虚の穴は何故閉じない?   作:エア_

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やぁ


第十五話~秘密

虚夜宮の地下。そこには藍染が遥か昔に作った施設があり、その殆どが閉鎖され遺跡と化した場所が存在する。機材の殆どが活動を停止しており、ここに存在するものは全て過去のものとなっていた。あらゆる機材が置かれており、そこへは立ち入り禁止(KEEPOUT)と書かれた黄色いテープが巻かれていた。

 

過去の遺物があるここに、何故かザエルアポロがいた。立ち入り禁止の文字が読めないわけではないはずなのだが、彼はそこをうろついていた。

 

その顔は真剣そのもので、今まで多少見せていた狂気が一切感じられない。まるで今の彼は探検というより鑑識をしているようで、塵一つ見落とさないといった表情が彼の真剣さを余計に周囲へ伝えていた。

 

彼が歩みを進めていると、何かの部屋に辿り着いた。中は暗闇に覆われており、目を凝らしてもその奥にあるものは見えないだろう。かけていたメガネに度が入っていればよかったのだが、残念なことに彼のメガネは伊達メガネなのだ。ファッショナブルサイエンティストザエルアポロ……うん、響きはいい。

 

「アポロ様! アポロ様!」

 

「あぁ、見つけたかい……」

 

彼の従属官が暗闇の中から顔を出し、何かを伝えている。するとその表情はさらに険しくなり、いっそうと威圧感が増す。

 

「やはりか……藍染ッ」

 

自分たちのボスに対しての怒りを露にしながら奥へと進む。今までご無沙汰だった怒りの感情が眉間の皺を増やしていた。表情が強張る瞬間を理解し、これが怒りなのかと再確認する。今までの怒りを思っていたものとは違うこの怒りの強さに、ザエルアポロ自身驚いていた。

 

「これが……本当の怒りと言うものなのか」

 

握り締めた拳から赤い雫が滴り落ちる。手袋が赤く染まり、中に血が溜まっていった。従属官達も、彼の怒りに恐怖し体を震わせていた。

 

「今までのものとは違う……こんな時に、こんな事でわかっても嬉しくないというのに」

 

歯軋りし、その怒りを周囲に知らせるかのように、その霊圧を荒立たせていた。だが、すぐに霊圧は静まり、その表情は穏やかなものになる。

 

「あ、アポロ様」

 

自分を怯える従属官の姿が目に映ったのだ。体を震わせ恐怖するその姿が目に止まる。普段ならなんとも思わないのだろう。だが何故か情を抱いたとでも言うのだろう。破面である彼が、守以外に初めて穏やかな表情を向けたのだ。いつもの不敵な笑みではなく、純真で優しさに満ちた顔。初めは戸惑いながらも、従属官達はその表情に震えを止めて笑顔で返した。

 

「……今すぐグリムジョー・ジャガージャックとノイト・ラジルガを連れてくるんだ。いいかい? その二人以外に気づかれないように。勿論、ロカにもだ」

 

ザエルアポロの放った命令を聞いた彼らは影に溶け込むように消えていった。

 

ちなみにロカとは、ザエルアポロの従属官の中で唯一の女性破面であり、まことに残念ながら守と交流がある。流石は女に目がない男だ、手が早い。

 

従属官たちの姿がなくなると同時に、再び彼の霊圧は荒立っていく。それは今まで待てを食らっていた犬のように、それでいて理性的に己の感情を霊圧で表現していた。

 

「……今守が現世に行っていてよかった……虚園に死神が来るのも時間の問題と見ていい。藍染のことだ。最悪見限ることも考えておかないとな」

 

壁についていたスイッチに手をかける。電源が落ちていたはずの部屋に光があふれる。人工的な光が周囲を包み込み。

 

そこに映ったのは……。

 

 

 

 

場所は変わって空座町の浦原商店の屋根上。りんごを旨そうに齧る男の姿があった。そう、守である。ビニール袋にたっぷり入っているりんごを咀嚼しながら青空へ視線を向ける。雲が流れる晴れた空。ふわふわ浮かんで漂う姿に、あれはもしかすれば乗れるんじゃないかと馬鹿なことを考えていた。こういうときこそ、青い猫型ロボットの道具がほしくなるなぁとぼーっと思考していた。

 

「はぁ……店番めんどぅい」

 

シャリッとまたりんごを口に含む。空を見上げるアホ面が、その格好と相まっていっそう間抜けに見える。

 

ちなみに、店番をしている理由は浦原に夜一と砕蜂の写真を引き合いに出されたんだとか。その話を後で聞いた阿散井に心配そうな顔をされたが、今日も彼は元気です。

 

「っとぉ、こんな所にいたんすねぇ」

 

