【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第163話 新たな日課。小さな幸せ

 

「――アルバン、準備できたかしら?」

 

 我が愛しの妻が、部屋の向こうから訪ねてくる。

 俺はクローゼットの中から取り出したコートをだらだらと羽織り、

 

「ん~、もうちょい……。ふぁ~あ、面倒くさ……」

 

 あくび混じりに返事する。

 

 ぶっちゃけまだ眠い。

 っていうか怠い。

 一体なにが悲しくて、剣の稽古以外でこんな朝っぱらから出掛けにゃならんのか。

 

 あ~あ、ベッドの中で妻と一緒にごろごろぐだぐだとしてたいよ、マジで。

 

 などと思っていると、妻が俺の下へとやって来て、

 

「ほーら、だらしない顔しないの。そんな顔をしていたら、アルベール国王に笑われてしまうわよ?」

 

 いそいそとだらしない身なりを整えてくれる。

 

 面倒くささMAXの俺とは対照的に、外出用のドレスを着た彼女はシャンとしてピンとして身なりも完璧。

 綺麗な白銀の髪には、寝ぐせ一つない。

 

 そんなしっかり者の妻に、こうして世話してもらえるのが小さな幸せ……なんて言ったら、彼女に怒られるかもしれない。

 

「俺は別に笑われても構わないけど」

 

「あら、私は自慢の夫が笑われるなんて、とても耐えられないけれど」

 

「じゃあ……レティシアのためにも、シャキッとしなきゃだな」

 

 愛しの妻の――レティシアのためなら、面倒くささもなんのその。

 自分が恥をかくのは気にしないけど、妻に恥をかかせちゃ夫の名折れ。

 そう思って、心の中で自分の顔パチッと叩く。

 

 レティシアは俺の身なりを整え終わると、

 

「――ほらアルバン、少し頭を下げて」

 

「ん」

 

 ちょっと身を屈めた俺の頭部に手を回し、頭の後ろでキュッと紐を結んでくれる。

 そうして右目に被さる布の位置を微調整すると、

 

「うん、今日もよく似合っているわ」

 

「そりゃいつだって似合ってるさ。なんたって、レティシアが選んでくれた眼帯(・・)なんだから」

 

 眼帯姿の俺を見て褒めてくれるレティシアに対し、俺はニカッとはにかんで見せる。

 

 ――こんな風に、愛する妻に眼帯を着けてもらうのも、今やすっかり日課の一部となった。

 

 右目の視力を失った代償は決して小さくはないが、こうやってレティシアとのささやかな日課が増えたことを考えれば……悪いことばかりじゃないのかもしれない。

 

「それじゃ――行くか」

 

 俺は壁に立て掛けておいた新しい愛剣を手に取ると、個別棟の玄関ドアに手をかける。

 

 そしてガチャリとドアを開け、レティシアと一緒に部屋を後にした。

 

 

 

 ▲ ▲ ▲

 

 

 

 しばらく学園の敷地内を歩くと、アルベール国王が手配してくれた豪華な送迎用馬車が俺たち夫婦を待っていた。

 

「お待ちしておりました。さあどうぞ、お乗りくださいませ」

 

 なんとも品格のある御者のおじさんに誘われるまま、俺とレティシアは馬車に乗り込む。

 すぐに馬車は動き出し、学園を出て、城下町の中を進んでいく。

 

「……こうして見ると、王都ももうほとんど元通りになったわね」

 

 馬車に揺られながら、窓の外を流れる城下町の景色を眺めつつレティシアは言う。

 なんとも嬉しそうに、顔をほころばせながら。

 

 ――エルザ・ヴァルランドの反乱が起き、王都が火の海に包まれたのが、およそ半年前。

 

 アイツが残していった爪痕(・・)は、そりゃもう大きなモノだった。

 

 略奪や殺人による被害だけでも相当だったが、それ以上に深刻だったのは〝火災〟。

 

 人口密集地域……つまり人が住む建物が軒を連ねる場所は、一度火災が発生すれば瞬く間に周囲へと燃え広がっていく。

 

 王都は大まかに中央区・東区・西区・南区・北区に分かれているが、そのほぼ全てに火災の被害が出て、東区に至っては約60%の建物が焼失したらしい。

 

 死者も数千に及び、おそらくエルザの反乱はヴァルランド王国最悪の出来事として、後の世にまで語り継がれていくことだろう。

 

 だが……それでも人々というのは逞しいモノで。

 

 城下町に住まう市民たちは少しずつだが着実に復興作業を行い、以前と同じ日常を取り戻しつつある。

 

 実際、王城や王立学園のある中央区はもうほとんど復興を終えている様子だ。

 

 窓から外を眺めていると、通りを行き交う人々の顔にも笑顔が戻って来ているのがわかる。

 レティシアにしてみれば、それが嬉しいのであろうが――

 

「ああ……一時はどうなることかと思ったが、きちんと復興してくれてなによりだ。お陰で――」

 

「お陰で、またデートスポット探しができる?」

 

「そういうこと」

 

「だと思ったわ」

 

 クスクスッと笑い合う俺たち夫婦。

 やっぱり、彼女は俺のことをよくわかってくれてるよ。

 

 ――なんてやり取りをしている内に、馬車は王城の中へと入っていく。

 

 王城はまだ修復作業中で、今日も今日とて王族お抱えの建築職人たちが汗水を流している様子。

 

 城下町の一軒家を建てるのとは違って、威厳さと壮麗さが求められる王城を修繕するのは、神経質な作業を要求されるだろうからな。

 そう簡単に直せないのだろう。

 

 ……ちなみに、俺とレオニールが最後に戦った王座の間の瓦礫を撤去する作業は、もう終わっている。

 

 だが――エルザとレオニールの遺体は、結局発見できなかったそうだ。

 

 残骸も残らないほどバラバラのペシャンコになっちまったのか、それとも……。

 なんて、今考えても無駄だろう。

 

 ――キッと馬車は止まり、俺たちを待ってくれていた執事が乗降用のドアを開けてくれる。

 

「ようこそお越しくださいました、アルバン・オードラン男爵、レティシア・オードラン夫人。王城の中で国王がお待ちです」

 

 俺は「どーも」と返事すると馬車から降り、続けてレティシアの手を取って彼女の降車を手助けする。

 

 そうして執事に案内されるまま、二人一緒に城の中を進んでいき――とある一室へと辿り着いた。

 

 所謂謁見の間というヤツだが、生憎と正規の場所は修復中で立ち入り不可。

 なので、こじんまりとした接待室のような部屋を代わりに使っているっぽい。

 それでも十分広くて絢爛豪華な部屋だけど。

 

 そんな一室には――俺たちを待つ一人の美人な男性の姿があった。

 

「――ウフン、いらっしゃいご両人♪ 待ってたわよぉん♥」

 

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