【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】 作:メソポ・たみあ
「み…………見事だ…………オードラン男爵…………ッ」
地面に膝を突くレオニール。
その身体からは紅い血が流れ、ボタボタッと地面に滴り落ちる。
――致命の一撃。
刃が砕け散るのと引き換えに俺が放った斬撃は、確実にレオニールの胴体を断ち斬った。
もう――立ち上がることはできまい。
「ハハ……やっぱり、
レオニールは剣を床に突き刺し、身体を支える。
その口からは血反吐を吐きながら――それでも、笑っていた。
「なんで……だろうな……。負けたのに……清々しい気分だ……」
「レオニール……」
「…………ありがとう…………オードラン男爵……。最後まで……付き合って…………くれて……――」
グラリ、とレオニールの身体が揺れる。
そして力が抜けるように――そのまま、床へと倒れた。
「……ああ、お前も本当に強い〝
最後に、その名を愛称で呼ぶ。
お前は紛れもない好敵手《ライバル》だった。
決着の瞬間、俺とお前はほとんど完全に互角だった。
剣を振るう動きなんて、まるで自分を鏡で見ているみたいだったよ。
でもほんの僅かな――けれど
「……う…………嘘よ…………」
――離れた場所で、震える声が発せられる。
「噓噓噓噓噓……! ありえないでしょう……!? ふざけんじゃないわよ……ッ!」
エルザは血走った目を見開き、両手で頭を掻きむしる。
目の前の光景が信じられない――受け入れられないと言わんばかりに。
「ちょっとレオニール! は、早く立ちなさいよ! アンタは〝主人公〟でしょ!?」
半ば錯乱状態で怒号を飛ばし、レオニールへと呼び掛けるエルザ。
だが当然、レオニールの身体は動かない。
「ふざけんな……ふざけんなふざけんな、ふざけんなッ!!! アンタが死んだら、誰が私を幸せにしてくれるっていうの!? さっさと立って、この雑魚を殺しなさいよ!!!」
罵詈雑言が入り混じった、あまりに醜い叫び声。
王女としての気品など、既にどこにも残ってはいない。
「どうして……どうしてなのよ……!? アンタは、私を幸せにしてくれるはずなんでしょう!? 私はただ愛されて、幸せを享受できるはずなんでしょう!? なのに、どうしてこうなるの……!? 私は――幸せになっちゃいけないのッ!?!?」
「……おい、エルザ・ヴァルランド」
もはや聞くに堪えなかった俺は、奴の言葉を遮る。
「お前、まだ気付かないのか?」
「はぁ……!?」
「お前の
俺が言うと――コツコツという静かな足元と共に、レティシアが歩いてくる。
俺の、すぐ隣まで。
「……ねぇ、エルザ。あなた――どうして
レティシアが尋ねる。
憐れなモノを見る目で、憐れなモノへ向ける声で。
その一言を受けて――エルザの様相が一瞬で変わる。
レティシアは言葉を続け、
「なにがあなたを焦燥に駆り立てるのか、私にはわからない。きっと理解もできないでしょう。でももっとわからないのは……何故、レオニールの幸せを考えてあげないのか――ということよ」
「…………な……によ…………自分の幸せが一番大事だなんて、そんなの当然じゃ……!」
「ええ、そうね。私だってアルバンに幸せにしてほしいし、アルバンに愛してほしい。けれど――それと同じくらい
レティシアは、ギュッと俺の腕に自分の腕を絡ませる。
「……レオニールは、あなたをちゃんと愛してくれたのでしょうね。でもあなたは、そんな彼の愛情に応えたの?」
「――ッ!」
「〝
「…………う…………ぁ…………っ!」
「……あなたは、自分が幸せになりたいという欲求を満たすためだけに、都合よく他人を利用していただけに過ぎない……。本当に、レオニールも〝
「ち……違う……私は…………っ!」
「アルバンとレオニールの剣だって、きっと実力の差なんてなかった。あるのは
意志の込められた、力強い口調。
そんな声色の中には、僅かな――けれど明確な怒りが混じっている。
「……アルバンは私を全力で愛してくれる。だから私も全力で、命を懸けて彼を愛する。お互いの幸せを願う気持ちが、私たち夫婦を強くしてくれるの。だから私たちは――〝幸せだ〟って、胸を張って言えるのよ」
レティシアは淡々と語った後、キッと鋭い視線でエルザを見つめ――。
「〝自分だけが幸せになればいい〟……。そんな風に思っている時点で――あなたが幸せを手に入れる資格なんて、ないわ」
そう、言い切った。
ハッキリとした侮蔑を込めて。
「あ……………………あぁ……………………っ!」
顔色が真っ青になり、愕然とするエルザ。
ようやく気付いたのだろう。
〝自分だけが幸せになればいい〟という身勝手な考えが――最終的に、今の結果を生んでしまったのだと。
結局、本質的にコイツは自分以外誰も愛してなどいなかった。
そんな人間が、誰かから愛してもらえるワケがない。
きっとレオニールだって、エルザの本性に気が付いていたはずだ。
エルザは本当の意味で自分を愛していない、と。
最後の瞬間、
本当の意味での〝幸せ〟になんて……見放されて当然だったのさ。
俺がそんな風に思った、直後――。
「――――いやぁん、素晴らしいわ~レティシアちゃん。流石は〝救国の英雄〟の妻ねぇん♥」
パチパチパチパチ……という拍手と共に、見覚えのある人物が王座の間へと入ってきた。