【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第154話 本当の物語②

 

「…………レオニール」

 

 俺はゆっくりと眼球を動かし、視線の先をレオニールへと変える。

 

「お前もどういうつもりだ? 何故、今更になってエルザに下った?」

 

「……」

 

「答えろよ――〝主人公〟」

 

 問い詰めるように尋ねると――しばしの沈黙の後、レオニールは口を開いた。

 

「……彼女は、オレの知らないオレ(レオニール)の話をしてくれた。それと、オレしか知らないはずのオレ(レオニール)の話も知っていた。この世界がファンタジー小説の世界だとか、オレがその主人公だとか、最初はとても信じられなかったけど……今は信じられる」

 

 ポツリポツリと、レオニールは小さな声で語る。

 どこかやるせないような表情をして。

 

「けど、正直そんなのはどうでもいいんだ。この世界のこととか、自分が主人公だとか、そんなことには興味ない。オレにとって大事なことは、何一つ変わっていない」

 

 そう言って――レオニールは、剣の柄を両手で掴む。

 

「オードラン男爵……あなたは言ったよね。オレには〝負けられない理由〟がない。オレがあなたの間にある、紙一重の差はそれ(・・)だって」

 

「……言ったな、確かに」

 

「オレは――あなたに勝ちたい。あなたを超えたい。だから、〝負けられない理由〟を手に入れたんだ」

 

「それが、エルザ・ヴァルランドだってのか?」

 

「ああ。オレを愛してくれる、守るべき大切な女性(ヒト)さ」

 

 奴は両手で握った剣をゆっくりと動かし、身体の正面で構え――その切っ先を、俺へと向けた。

 

「さあ……剣を構えるんだ、アルバン・オードラン男爵。守るべきモノを得たオレの剣がどう変わったか――とくと味わってくれ!」

 

「……バカ野郎がよ」

 

 ……そんな奴を愛してまで、お前は俺に勝ちたいっていうのか。

 

 わかんねぇよ、レオニール。

 俺にはその気持ちが。

 

 愛する女性(ヒト)のために剣を振るうんじゃなくて、剣のために愛する女性(ヒト)を作るなんざ……。

 

 違う。俺が言いたかったのは、そういうことじゃない。

 お前のその感覚は、俺には理解できない。

 

 だが――。

 

「……いいだろう、試してやる(・・・・・)

 

 ――脱力。

 両腕をだらんと下げた、無形の構え。

 

 俺は右手に握る剣の、その切っ先に神経を集中する。

 

 ……もはや、口先でなにを言おうが無駄だろう。

 なら試してやろうじゃないか。

 

 お前の〝愛〟が本物かどうか。

 本当に俺との〝紙一重の差〟が埋まったのかどうか。

 

 俺とお前、言葉で語り合うより――剣で語り合った方が、ハッキリと伝わるもんなぁ。

 

「来いよ、レオニール・ハイラント。これが主人公と悪役の――俺とお前の、最後の手合わせだ」

 

「ああ……この瞬間を、待ち侘びた」

 

 レオニールはエルザを離れさせ、俺と向かい合う。

 

 その瞬間――俺たちは、二人きりの世界へと入った。

 

 周囲の音がなにも聞こえない。

 人間の悲鳴や怒声、城の中で火の手が上がる音、そういったあらゆる雑音が意識上から遮断される。

 

 極限まで研ぎ澄まされた集中が、目の前の好敵手(ライバル)以外の情報を全て排斥する。

 

 静寂――。

 

 そして――――。

 

 

 

「「――――ッ!!!」」

 

 

 

 示し合わせたかの如く、俺たちは一気にお互いへ斬りかかった。

 

 剣と剣が激しく噛み合う。

 まるで龍虎が互いの肉体に喰い付いたかの如く。

 

 それよって衝撃波が発生し、王座の間全体が揺さぶられる。

 エルザも「きゃあ!」と悲鳴を上げ、吹き飛ばされないように身を屈めた。

 

「ク……ククク……!」

 

 あぁ……なんだか懐かしさすら感じるよ。

 この感触、この緊張感。

 

 紛れもなくお前(レオニール)の剣だ。

 

 でも、な――、

 

「どうしたぁ!? 守るべきモノを得て、強くなったんじゃなかったのかぁッ!?」

 

 俺はレオニールの剣を弾き、連続の斬撃を叩き込む。

 

 全力で、全身全霊で、本気で食い殺すつもりで、何度も何度も斬撃を叩き込んでいく。

 

 いつかの早朝、学園の校庭で手合わせをした、あの時と同じように。

 

 いや――あの時よりも、もっと激しく。

 

 さながら刃の洪水で押し流すかのように、殺意を込めた斬撃をとめどなく放ち続ける。

 

 そうだ、これまでとは違う。

 今までとは違う。

 

 今日が最期(・・)だ。

 お前か俺か、そのどちらかが死ぬ日だ。

 

 本当の決闘。

 本物の殺し合い。

 

 好敵手(ライバル)と認めた相手の命を、一切の情け容赦なく奪う瞬間。

 

 一切の誇張も嘘偽りもなく、俺は本気でレオニールを殺そうと猛然と斬りかかっていく。

 

 だが当然と称賛すべきか、レオニールはその斬撃をことごとく捌き切ってくる。

 

 俺の剣を完全に目で捉えている辺り、流石としか言いようがないな。

 

 しかし反撃の隙なんざ与えてやらん。

 俺はレオニールと鍔迫り合いに持ち込み、

 

「力を見せてみろよ、レオニール! でないきゃ、このまま押し斬っちまうぞ……ッ!」

 

 ギリギリと剣を押し込み、レオニールを圧倒していく俺。

 

 なんだよ、こんなモンかよ――。

 お前が手に入れた〝負けられない理由〟なんて、やっぱり――。

 

 一瞬、俺の中で安堵と落胆がない交ぜになった感情が芽生えかける。

 

 しかし――その刹那、

 

 

「では……ご覧に入れよう」

 

 

 剣を握るレオニールの手に、強大な力(・・・・)が宿る。

 

 次の瞬間――鍔迫り合いをしていた俺は、剣ごと身体を弾き飛ばされた。

 

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