【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第105話 夫婦水入らずの時間

 

 ――期末試験は、〝トーナメント方式〟で行われる。

 

 スポーツの試合なんかでよく見る、所謂勝ち残り式トーナメントだ。

 

 試験で敗北したクラスはその時点で脱落し、逆に勝利したクラスは優勝目指して戦い続けるってやり方。

 

 しかも試験内容は試合毎に異なるらしく、前回のような〝防衛ゲーム(フラッグ・ディフェンス)〟になるとは限らないとか。

 

 なんかその辺はファウスト学園長の気分で決めてるっぽい。

 普通に職権乱用だろ……。

 マジで面倒くせぇ……。

 

 で、そんな期末試験においてBクラス対Fクラスで行われた初戦であったが――Fクラスの完全勝利で終わった。

 

 もう文句のつけようもないレベルでの完封。

 

 だって試合時間というか試験時間が五分もかからなかったし。

 

 そんな試験内容だったために、Bクラスは所持ポイントから99ポイント引かれる結果に。

 

 ……凄いよな、本当に99ポイント引かれることなんてあるんだって思ったよ。

 

 Bクラスには残り1ポイントしか残っていないが、頑張って挽回……できるかはわからんけど。

 

 俺から言えるのは、「せいぜいレティシアを狙った報いだと思え」ってことくらい。

 

 ともかくFクラスはポイントが有り余っている状態。

 その点においてはしばらく枕を高くして寝られるだろうし、次の試合までも時間が空いている。

 そんなこんなで――。

 

「いやー、初戦も無事終わったなー」

 

 スリスリ、スリスリ――。

 

 俺はレティシアと一緒にベッドの上に座り、彼女を背後から抱き締める。

 

 うんうん、レティシアの髪の毛っていい匂いするよな……。

 

 もう一生こうして妻を抱き締めていたい。

 このまま一生を終えたい。

 

 あ、イカン。

 なにもかも面倒になってきた。

 もうレティシア以外なにも考えたくない。

 

 いっそ、この世界が俺とレティシアだけになってしまえばいいのに……。

 俺とレティシアが、この世界唯一の男女になってしまえばいいのに……。

 

 そうだそうだ、レティシアを破滅させようとするこのクソッタレな世界を徹底的に消し炭にして、その後二人でゆっくりと理想郷に再構築を――。

 

「アルバン、夢の世界から戻ってきて」

 

「――ハッ!?」

 

 レティシアに呼び掛けられて、無限の彼方へヒアウィゴーしていた俺の意識がようやく帰還。

 

 レティシアは少し呆れたように微笑し、

 

「今のあなた、まるで〝この世界が俺たち二人だけになればいいのに〟とでも思っている顔をしていたわ」

 

「う……本当にレティシアは、俺がなにを考えてるかズバズバ当ててくるな……」

 

「当然よ。私はあなたの妻なんですもの」

 

 フフッと笑い、細い指先で俺の頬を撫でてくれるレティシア。

 

 可愛い……。

 俺の妻最高かよ……。

 最高だったわ……。

 

「やっぱりキミは最高だなぁ。この世界が本当に俺たちだけになってしまえばいいのに」

 

「それはダメ。私以外にも、あなたには守るべき領地の人々やセーバスがいるでしょう?」

 

「あ、それもそうか。じゃあ今だけは二人きりの怠惰な時間を漫喫しよう! それくらいはいいだろ?」

 

「フフ、そうね。今日くらい、久しぶりにゆったりと過ごしましょうか……。またいつトラブル(・・・・)に巻き込まれるかわからないもの」

 

「――させないよ」

 

 何気なく言ったであろうレティシアの言葉に、俺はハッキリとした口調で答える。

 

「……もうキミを危険な目に合わせたりしない。もし火の粉が降りかかろうとも、俺が全て薙ぎ払う」

 

「アルバン……」

 

「誰にもキミを傷付けさせない。誰にも、だ」

 

 俺はレティシアの細い身体をギュッと抱き締める。

 

 ――マティアスとエイプリルの一件から、俺たちの周囲ではこれといって大きな事件は起きていない。

 

 期末試験でBクラスの阿呆共がレティシアを狙ったりもしたけど、あれは一応試験中の出来事だしな。

 

 だから事件らしい事件ってのは起きていない。

 静かなモンだ。

 

 そう……静か過ぎる。

 

 マティアスの家督相続問題の間、そして期末試験の期間――これまでずっとレティシアのことを狙い続けてきた〝串刺し公(スキュア)〟に、動きはなかった。

 

 それが堪らなく不気味だ。

 

 奴の背後には王家の存在がある。

 この国を統治するヴァルランド王家、その王女の存在が。

 

