
康介「さて、じゃあまた来年!」
康一たちには聞こえていないが一応声はかける、それが康介の主義だった。
成田「じゃあ梅子さん、しっかり掴まっててくださいね。」
梅子「へ?」
ガコッブロロロロオオオオオオッフィシューンッ!!ブロォォォォ....
梅子「ひぃぃぃぃぃ!!!???」
成田「ば、ばかやろぉぉぉぉ!!!!」
凄まじい吸気音を響かせ、3人は爆速で天界へと戻っていくのであった...
2026年お盆、完。
いかがでしたでしょうか。
実はこの物語でツアラーVを選んだ理由って凄い単純でして、有名だからです。
その中でも90系を選んだのは、実は私の父が昔90系マーク2に乗っていたからなんです。
あのフォルム、私は今でも好きですね。
80系のキリっとした輪郭から少し丸みを帯びた90年代のトヨタらしいデザインと言いますか、空気抵抗が少なそうでいいなと。(実際のところはわかりませんがね。)
ということでまた次のお話をお楽しみに!!