【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第153話 本当の物語①

 

「レオニール……ッ!」

 

 ギリッという歯軋りと共に、俺は奴の名を口にする。

 

 ――何故、お前がここにいる?

 ――何故、お前はそんな格好をしている?

 ――何故……お前が、エルザ(そいつ)の傍に立っている?

 

 溢れ出る疑問の数々が困惑となって頭の中をかき乱し、顔を引き攣らせる。

 

「ア……アハハハハ! 驚いたみたいね!」

 

 今の今まで苦虫を嚙み潰したような顔をしていたエルザが、急に得意気な笑い声を上げる。

 

 そしてガバッとレオニールの腕に抱き着き、

 

「レオは私を選んでくれたのよ! 私のパートナーになってくれたの!」

 

「パートナー……だと……?」

 

「そうよ! 私の、私だけの〝騎士(ナイト)〟……! 私だけの〝主人公〟になったのよ!」

 

 ――〝主人公〟。

 

 奴の口からその響きを聞いた瞬間――俺は吃驚する。

 

「エルザ・ヴァルランド……お前は……」

 

「いい? この世界はね、所詮〝ファンタジー小説〟の世界なのよ! 主人公はレオニール・ハイラントで、ヒロインはエルザ・ヴァルランド! この世界は本来、私たち(・・・)のためにあるべきモノだった!!!」

 

 エルザは叫ぶように語る。

 溜まりに溜まった鬱憤を、一気にぶちまけるかの如く。

 

「それなのに……アンタとレティシア・バロウのせいで、なにもかも滅茶苦茶よ!」

 

「俺と……レティシアのせいだと……?」

 

「そうよ! レティシア・バロウは嫉妬に駆られて、期末試験でレオを殺そうとしてくる……でもそんなレオを私が助けて、そこでようやく二人は結ばれる――そういう物語(ストーリー)だったのに……!」

 

 エルザの怒りに満ちた言葉を受け――失っていたはずの記憶の断片が、徐々に蘇っていく。

 

 そうだ……コイツは――〝エルザ・ヴァルランド〟は、ファンタジー小説の正ヒロインだった。

 

 主人公(レオニール)序盤の悪役(アルバン・オードラン)を倒したイベントの後、お忍びで城下町に出ていたエルザはレオニールと遭遇。

 

 その出会いを切っ掛けに二人は親しくなっていくが……そんな主人公たちに、レティシア・バロウは激しく嫉妬。

 

 主人公であるレオニールに対して嫌がらせを繰り返し、最後は期末試験中に抹殺しようとしてくるのである。

 

 ……〝最低最悪の男爵〟に嫁がされ、さらにはその夫すらも主人公(レオニール)に破滅させられるという、あらゆる意味で〝幸せ〟を手にできなかった憐れな悪役令嬢。

 

 ファンタジー小説のレティシアは、憎しみと嫉妬と孤独の末に気が触れてしまった、正真正銘の悪女だったのだ。

 

 それが〝本当のレティシア・バロウ〟。

 

 結局、彼女は主人公(レオニール)の抹殺に失敗。

 むしろ主人公(レオニール)ヒロイン(エルザ)の関係を明確な恋仲へと発展させてしまい、噛ませ犬となって敗れた彼女は、廃人のようになって学園を去る――それがファンタジー小説の物語(ストーリー)だった。

 

 だが――。

 

「元はと言えば……アンタがレティシア・バロウを愛したりしなければ……!」

 

 忌々しそうに歯軋りを鳴らすエルザ。

 

 そう――ファンタジー小説の展開とは異なり、俺がレティシアを溺愛したことで、物語(ストーリー)の展開が大幅に変わってしまった。

 

 さらにはレオニールが俺に敗北し、あまつさえ「オードラン男爵の〝騎士(ナイト)〟になる」と言い出したことで、根底から物語(ストーリー)が壊されることに。

 

 

〝あの女が破滅しないと、私はこの世界で永遠に幸せになれないなんて……〟

 

 

 あぁ……あの時に言っていた言葉の意味が、ようやく理解できたよ。

 

 レティシア・バロウの破滅は、主人公(レオニール)ヒロイン(エルザ)が幸せな恋仲となる明確な切っ掛け。

 

 逆を言えば、レティシアが破滅しないと主人公(レオニール)ヒロイン(エルザ)は恋仲へと発展しない。

 

 ……レティシアが破滅することは、決して外すことができない重要な通過点(ファクター)

 

 少なくともエルザはそう思っているのだろう。

 だからどんな手段を使ってでも破滅させようとした……か。

 

「この世界で目が覚めた時、〝ああ、私は幸せになれるんだ〟って喜んだのに……! どうして!? なんで邪魔すんのよ!?」

 

 エルザは目を血走らせたまま言葉を続け、

 

「アンタもレティシア・バロウも、どうせ破滅する運命なんだから――私たちの幸せのために、さっさと破滅しなさいよ!!!」

 

 震える指先でこちらを指差し、激しい憎悪を向けてくる。

 

 それに対し――。

 

「――ふざけんな」

 

 ポツリと、俺は小さな声で答えた。

 

「じゃあなんだ? 今更、レティシアを破滅させれば全て元通りに――物語(ストーリー)が本来の(ルート)に戻るとでも思ってんのか?」

 

「……!」

 

「お前が本来のヒロインだからなんだ? レオニールが本来の主人公だからなんだ? お前らの幸せなんかのために、レティシアは破滅しなきゃならないのか? レティシアが破滅すれば、全て解決だとでも思ってのか?」

 

 ――〝(ヒロイン)の幸せ〟のため?

 

 そんなことのために、レティシアは破滅しなきゃいけないのか?

 

 そんなことのために――愛しい妻は、涙を流さなきゃならないのか?

 

 ――ふざけんな。

 

 俺はレティシアを守ってみせる。

 レティシアの笑顔を、妻との日常を守ってみせる。

 

 運命だろうがなんだろうが、俺たちの幸せを壊そうとするなら叩き潰してやる。

 世界がレティシアを認めないなら……世界の方を壊し尽くしてやる。

 

 例え――その果てにこの身が焼け落ち、灰燼に帰そうとも。

 

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