「んあ? あぁ浦原さん。現在休憩中ですのでお構いなく」

 

「そうらしいっすね。ならあっしもここで休憩させてもらいます」

 

ごろんと転がり、守の隣に寝転がる浦原。大きなあくびを一つするとりんごを一つ手に取った。守のほうを見て食べていいかのアイサインを送ると、守はどうぞとハンドサインで返す。

 

しかし、おかしい。確か今日は阿散井や茶度の訓練に行くからと店番を変わったんじゃなかったか? と守は店番をする破目になった理由を思い出す。何故今彼がここにいるのかわからなかったが、とりあえず休憩中だしいいやと思考をカットする。女や悪戯が絡まないとまともに思考することもないというのだろうか。何て勿体無い。

 

そんな情けない男のとなりでりんごを堪能する浦原は、あまりの旨さに一口入れるたびに声がこぼれていた。

 

「うは~うまいっすねぇこのりんご」

 

「サンふじですよ。高級品ですからね」

 

「ブッフォッ!?」

 

サンふじと言えば青森りんごの中でも高級品である。どこにそんな金があったのかわからないが、とりあえずあまりの高級りんごに、浦原は口の中身を吹き出しそうになる。勿体無いので死ぬ気で堪えたが、心臓に悪い冗談である。

 

「これどこで手に入れたんすか……」

 

「産地で買ってきました。日帰りで」

 

「なして」

 

「りんごが食べたくなったんです」

 

「えぇ……」

 

あまりの行動力に困惑を隠せない。何だこの「そうだ、京都に行こう」のノリは。体育会系のノリなのか? あっしにはわからないと浦原は内心ぼやいた。安心しろ、体育会系でもこんなノリは中々ない。金持ちでも石油王とかのノリである。完全に想像上の喩えである。

 

「それにしても……快晴の中、何も考えずボーっと空眺めながらりんごを食べる。最高っすね」

 

「同感です。何も考えずってのがいいです。これで雲の上に乗れたら」

 

「流石に雲の上だと凍え死んじまいますけどね~。夢を持つことはいいことっす」

 

太陽が頂上へとつく。真っ直ぐと降ってくる光に、浦原は無意識に手を伸ばした。何かをつかもうと握り締める。何も掴めず自分の手を握ったことで意識がはっきりと戻り、はっと目を一度見開く。

 

「ん? どうしたんです?」

 

「……ははっ、昔のことを無意識に思い出してたようっす。だめっすねぇ。年を取るのは」

 

「そうですか? 俺はいいと思うけどな。浦原さんみたいな年の取り方」

 

「……そう言ってくれたのは守さんの他に一人いましたね」

 

懐かしむように目を細める。横で聞いていた守はそんな浦原の顔を見つめた。いつになく弱々しい彼の言葉に引っかかったのだろう。

 

「どんな人だったんです?」

 

「誠実な方でしたっすねぇ。いつも一所懸命生きていて、それでいて心は自由でした。守さん、貴方のように」

 

懐かしさを噛み締めながら微笑む彼は、もう一個とりんごを口に含んだ。甘みが思い出と絡み合い、美しい過去へと混ざっていく。それが全部本当のことだったのか、記憶違いが起こっているのか……それは、彼以外わからないだろう。

 

「あの人は真っ直ぐ、貴方のように真っ直ぐ世界を見つめていましたよ。もしかすれば守さんはあの人の生まれ変わりかもしれないっすね」

 

「まじか……それはそれで奇妙な奇跡ですね」

 

「はい……まぁ、そんな事ありえないんっすけどね。死んだのなら輪廻転生なんてありえないしあっちゃあいけない。皆地獄へ行くか、天国行くか。人の命は一度だけ、生まれたって奇跡だけで充分なんっすよ」

 

何かを知っているような素振りを見せる彼に、一瞬疑問が口から出そうになる。その疑問を押し戻して口を噤んだ守は再び空へと視線をむけた。

 

眩しく輝く太陽へ彼も手を伸ばす。何も掴めないが、何かを受け取ったような感覚が彼を包み込む。何を受け取ったともわからない。だが確かにその手には暖かさがあった。

 

「そうっすね。奇跡ってのは乱発させるもんじゃない。極稀に起こるから奇跡なんですよね」

 

「はいな。そういうもんっすよ」

 

にししと笑い口元を扇子で隠す浦原と共に笑い出す守。休憩時間いっぱいいっぱいの日向ぼっこは二人の会話を盛り上げた。昔の話、家族の話。ただの会話、何気ない会話。そんな井戸端会議が浦原商店の屋根上で行われていた。

 

 

 

 

「おい……これどういうことだよ」

 