 一国の王女が、何故レティシアを付け狙うのかは未だにわからない。

 それに表立って王女の権力を振るおうとしない理由も、ずっと不明のままだ。

 

 だが少なくとも、〝串刺し公(スキュア)〟を一度叩きのめしたくらいで諦めるとは到底思えない。

 

 ……王女は、必ずまたレティシアを狙ってくる。

 

 これまでの報いを受けさせるためにも、できることなら俺の方から出向いて叩き斬ってやりたいくらいなんだがな。

 

 まあでも相手が王家となると色々と面倒だし、なによりレティシアに「絶対にダメ」って言われるのが明白だし。

 

 待つしかないってのは歯痒くはあるが――俺にとっての結論は変わらない。

 

 相手が誰だろうと、一切容赦しない。

 王家だろうが王女だろうが、レティシアを狙う奴は全員叩き潰す。

 

 俺とレティシアを引き裂こうとするなら地獄に落ちると……何度でも思い知らせてやる。

 

 そんなことを内心で思っていると、

 

「アルバン……怖い顔をしているわ」

 

 レティシアが少し悲しそうな顔をして、俺の頬に触れてくる。

 

「ん? そんなに怖い顔してたか?」

 

「ええ……。今は二人きりで怠惰に過ごすのでしょう? なら、他のことを考えるのはやめましょう」

 

 そう言って彼女は僅かに背中を倒し、身体を俺に預けてくる。

 

 ……気を遣わせちゃったかな?

 レティシアは俺が考えてること大体全部わかるし。

 

 そうだな……どうせアレコレ考えたって仕方ないんだ。

 

 今は愛する妻とのひと時を、怠惰に楽しむとしよう――。

 

 

 

 ▲ ▲ ▲

 

 

 

 ――翌日、明朝。

 まだ朝日が昇って間もない頃合い。

 

 俺は剣を携え、一人で学園の校庭へと向かっていた。

 

「ふぁーあ……。剣の鋭さは日々の成果、(けん)(じつ)とは堅実(けんじつ)な鍛錬なり……っと」

 

 あくびをしつつウーンと背伸びをし、セーバスに教えられた言葉を呟く。

 

 俺は日課として、一日の内に必ず剣の稽古の時間を設けている。

 最近はFクラスのメンバーが鍛錬に積極的なので、皆と一緒に放課後に行うことが多い。

 

 だがたまに、こうして一人で稽古をしたくなる時があるのだ。

 

 俺は基本的に四六時中レティシアと一緒にいられれば幸せだが、剣の稽古の時に限りちょっと違うかもしれない。

 

 なんというか、一人で剣を握っていると集中できるんだよな。

 

 で、今日は夜明け前に目が覚めてしまったので、レティシアを起こさないようにしつつ稽古に出向いたワケで。

 

「オードラン領にいる頃は、よく明け方の稽古をやってたが……やっぱり朝はいい」

 

 まだ気温が低く、息が白く色づく。

 身体を動かすにはうってつけの温度だ。

 

 なんてことを思いつつ、校庭の中心へと向かっていたのだが――。

 

「……あれ?」

 

 そこには人影が、先客の姿があった。

 

「フッ……ハァッ……!」

 

 ――レオニールだ。

 僅かに汗を流しながら、一心不乱に剣を振るっている。

 

 どうやら俺よりも先に来て、稽古を始めていたらしい。

 

「ようレオ、精が出るな」

 

「! ああ、オードラン男爵。あなたも剣の稽古に?」

 

 俺が話しかけると、彼は剣を止めていつも通りの笑顔を向けてくる。

 

「殊勝な奴め。俺はお前に、あんまり強くなり過ぎてほしくないんだがな」

 

「アハハ、そうはいかないよ。俺の目標はあなたに追い付くことなんだから」

 

 何気ない会話を交わす俺たち二人。

 

 ……レオニールは、もうずっと剣の稽古に励み続けている。

 それこそ、なにかに憑りつかれたみたいに。

 

 以前俺と刃を交わらせた時と比べても、何段か腕を上げている印象がある。

 

 やだなぁ、困るんだよなぁ。

 お前って一応主人公だしさぁ。

 強くなり過ぎて、いきなり俺を倒して破滅させにくるとかマジ勘弁。

 

 それに元々強いんだし、レベルアップはほどほどに――。

 

 俺が内心でため息交じりにそう思っていると、

 

「そうだ! せっかく同じ時間に巡り合えたんだし、俺の剣がどれくらい成長したか見てくれないか?」

 

「え?」

 

「久しぶりに――手合わせ(・・・・)をお願いしたいんだ、オードラン男爵」

 

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