【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第111話 牢屋の中の悪役貴族

 

「お、お願い……皆落ち着いて! ここで争ってはダメ……!」

 

 悲痛に満ちた声で、レティシアは叫ぶ。

 

 これまで聞いてこともないほど焦燥に満ちたその一声は、Fクラス全員の動きを止めるには十分なモノだった。

 

「レティシア……」

 

「ここで争えば、それこそ取り返しがつかなくなるわ……! だから武器を収めて……お願いだからっ……!」

 

「「「……」」」

 

 あまりにも必死なレティシアの姿を見て、その場にいた全員の溜飲が下がる。

 

 彼女は大きく息を吸って深呼吸し、自らを落ち着かせると、

 

「……アルバン」

 

 俺の目の前まで歩いて来る。

 そして、

 

「ここは一旦、彼らに従いましょう……。それ以外、最善の手はないわ……」

 

「! ま、待ってくれよレティシア! 俺は――!」

 

「わかってる」

 

 ふわり、とレティシアは俺を抱き締めてくれる。

 

 彼女のドクンドクンという未だ落ち着きを見せない心音が、俺に伝わってくる。

 

 同時に、俺を不安にさせまいと必死に手の震えを抑えているのが、俺にはわかった。

 

「全部わかってるわ……。でもここで暴れたら、それこそ相手(・・)の思う壺よ。今は耐えるの」

 

「レティシア……」

 

「必ず……必ず私が、なんとかしてみせる。あなたの無実を証明して、あなたを救い出してみせるわ。だから私を信じて――少しだけ、待っていて頂戴」

 

「……」

 

 俺は――剣を鞘に納める。

 そして数秒ほど、愛する妻をぎゅっと抱き締めた。

 

「………………わかった。レティシアがそう言うなら、信じるよ」

 

 俺は、レティシアが好きだ。

 レティシアを心から信じている。

 

 そんなレティシアが信じて(・・・)と言うのならば――なにも言わず、妻を信じよう。

 

 しばしの、ほんの短い別れの抱擁。

 それを終えてレティシアから手を放すと、

 

「ホラ、俺を連れていくんだろ」

 

 俺はホラントの近くへ行き、両腕を差し出す。

 そして手枷を嵌められ、五人の〝王家特別親衛隊〟と共に教室を後にするのだった。

 

 

 

 ▲ ▲ ▲

 

 

 

「ここが貴殿の収容所だ。入れ」

 

 ホラントたちに連れられ、王都の外れにある監獄までやって来た俺。

 

 監獄は軽犯罪を犯した者から重犯罪を犯した者まで様々な犯罪者が拘留されており、無数の牢屋がひしめき合っている。

 

 基本的にはプライベートなど皆無で、壁と鉄格子で区切られただけの場所がほとんど。

 

 だが俺はそういう犯罪者たちが押し込められた場所とは別区画にある、特に厳重な鉄格子が備えられた個室牢屋まで案内された。

 

 ……雰囲気からして、特に罪の重い者――所謂〝政治犯〟を収容しておく類の場所だろう。

 

 牢屋全体には魔法を封印するための魔法陣が描かれており、外と繋がる小窓などは皆無で完全に外界と遮断されている。

 

 絶対に逃がさないぞ、っていう固い意思を感じるよ。

 

 まあぶっちゃけ、プライベートが守られるから俺としてはありがたいけど。

 

 ――手枷を付けられたままの俺が牢屋の中へ入ると、ガチャリと鍵が閉められる。

 

「裁判の日程は追って報せる。それまで大人しくしていることだ」

 

「へいへい。ところでこの手枷、外してくれねーの?」

 

「ダメだ。貴殿の両腕が自由になっただけで、看守が何人犠牲になるかわからんからな」

 

 そんなー、俺別に暴れないよ?

 レティシアに「待ってて」って言われたし。

 

 だからそう警戒しないでほしいなぁ。

 

 ……それに、やろうとさえ思えば手枷を付けられたままこの鉄格子をぶっ壊して、看守を皆殺しにするくらいできると思うしさ。

 

 でもやらないけど。

 面倒くさいし、レティシアに怒られるから。

 

「ま、別にいいや。俺はその裁判とやらが始まるまで、ぐーたらしてていいんだな?」

 

「あ、ああ。それはそうだが……」

 

「じゃ、飯の時間になったら起こしてくれ」

 

 俺はなんとも質素なベッドの上に身体を放り投げ、ごろんと横になる。

 

 ん~、やっぱ寝心地はイマイチ。

 でも久しぶりに怠惰に過ごせそうだし、いっか。

 

「……」

 

 ホラントはそんな俺をなんとも複雑そうな表情で見つめ、

 

「貴殿……少しは恐怖や緊張といったモノを感じないのか?」

 

「ん~?」

 

「この特別牢は特に重い罪を犯した囚人を収容しておく場所で、ここに入った者は例外なく死罪となっている。貴殿もそうなるかもしれんのだぞ」

 

「ならないよ」

 

 即座に、俺はそう答えてやる。

 

「レティシアが言ってただろ? 〝あなたの無実を証明して、救い出してみせる〟って。だったら俺はそれを信じて、待つだけだ」

 

「……仲間や身内を信じたまま刑に処されていった者たちを、これまで何度か見てきた。しかし一人の例外もなく、最期は同じだったが」

 

「じゃあ、俺が最初の例外だな」

 

 俺はニヤッという不敵な笑みをホラントへ向け、

 

「なんたって俺とレティシアは――〝悪と悪との最凶夫婦〟だからな」

 

 そう言ってやった。

 

 あのレティシアが「信じて」って言ったんだ。

 だったら俺は彼女を信じる。

 信じて、待つ。

 それだけだ。

 

「…………そうか」

 

 ホラントはクルリと踵を返し、

 

「まったく、〝あの先輩にしてこの教え子あり〟だな……」

 

「あ? なんだって?」

 

「なんでもない。では、その〝例外〟が真実になるか見定めさせてもらうとしよう」

 

 そう言って、部下と共に鉄格子の前から去っていく。

 

 ったく、〝王家特別親衛隊〟だかなんだか知らんが格好つけやがって。

 さっさと失せろ失せろー。

 

 などと内心で思いつつ、ベッドの上で脱力して昼寝の体勢に入ろうとしたのだが――。

 

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