「見たままだ。藍染が研究していたことは、我々破面や崩玉だけではなかったと言うことになる」

 

守が裏原と日向ぼっこをしている頃、ザエルアポロに呼ばれたグリムジョーとノイトラが遺跡と化した研究室へやってきていた。明々とライトが部屋を照らしており、その全貌を露にしていた。

 

「で、俺達だけを呼んだ理由は?」

 

「逆に聞くが、君達以外を選んでよかったかい?」

 

「いーや、良い判断だぜ」

 

首や肩を鳴らしたグリムジョーは目の前のナニカを睨みつける。ノイトラにいたっては今にも物に当たりそうだ。彼らをそれほどまで怒りに染めたものがそこにあったのだ。

 

「まさか……培養は培養でも」

 

「人間の培養なんざやってたなんてな。あの野郎」

 

数多の培養ポッドが部屋を埋め尽くす。その多くが肉体を形成せずに死んでいたり、母体にいる状態で死んでいたりと、失敗作ばかりだったのだろう。ここにある培養ポッド全ての生命補助機能は停止していた。

 

「このポッドは故意に停止しなければ永遠と栄養を送るタイプというのはわかっている。つまり、これらは全て失敗して死んだのだろうな。全く、命をなんだと思っている」

 

「お前に言われたらもうおしまいだろうよ」

 

「何を言うか。昔の僕ならいざ知らず、今の僕なら命を弄ぶなんてことをせずとも充分天才だからね。っと、それよりもだ。僕が見せたかったのはこの中に存在するとある一つのポッドだ」

 

そう言い、ザエルアポロは二人を連れて奥へと進んだ。A―001と書かれたポッドから真っ直ぐ奥へと進んでいく。二人は何があるのかわからないが、とりあえず後を追うことにしたのか、早歩きで追いかける。

 

「しっかし、なんて広さだ」

 

「あぁ、いったい何のためにこんなことしたんだろうか」

 

奥へ奥へと進むに連れて培養ポッドの中身が段々と人の姿を形成した後が残っている。A―15にもなれば人間の姿を完成させている。だがそれでも上半身のみだ。

 

「おいおい、こりゃあすげぇな」

 

「……おいノイトラ、これ見てみろ」

 

グリムジョーが何か見つけたのか、ノイトラに声をかけた。B―015と記載されたポッドを覗き込むと、ノイトラの顔に驚愕した表情が現れた。

 

「な、なんだよこいつぁ」

 

「間違いねぇ……虚だ」

 

人間の姿をしながら肉体の半分が虚になっている。哺乳類に存在しない外骨格が形成されており、今にも動くのではないかと思われるほど、保存状態がいいものがそこにはあったのだ。

 

「人間と虚の複合体。半破面(フュズィオアランカル)と呼ばれるものらしい。虚の穴を埋める研究といったところだ」

 

「なんでわざわざ、この穴がなくなりゃ……」

 

「あぁ、ただの霊となり……尸魂界の魂魄となる」

 

「いったい何考えてやがんだ」

 

3人は藍染の目的がわからなかった。というか、そもそもこの研究がなんに役立つのかわからなかった。

 

そう思っていたのに、グリムジョーは何かに閃いたのだろう。瞳孔が開き、息が荒くなる。汗も流し、眼輪筋が痙攣を起こす。

 

「お、おいグリムジョー。どうしたよ」

 

「……あぁ、ちょっとな」

 

フラフラと危ない足取りでザエルアポロへと近づき、その両肩に手を置く。彼のその状態にザエルアポロは顔色変えることなく見下ろしている。

 

「なぁ、ザエルアポロ。聞きたいことがある」

 

「……言ってみたまえ」

 

「なら聞くぜ。藍染の研究は本当に虚の穴を埋めるって奴なのか?」

 

「間違いない。資料は先ほど見つけた。後で自分の目で確かめてみるといい」

 

両肩に置いた手の力が増す。わなわなと震える腕にザエルアポロは優しく手を置いた。

 

「じゃあ次だ。この実験はいつ終わったんだ」

 

「今からちょうど一年ほど前だな……守が藍染に連れられてやってきたのとほぼ変わらない頃だろう」

 

「……おいグリムジョー、何が言いてぇんだ。ザエルアポロも!」

 

「君も答えはわかってるのだろう。さぁ行くぞ」

 

ザエルアポロは踵を返し、奥へとまた進みだす。グリムジョーもその後を何も喋ることなくついて行く。ただ一人、ノイトラだけが状況について行けなかった。

 

部屋の中央の奥くらいなのだろうか、3人は目的のものを見つけた。見つけてしまったのだ。

 

「これは……」

 

 

東悟守と記録された培養ポッドが、そこにはあった。

 

 




シリアス、である
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