【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第118話 国王一家

 

「ありえない……ありえないありえない、ありえない……ッ!」

 

 豪勢な刺繍がほどこされた赤いカーペットの上を、かなりの速足で歩く一人の女性――。

 

 エルザ・ヴァルランド第三王女である。

 彼女は激しい苛立ちを抑え切れない様子で、とある場所へと向かっていた。

 

「――お父様ッ!!! お話がありますわ!」

 

 そんな怒声交じりの大声と共に、エルザ第三王女は扉のない開けた空間へと足を踏み込んだ。

 

 その空間の最奥には二つの席が設置され、年老いた〝(キング)〟と〝王妃(クイーン)〟が座っている。

 

 玉座の間――ここはそう呼ばれる場所だ。

 

 しかしそこには王と王妃、そして彼らを警護する近衛兵以外に、もう一人別の女性――いや男性の姿があった。

 

「ハロー、エルザ❤ ご機嫌如何?」

 

「アルベール……! アンタの仕業ね!」

 

 美しく妖しい女性のような男性、アルベール・ヴァルランド第二王子。

 

 一足先に玉座の間を訪れていた彼は、如何にも惚けたように子首を傾げる。

 

「ん~? なんのことかしらぁん?」

 

「しらばっくれないで! アルバン・オードランを仮釈放したですって!? アイツは王家への叛逆を企んだのよ!?」

 

「……それ、アンタが彼に擦り付けた冤罪でしょ? アルバンちゃんってば可哀想だわ~、無実の罪で豚箱にぶち込まれるなんて~」

 

「このっ……! お父様もなにか言ってやってください!」

 

「…………エルザよ」

 

 〝(キング)〟が、重たい口を開く。

 

 ヴァルランド王家現国王――ディートフリート・ヴァルランド。

 齢は既に老齢の域に達しており、骸骨のように痩せ細った顔には無数のシワが刻まれている。

 

 一見すると威厳に満ち溢れ、老成持重(ろうせいじちょう)な雰囲気を醸し出しているが――その目は覇気がなく、疲れ切っているようだった。

 

「エルザよ、我が娘よ……。オードラン男爵家の当主が叛逆を企てたというのは、本当なのか……?」

 

「本当です! 私を信じてください!」

 

「ならば……何故、先にワシへ相談を入れなかった……?」

 

「――――ッ!」

 

 ディートフリートは深いため息を漏らし、

 

「オードラン男爵家には、バロウ公爵家の次女が嫁いでおる……。お前のやろうとしたことは、王家とバロウ公爵家の間に火種を落とすようなものだ……」

 

「バ、バロウ家など、たかが一介の公爵家ではありませんか! 国王たるお父様が、なにをそんな臆病なことを……!」

 

「はぁ~あ……ホンっっっトおバカね、アンタ」

 

 呆れ果てたような声で、アルベールが会話に割って入る。

 彼は言葉を続け、

 

「バロウ公爵家当主、ウィレーム・バロウがどれほど重要なポストにいるか知らないとは言わせないわよ」

 

「うっ……」

 

「ヴァルランド王国議会・貴族院の総務にして、国家財政を管理する財務卿筆頭。加えて最近では王国騎士団やウルフ侯爵家、他にも大勢の貴族たちとも深いパイプを築いているようだし、そのコネクションから次期首相に最も近いとされる英傑……。もし敵に回そうものなら、国が真っ二つに割れかねないわね~」

 

「然り……ワシの役目は、王家が戦火に飲まれるのを防ぐこと……」

 

 ディートフリートはアルベールの言葉に、深々と賛同する。

 

「……ウィレーム・バロウ公爵とワシが会談を終えるまで、オードラン男爵家当主の裁判は無期延期とする。よいな……」

 

「お父様! オードラン男爵とアルベールは手を組んで――!」

 

「そこまでになさい、エルザ」

 

 エルザの言葉を遮る声。

 ディートフリート国王の妻にして、ヴァルランド王国王妃――メルセデス・ヴァルランドだ。

 

 彼女もまた高齢な老女であるが、ディートフリートよりは幾分か若い。

 

 エルザとアルベールの生みの親である彼女は実の娘を見つめ、

 

「国王が決定したことですよ。幾らあなたと言えど、反論は許しません。いいですね」

 

「ッ……!!!」

 

 強い口調でたしなめられ、ギリッと歯軋りを鳴らすエルザ。

 

 彼女は爪が手の平に食い込むほどの力で両手の拳を握り締め、

 

「もう……もう時間がない(・・・・・)っていうのに……!」

 

 他の誰にも聞こえないほど小さな声で、悔しそうに呟いた。

 

「……話は終わりだ。二人とも下がれ……」

 

 父親であるディートフリートに命じられると、エルザは苛立ちを隠そうともせずその場から去って行く。

 

 アルベールも数歩ほど歩き、出口の方向へと向かうが――。

 

「……そういえばお父様、以前もお話ししたお兄様の件ですけれど――」

 

「……何度も言わせるな。アレ(・・)はダメだ……」

 

 再び深いため息を吐くディートフリート。

 そのため息には、かなり露骨な失望感が入り混じっている。

 

「ルイスは病弱過ぎる……。確かに頭はいいが、あの身体ではあと何年生きられるやら……」

 

「……」

 

「ルイスさえ……長男(アレ)さえ健常な身体で生まれてくれれば、ワシがこうも心身を擦り減らすことはなかったものを……」

 

 ディートフリートは肩を落とし、ブツブツと独り言のように言う。

 しかしすぐにアルベール第二王子の方へ視線を戻し、

 

「……ともかく、ルイスを(まつりごと)に関わらせることは認めん……。これ以上、この話を蒸し返すな……」

 

「…………は~い。かしこまりましたわ、お父様」

 

 アルベールは抑揚のない声で返事をすると、父親の前から去って行った。

 

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