【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第142話 本当の姿

 

《レティシア・バロウ(オードラン)視点(Side)

 

 道化師の仮面がカランッと地面に落ち、その素顔が露わになる。

 

 そして私が見たモノは――レオニールに似た顔を持つ男の、歪な笑顔だった。

 

「レティシア・バロウ……本当にあなたは素晴らしいですよ。その忌々しさは、心から賞賛に値する」

 

 レオニールによく似た、けれど彼とは違う、悪意のこもった鋭い目つき。

 

 なにより明確にレオニールと異なるのは、顔に大きな傷跡があること。

 

 斜め一直線に入れられた痛々しい切創。

 アレは……たぶん、アルバンによって付けられたモノだ。

 

「……あなた、〝串刺し公(スキュア)〟ね? その声、それにその仮面……私がライモンドに捕まった時、彼と一緒にいたのを忘れていないわよ」

 

「おや、これはこれは。小生のことなど、覚えていて下さらなくても結構でしたのに」

 

 ククク、と嫌味を混じらせて笑う〝串刺し公(スキュア)〟。

 

 だが――すぐに、フッと彼の口元から笑みは消え失せる。

 

「まったく……驚きですよ。今回こそ絶対にあなたを破滅させられると思っていたのに」

 

 そう言いながら、〝串刺し公(スキュア)〟はゆっくりと私たちへと歩み寄ってくる。

 

 本当にゆっくりと、一歩一歩の足音を耳に残すかのように。

 

「アルバン・オードランはいない、レオニール・ハイラントもいない、イヴァン・スコティッシュもマティアス・ウルフもいない……。これほど盤面の駒が欠けている状態なのに、あなたはこの逆境を跳ね除けて見せた」

 

「……」

 

「あなたのしぶとさ(・・・・)は、敵ながら尊敬できますよ。これは皮肉ではなく、小生の心からの本心です」

 

 そう語りながら彼は歩を進め――私やローエンの間合いに入る少し手前で、立ち止まる。

 

「……あのお方の望み通り、あなたを破滅(・・)させることはもはや不可能となった。ですが、あなたの命運はここまでだ」

 

 〝串刺し公(スキュア)〟は握っていた剣を地面に突き刺すと、おもむろに柄から手を放す。

 

 そして、それに代わるように懐から一枚のトランプを取り出した。

 

「レティシア・バロウ――そのお命、この〝串刺し公(スキュア)〟が貰い受ける」

 

 鋭い目つきで私を睨み、〝(ジョーカー)〟のトランプを突き付けてくる〝串刺し公(スキュア)〟。

 

 そんな彼を見て、ローエンが私を庇うように前へと歩み出る。

 

「フン、そう易々とやらせると思うか? レティシア嬢、ここは俺に任せて――」

 

「待って」

 

 戦斧を構えるローエンだったが――そんな彼を、私は呼び止めた。

 

「ローエン、お願い。もう少しだけ彼と話をさせて」

 

「な、なに……? おい、レティシア嬢――!」

 

 驚くローエンを尻目に、私はさらに前へ出る。

 

 そして〝串刺し公(スキュア)〟の深い傷跡が入った顔を見つめた。

 

「……〝串刺し公(スキュア)〟、あなたがこれまで私やアルバンに対してやってきたことは、絶対に許せない。あなたが言う〝あのお方〟のこともね」

 

「……」

 

「でも、どうしても聞いておきたいことがあるの。これはあなた個人に対する質問」

 

「小生個人……に対してですと?」

 

「ええ、そう。……あなたはどうして、そんなにも第三王女に忠誠を誓っているの? 第三王女は、何故あなたを重用しているの? そして――あなたは一体、何者(・・)なの?」

 

 私は、これまでずっと疑問に思っていたことをぶつけた。

 

 それと同時に、〝串刺し公(スキュア)〟の目つきが一層鋭くなる。

 

 ――私はお父様や姉さん、それにクラオン閣下にお願いし、彼の正体を調査してもらった。

 

 本名は? 階級は? 出身は?

 正体は一体どこの誰で、何故第三王女の指示で動いているのか?

 

 そして何故、第三王女は〝串刺し公(スキュア)〟を重臣として扱っているのか?

 

 色々なことを念入りに調査してもらったけれど……結局、その正体はほとんどわからなかった。

 

 そう――わからなかった(・・・・・・・)のだ。

 

 これは驚くべきこと。

 だってもし貴族階級の出身だったり騎士階級の出身だったりある程度の身分があるなら、調べれば必ずと言っていいほど身元は特定できる。

 

 仮になんらかの理由で存在が抹消された者だとしても、お父様たちの情報網にまったく引っかからないというのは考え難い。

 

 なのに、その身元が特定できないという。

 

 ならば平民か、あるいは奴隷出身か――?

 

 他にも考え得る可能性は幾つかありはするが……とにかくその正体を始め、第三王女が彼を重用する理由がわからなかったのだ。

 

 逆を言えば、少なくとも第三王女は階級を理由に〝串刺し公(スキュア)〟を傍に置いているワケではない、ということは想像が付くけれど……。

 

 私は話を続け、

 

「あなたの正体はほとんどわからなかったけれど……たった一つだけ判明したことがある。それは、あなたが〝ロイド〟という偽名を使って、Aクラスの〝(キング)〟になっているというということ」

 

 看破するように言う。

 するとローエンは続けて驚き、

 

「なに……? コイツがロイドだと? だ、だが確かロイドの髪色(・・)は――」

 

「……いい加減、レオニールの真似はおやめなさい。あなたの本当の姿を、私に見せて」

 

 私は努めて落ち着いた口調で、〝串刺し公(スキュア)〟に向かって言う。

 

 すると彼は数秒間の沈黙の後、

 

「…………一つ、先に質問にお答えしておきましょう」

 

 顔を俯かせて、答える。

 

「あのお方が、小生を駒としてお傍に置いて下さった理由……それはこの顔(・・・)が似ていたからなのですよ。――レオニール・ハイラントに」

 

 そう言って、〝串刺し公(スキュア)〟は自らの金髪を手で掴む。

 

 そしてグッと頭から引き剝がすと――金髪のカツラ(ウィッグ)に隠れていた〝長い黒髪〟が、露わとなった。

 

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