【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第152話 蟻が何匹たかろうが

 

 ……あぁ、やっと見つけた(・・・・)

 

 こんなところにいやがったか。

 散々捜させてくれやがって。

 

 ――エルザ・ヴァルランド。

 

 愛する妻(レティシア)をこれまで何度も付け狙い、破滅させようとした、我が怨敵。

 

 ずっと、ずっとずっと、ずぅーっと、その首を胴から斬り離して、地面の上で踏み潰す瞬間を夢見てきたよ。

 

 だが――夢に見るだけなのは、今日で終わりだ。

 

 そんな、お前にとっての悪夢(・・)を……現実のモノにしてやる。

 

「ア……アルバン・オードラン……ッ!」

 

 俺の顔を見たエルザは両目を見開き、これでもかというほどに表情を引き攣らせる。

 

 周囲にいる騎士たちも同様に、僅かに身体を逸らして後退りする。

 

 おいおい、失礼な奴らだなぁ……。

 まるで怪物でも見るような目で、人様のことを見やがってよ……。

 

 まあでも……今だけは少し、その視線が心地いいかもしれないな。

 

 しばし驚きつつも茫然とするエルザだったが、

 

「……フ、フフフ……ッ」

 

 徐々に口の両端を吊り上げていき、小さく笑い声を上げる。

 

「ああ、そうよね。来る(・・)と思っていたわ。アンタは本当に、私の邪魔をすることしかしないんだから」

 

「――ふざけんな」

 

 ベシャッと血だまりを踏み付け、俺はエルザの方へと近付いていく。

 

邪魔(・・)なのはお前の方だろうが。いつもいつも、いつもいつもいつもいつもいつもいつも、俺とレティシアの幸せを踏みにじろうとしやがって……」

 

 俺はレティシアと二人で、静かに幸せに過ごせればそれでよかった。

 俺の隣でレティシアが笑ってくれれば、それでよかった。

 

 なのに――コイツはいつも、それを邪魔してきた。

 

 お前は何度レティシアを苦しませた?

 お前は何度レティシアを悲しませた?

 

 お前は……一体何度、俺の愛する妻を破滅させようとしやがった?

 

 ――邪魔(・・)だ。

 お前は生きていること自体、邪魔(・・)だ。

 

「お前が生きてると、レティシアは安心して眠れないんだ。お前が生きてると、レティシアは心の底から笑えないんだ」

 

 さらに一歩、足を踏み出す。

 ベシャッという滑りのある音を響かせて。

 

「だからさぁ……死んでくれよ。レティシアの幸せのために、お前は――消えなくちゃならないんだよ」

 

「うるさいッッッ!!!」

 

 俺の言葉を掻き消すように、エルザは叫ぶ。

 

「〝レティシアの幸せのため〟……? アンタのその気色悪い考えのせいで、私がどれだけ不幸になったと思ってんのッ!?」

 

「あぁ……?」

 

「死ぬべきなのはアンタの方よ! ――騎士たち!」

 

「ハ……ハッ!」

 

「この逆賊を殺しなさい! 今すぐ!」

 

 周囲にいた蟻共に命令するエルザ。

 

 同時に、ワラワラと虫けらが俺を取り囲んでくる。

 

 えっと、全部で何匹だ?

 ひぃ、ふぅ、みぃ……ああ、もういいや。

 

 蟻なんて、踏み潰せば何匹いようと一緒だもんな。

 

「「「ハアァ――ッ!」」」

 

 蟻が数匹束になって、俺に斬りかかってくる。

 

 ――まず、一振り。

 俺の振るった一振りで、まず三匹の蟻が薙ぎ払われて駆除される。

 

 続いて二振り。

 今度は、二匹の蟻の頭が床へと落ちた。

 

 さらに三振り目――を振るうより先に、背後から一匹の蟻が噛み付こうとしてくる。

 

 なのでクルリと剣を逆手持ちにし、背後に付き込む。

 刺さった感触が手に伝わった後はすぐに引き抜いて、振り向き様に縦一閃に剣を振り下ろした。

 

 蟻の身体が、まるで花が咲いたみたいに綺麗に左右にわかれて、倒れる。

 

 ――ここまで、たぶん三秒(・・)ほどだろうか。

 リハビリはもう十分だな。

 

「ヒ……ヒイィ……ッ!」

 

 残りの蟻共は剣を握る手をガタガタと震わせたまま、襲ってこようとしない。

 

 むしろ逃げるようにジリジリと間合いを離していく。

 

「な……なにしてるの! 早く殺しなさい!」

 

 見かねたエルザは発破をかけるように叫ぶが、

 

「い、いいい、嫌だ……死にたくない……!」

 

「バ、化物(バケモノ)だ……正真正銘の化物(バケモノ)だぁ……!」

 

「に、逃げろおおおぉぉぉッ!」

 

 蟻共は剣を捨て、我先にと逃げ出していく。

 

 へぇ、蟻にしちゃ賢明な判断だな。

 兵隊蟻が女王蟻を見捨てちゃ、おしまいだけどさ。

 

 もっとも、女王蟻への忠誠なんぞハナからなかったのかもしれんが。

 

「……残るはお前だけ――……ん?」

 

 てっきり、この場にはエルザと俺しか残らなかったと思ったが――ふと、奴の横に佇むように、一匹だけ蟻が残っていることに気が付く。

 

 甲冑と兜で全身を覆い隠した蟻――……いや、騎士(・・)が。

 

 コイツは、違う。

 〝蟻〟じゃない。

 

 今逃げ出していった虫けら共とは、全く覇気が違う。

 

 

 

「……流石だね、オードラン男爵」

 

 

 

 一言、その騎士が発する。

 

 その言葉を――その聞き馴染みのある声(・・・・・・・・・)を聞いた瞬間、俺は自分の頭の中がグチャッと揺さぶられる感覚を覚えた。

 

「腕に覚えのある騎士たちを、まるで虫けらみたいに斬り捨てるその腕前……。本当に尊敬する」

 

「………………おい、その声……お前まさか……」

 

「この瞬間を待っていたよ。キミと一対一で決着をつけられる、今この時を」

 

 騎士は頭を覆う兜に手をかけ、おもむろに兜を脱ぎ捨てる。

 

 そして――兜の中に隠されていた顔が、露わとなった。

 

 短い金髪と精悍な顔つき。

 一見すると優男のようなのに、その瞳の奥には言い知れぬ闘志が宿る。

 

 そんな、自分を〝騎士(ナイト)〟と呼んで憚らなかった、俺と互角の剣の腕を持つ男――。

 

 ――レオニール・ハイラントの顔が。

 

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